ロンドンにおけるバスキング、すなわち街中での大道芸(ストリートパフォーマンス)のあとに帽子などを差し出し、客から投げ銭を集める行為は自治体発行資格に基いている。
この都市の大道芸人は、全員ライセンスを所持している。これは大道芸人同士の揉め事や犯罪行為を防ぐ目的で導入されたものだ。火や刃物を使ったパフォーマンスには、細かい安全規定が用意されている。ロンドン市が大道芸人たちを管理している、ということだ。
70年代のイギリスのように、国や自治体による過剰な公営化は都市の活力を削いでしまう。しかし一切の規制を省いてしまうのも問題だ。ある程度の規制がなければ、市場にいる者たちの保護もできない。ロンドン市長サディク・カーン氏は、大道芸人の保護政策に力を入れている。
現在、世界中で電子マネーの普及が加速している。これは社会の効率化を促すが、一方で大道芸人にとっては死活問題になり得る。今後、現金でのチップが得られなくなるかもしれない。そこでカーン氏は、スウェーデンのスマートフォン決済プラットフォーム「iZettle」と連携し、大道芸人のためのデジタル投げ銭に乗り出した。
このiZettleは、見物客がクレジットカード、スマートフォン、そしてスマートウォッチで投げ銭ができるシステムだ。ストリート歌手シャーロット・キャンベルが実証実験をしており、接触しない形での決済ができることによって受け取る額が相当増えた、という報告をしている。大道芸人にとっては己の収益が明確になり、見物客にとってはキャッシュレスのまま好きな芸人を応援できるというメリットが発生する。
その恩恵を受ける代わりに、大道芸人志望者たちは試験を受けてライセンスを取得し、ロンドン市が定めたガイダンスに従って活動する。当然、それに背けばライセンスを剥奪される仕組みだ。
パキスタン系イスラム教徒の市長が提示している都市モデルは、「ルールを尊重する自由」に基づいたものである。がんじがらめでも、無法状態でもない。保守と革新の枠組みすらも超越している。常に新しいテクノロジーを導入しつつ、越えてはならない一線はあらかじめ決めておく。その一線の内側は、笑顔の溢れる自由地帯だ。
【参照サイト】Busking goes cashless with ‘a world first’ for London
(※画像提供:Kelan Chad – Unsplash)