あなたはコウモリと聞いて、何を想像するだろうか。暗闇や、吸血鬼は少し古いかもしれないが、感染症などから良いイメージを持っている人は少ないのではないだろうか。
しかし、コウモリはその糞が植物のエサになったり(※1)、花粉を媒介したりするなど、自然界の生態系維持において重要な役割を担っている。IDEAS FOR GOODでは以前、アメリカ発のコウモリ用Airbnbをご紹介した。今回は、ヨーロッパにおけるコウモリ保護の2つの事例を見ていこう。
オランダに誕生したコウモリに優しい街路灯
コウモリに優しい世界初のLED街路灯が、オランダの首都アムステルダムの南方10㎞に位置するニーウコープ市に誕生した。 設計を担当したのは、世界的企業ロイヤルフィリップス社から独立したSignify社(旧称:フィリップスライティング)で、ヴァーヘニンゲン大学および現地NGOも共同研究を行った。
ニーウコープ市には多くの希少動植物が生息しており、周辺地域はヨーロッパの自然保護地域ネットワークである「Natura2000」の一部にも指定されている。ニーウコープ市は2011年に、最も高い持続可能性をもつ89棟の新築住宅の建設を発表したが、この土地は数種の希少コウモリの重要な餌場であった。コウモリに優しい革新的な街路灯は、この希少コウモリ保護を目的として開発されたのである。
通常の街路灯は、光に集まる習性がある昆虫だけでなく、コウモリの飛行や夜間行動に影響する恐れがあるが、この街路灯が放つ光は赤色で、コウモリが発する音波の周波数を妨げない波長を使用している。これにより、コウモリの飛行を妨げることなく、居住者には効率的なエネルギーで十分な明るさの照明を提供して、道路の安全性を確保しているのだ。
さらに、市は街路灯のエネルギー効率を上げ、コストを抑えるため、 Signify社のInteract Cityプログラムを採用した。居住者の希望に応じて、遠隔操作で街路灯の光の強度を調整できるというものだ。
深夜、人通りがない時には街路灯の光強度を抑えて、不要なエネルギー消費を減らす。一方、緊急サービスが必要なときには、明るさを迅速に引き上げることも可能だ。これらのシステムにより、従来の高圧ナトリウム(HPS)の街路灯に比べて最高70%のエネルギーを削減することに成功した。
オランダの街に誕生したコウモリに優しい街路灯。自然保護と持続可能性、そして最先端技術の融合で生まれた、新しいこれからの街づくりの一例だ。
コウモリへの配慮で中止になったクリスマスマーケット
そして、筆者の住むドイツのハイデルベルク市でもコウモリに優しい街の取り組みが行われている。
ドイツの南西部に位置するハイデルベルク市は、ドイツ最古のハイデルベルク大学や多くの研究所を擁する学術都市だ。また、街を見下ろす山の中腹には、古城街道のメインであるハイデルベルク城がそびえるドイツロマンの街である。
ドイツといえば、冬のクリスマスマーケットが有名だ。2年前まではハイデルベルク城の庭でも2週間、クリスマスマーケットが開かれていた。中世風の屋台で猪などの肉を食することができ、地元の美味しい食品を売る屋台が並び、特別なライトアップとともに、独特な雰囲気の幻想的な美しいマーケットであった。
しかし、2016年10月に、このハイデルベルク城でのクリスマスマーケット中止が発表された。
中止の理由はコウモリの数が半減したこと。ハイデルベルク城にはコウモリの巣がいくつかあるが、コウモリは騒音や光などに弱く、過去数年間でその数が半減したため、行政が中止の判断をしたのだ。その後、クリスマスマーケットは場所を市内の他の広場に移して、開催されるようになった。
ハイデルベルク城で開かれていた、過去と現在がシンクロするような美しいクリスマスマーケットの中止は、年間350万人の観光客が訪れる観光都市に少なからず打撃を与えることとなった。しかし、5年後、10年後、20年後、30年後に街の人々が残したいのは、街の文化商業活動の1つであるクリスマスマーケットではなく、自然を循環させるコウモリなのだ。
「希少動物の生息地を残したい。」それが、ハイデルベルクが出した答えである。
2つの街の例に見る、コウモリに優しい街づくり。人類の永遠のテーマである、私たちの生活文化の発展と自然界の動植物との共存において、私たちは何が本当に大切なのかを常に長い目で考えていきたい。そして、研究者の努力の賜物である最新技術をその架け橋にすることで、共存の道はさらに広がっていくだろう。
※1 ナショナルジオグラフィック「コウモリと食虫植物の奇妙な互恵関係」から
【参照サイト】Going bats: Dutch town is first in world to install bat-friendly LED street lights
【参照サイト】コウモリと食虫植物の奇妙な互恵関係
【関連ページ】コウモリのためのAirbnbが登場。自宅を害虫から守ってくれる「BatBnB」