義手は「リアル」じゃなくていい。着用者の個性に合わせて開発する、人工義肢デザイナー

Browse By

「義足」や「義手」と聞いて、どんなイメージが思い浮かぶだろうか。多くの人は、肌感や形状をできるだけ生身の体に近づけた、“リアル”な義肢をイメージするかもしれない。

もしくは、2021年に開催された東京パラリンピックで、さまざまな競技の選手が身に付けていた、スポーツ用義肢。スタイリッシュでかっこいい装具に、目を奪われた人もいるだろう。

イギリスの人工義肢デザイナー、ソフィ・デ・オリヴェイラ・バラータが手がける義肢はさらにその上を行く。ジュエリーのようにキラキラ輝く義足に、植物の触手をイメージした義手。身に付ける人の個性を表現するだけでなく、身体に溶け込む唯一無二のアート作品だ。

 

この投稿をInstagramで見る

 

@thealternativelimbprojectがシェアした投稿

ソフィは、ロンドン芸術大学で義肢製作と特殊効果メイクを学び、その後医療用義肢装具メーカーで8年のキャリアを積んだ。そこで、アートと医療を融合させる仕事に出会う。義肢に対する社会的な障壁を取り除き、ポジティブな対話を促したいと、アートプロジェクト「Alternative Limb Project」を2011年に設立した。

彼女が生み出す義肢の最大の特徴は、既成概念にとらわれない独創性だ。ステレオが埋め込まれた脚、筋肉が取り外せる脚など、従来の義肢とは一線を画す。

たとえば、イギリス出身のモデルで歌手のヴィクトリア・モデスタが自身のPVの中で身に付けた義足もソフィによるもの。グラスファイバーとスチールで仕上げられた美しい義足で歩くヴィクトリアのパフォーマンスは、見る者を魅了する。

Viktoria Modesta - Prototype

Viktoria ModestaのPV「Prototype」より

3Dモデリング、エレクトロニクスなど最先端技術を取り入れるだけでなく、伝統的な技術と融合させたソフィの作品は、私たちが持っているボディイメージ(※1)やトランスヒューマニズム(※2)などのテーマも探求。彼女はこれまでパラリンピック選手、ミュージシャン、モデル、パフォーミングアーティストらとともに作品を作り上げてきた。

※1 脳の中にある、自分の身体に対するイメージ
※2 テクノロジーによって人間の身体と認知能力を進化させ、人間を超人的に向上させようという思想

ソフィはCNNの取材に対し「欠けているものではなく、彼らが持っているものを見るのが、このプロジェクトです。Alternative Limb(代替の四肢)を持つことで、人との違いを受け入れ、自分の手足であるという意識と力強さを生み出すことができます」と語っている。

華やかに見えるソフィの作品の一つひとつには、当事者の葛藤も含めた人生がある。「できるだけ自然な義肢を」という価値観が主流の中で、ソフィは身体の一部を失った人と向き合い、どう自分を表現したいのかを丁寧に聞き取る。そして、アート作品を生み出すという目的だけでなく、彼らがどうやって自分を受け入れ、前向きに生きていくかまでを後押しする。

ぜひ、作品の奥にあるストーリーにも思いを馳せてほしい。きっと、義肢に対するポジティブなイメージが湧き上がってくるはずだ。

【参照サイト】The Alternative Limb Project
【参照サイト】The Alternative Limb Project|Happiful
Edited by Kimika

FacebookTwitter