虐待による、子どもの痛ましい被害が絶えない。統計によると、虐待によって死亡する子どもの数は日本で年間50人。1週間に1人の子どもが命を落としている計算になる(※1)。
もし虐待から逃れるために子どもと一緒に家を出るとしたら、と想像してみてほしい。どこへ逃げるか。子どもの荷物、自分の荷物をどうまとめるか。生活にかかわる諸処の手続きをどうするか。虐待をしている相手に気づかれないように、それぞれの手はずを準備するにはどうしたらいいか。少し考えてみるだけでも、かなり難しいことがわかる。
この問題を何とかしようと、カナダで立ち上がった人がいる。3児の父であるマーク・ハルジャクイン氏だ。2015年、子どもたちのために育児休暇を取っていた同氏は、米国に虐待からの避難をサポートする団体があること知ったが、カナダには同様の団体がないことを知り、自ら立ち上げることを決意。2016年4月、トロントで「シェルター・ムーバーズ(以下、ムーバーズ)」を設立した。
ムーバーズは、虐待被害を受けている女性と子どもに無料で避難の支援と荷物の保管サービスを提供している。2017年にはオタワでも組織を立ち上げ、2018年3月までに300件の避難をサポートした。
ムーバーズは、シェルターなどから避難のための移動の依頼を受けると、コーディネーターが依頼者本人やシェルター担当者と相談しながら避難プランを考える。レンタカーや通訳の手配、荷物の保管から安全確保に至るまですべてボランティアスタッフが行なう。多様な専門性や人種からなる約150人のボランティアが活動を支えているというから驚きだ。
避難する際、通常はスペースや自分で持ち運びできる重さなどを考慮すると、ごみ袋2袋分ぐらいの荷物しか持ち出すことはできない。しかし、ムーバーズでは複数人が搬出を手伝ってくれる上、保管もしてくれるので、生活雑貨はもちろん、子ども達のおもちゃ、大切な書類から家具に至るまで持ち出すことができる。また、虐待をするパートナーがいない隙をみつけて逃げ出さなくてはいけないが、ムーバーズは移動の際の安全も確保してくれるので安心だ。
カナダでも虐待問題は深刻だ。ムーバーズの調査では3人に1人が15歳未満で虐待を経験しており、中でも配偶者による虐待の経験のある人の83%が女性だという。近しい人から虐待によって殺害されている女性は6日に1人の割合になるというから、虐待問題の解決は喫緊の課題といえる。
虐待からの安全な避難は、ほんの最初のステップでしかないかもしれない。しかし、子どもたちと、そして大切な荷物と一緒に安全に抜け出すことができ、さらなるサポートを得る手がかりを得られることはその後の問題解決への大きなステップになるに違いない。
【参考サイト】Shelter Movers
【参照サイト】Discover How Shelter Movers Toronto Helps Abuse Survivors Rebuild Their Lives