「Alloha(アロハ)」というハワイでの挨拶は、あまりにも有名だ。このシンプルなひとつの言葉には、実は5つの意味が込められている。「こんにちは」「いらっしゃいませ」「ごきげんよう」「さようなら」そして、「愛しています」。
ハワイ語には、ひとつの言葉にいくつかの意味をもたせた言葉が数多く存在する。例えばこの「Alloha」を英語ひとつの単語で表そうとしても、完璧にその意味に当てはまる言葉は見つからないだろう。
そんなハワイの伝統的で美しい文化の一部でもあるハワイ語が今、世界から消えかけている。
消滅危機言語の最新情報を提供するEndangered Languages Project(危機言語保存プロジェクト)の調査によると、近年ハワイに住む人の約75%が英語を主要言語とし、ハワイ語のネイティブスピーカーの人数はたったの300人以下にまで減っているという。
この言語消滅の問題を身近に感じ、楽しく学ぶきっかけにしてくれるアプリがある。それが、拡張現実(AR)を用いたマルチ言語学習アプリ「Drops」だ。
今回、スペイン語やドイツ語を含む30ヶ国語の対応言語の中に、言語消滅危機にあるハワイ語が新たに追加された。アプリ内には重要な文化表現を含む約2,000のハワイ語が含まれる。これらの単語は、すべてハワイ語の翻訳者によって翻訳されたものであるという。
単語の中には、ハワイの「アロハスピリット」の概念である民族文化間の友情、理解、思いやりなどを伝えるために地元の人々が使用する手のジェスチャーである「シャカ」のような口語の言葉なども含まれている。
基本は1日5分の暗記学習で、ユニークな拡張現実(AR)を使った単語学習はゲーム感覚で言語を学ぶことができ、難しいイメージのある言語学習の障壁を下げてくれる。
イラストとともに出てくる単語をスワイプし、単語を「知っている単語」と「知らない単語」に分けていく。アプリの「ARビュー」をオンにすると、「知らない単語」がカメラを通して見た現実世界に表示される。こうして復習しながら単語学習を進めていくことができる、子供でも言語を楽しく学べるアプリだ。
言語をなぜ、守らなければならないのか。
「言語は、私たちが誰であるか、どこから来たのかという個々のアイデンティティにつながる」そう語ったのは、Dropsの共同設立者でCEOのDaniel Farkas氏である。
「ハワイ語はハワイ文化に込められた価値に結びついた言葉で、長い歴史を持っている。私たちはこれまで、多くの言語の消滅を見てきた。その中で、いかに文化を表現し、人々をつなぐ上で言語が重要かということを知っている。」
言葉が失われることは、それと同時に文化が消滅することを意味する。
UNESCO(ユネスコ)が発表した「Atlas of the World’s Languages in Danger(消滅の危機にある世界の言語地図)」によると、世界では今、約2,500に上る言語が消滅の危機にあるという。
実は日本の言語の中にも、なくなりかけているものがある。日本国内では、北海道のアイヌ語や沖縄の与那国語を含む8言語・方言が消滅の危機にあるとされている。言語消滅の問題は、日本人にとっても他人事ではないのだ。
言葉は生物学的な多様性を反映しているので、言葉の絶滅は人類にとっても大きな損失となってしまう。文化やアイデンティティを守るのは、私たち人間の役目である。
そんな今だからこそ、言語の大切さを認識させてくれる「Drops」のような、言語消滅の問題を少しでも解決するアイデアが、世界を少しでもより良い方向に導いてくれることを願う。