伝えたいから、伝えない。社会課題のデータをアートに変える「CHART project」

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いま、世界の食糧廃棄はどれだけ増えているのか。世界の森林はどれだけ減っているのか。社会課題の現状を分かりやすくためによく用いられるのが、データをビジュアル化したグラフやチャートだ。

しかし、いくらデータを綺麗に見やすく加工したとしても、その情報がその社会課題に興味がない人にまで届くことはめったにない。また、仮にその問題に関心を持つ人がグラフを目にすることがあったとしても、何か特別な理由でもなければそれを誰かにシェアしようとまでは思わないだろう。

社会課題を解決するための第一歩となるのは、その問題を一人でも多くの人に知ってもらうことだ。しかし、そもそも課題に関心がない人にはなかなか自分たちの情報が届かない。これは、社会課題の解決に最前線で取り組んでいるNGOやNPOの多くが悩んでいることではないだろうか。

この問題を、「アート」の力を使って解決しようとしているユニークなプロジェクトがある。それが、ソーシャルグッド専門のPR会社、ひとしずくが手がける「CHART project」だ。

CHART projectは、環境破壊や食糧廃棄などの社会課題を伝えるために用いられるデータのチャートやグラフの線だけを残し、そのうえに絵を描いたり立体の作品を作ったりすることでアート作品に生まれ変わらせるというプロジェクトだ。

ネガティブな印象がつきまといがちな社会課題に関するデータを、誰もが親しみやすいアート作品へと変えることで、気持ちよく観たり、触れたり、飾ったり、持ち歩いたり、シェアしたりできるようにし、今までその課題に関心がなかった人に考えるきっかけを生み出すこと。それがプロジェクトの狙いだ。

今年の9月には、日本最大のファッションとデザインの展示会「rooms EXPERIENCE」で、CHART projectとして初となる作品の展示が行われた。

rooms EXPERIENCEでのCHART project展示の様子。アート作品をモチーフにしたバッグなどのグッズもディスプレイされている。

東京都の温室効果ガス削減イメージをモチーフとした下記の作品は、株式会社tegusu代表の藤田雅臣氏の作品だ。ペンギンが楽しそうに飛び込みを楽しんでいる可愛らしい絵となっており、彼らの遊び場を守るためにも地球温暖化を食い止めなければと思わせる作りになっている。

藤田雅臣 株式会社tegusu 代表 / Director / Designer

東京の温室効果ガス削減イメージ 出典:東京都 「東京都環境基本計画」(2016年3月)

絵本作家・動物作家のかわさきしゅんいち氏が描くのは、「奇跡の海」とも称されるほど美しい自然を残しつつも、原発予定地として生物多様性が破壊の危機にさらされている山口県上関町に生息する希少生物、カンムリウミスズメの凛々しい姿だ。上関町で確認された希少生物252種のうち、原発予定地を生息地とする生物の比率は60%にも上っており、そのチャートをモチーフとして描かれている。

かわさき しゅんいち 絵本作家・動物画家

上関町で確認された希少生物252種のうち原発予定地を生息地とする生物の比率 出典:「レッドリスト上関2016」(発行:上関の自然を守る会/2016)

そしてイラストレーター・絵本クリエイターのaurinco(アウリンコ)さんは、アジアの開発途上国においていまだに前期中等教育を受けられていない子どもの割合を示したグラフを使い、子どもが楽しそうに本を読んでいるのを後ろから子供たちが羨ましそうに見つめている絵を描いた。不揃いな窓枠の高さに込められた秘密を知ると、「本を読む」ということさえ当たり前ではないことに、はっとさせられる。

aurinco(アウリンコ) イラストレーター、絵本クリエイター

前期中等教育を受けられない子どもの割合(男女平均)

上記は今回展示された作品のほんの一部だが、いずれもアート作品としての完成度が高く、そこに社会課題のデータが隠れているなど、言われなければ気づかないだろう。

実は、CHART projectには「Social Issue(社会課題データ)」「Square(正方形)」「Secret(伝えない)」「Share(共有)」という4つの「S」で始まるルールがある。

このうち、CHART projectの考え方を特に体現しているのは、「Secret(伝えない)」というルールだ。CHART projectの作品を観てもらうときは、どのようなデータが隠れているのかを極力伝えずに、まずは純粋にアート作品として楽しんでもらう。そして作品を見終わったあとに、その作品の中にどんな社会課題に関するデータが隠れているかを伝えることで、そのデータが持つ意味をより印象的に知ってもらうというものだ。

伝えたいからこそ、伝えない。「アート」というメディアを通じて社会の課題と一般の人々とをつなぐCHART projectは、社会課題を広く知ってもらうための新しいコミュニケーションの形を提示している。

また、「Share(共有)」というルールにもあるように、CHART projectでは誰もが自由に作品を制作し、非営利目的であれば自由にシェアすることができるよう、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスであることも要件としている。

ただ社会課題を示しただけのグラフやチャートよりも、美しいアート作品のほうがより多くシェアされるのは間違いない。一番大事なのは「届く」ことであり、最初のきっかけは「ただその作品が好きだから」という理由だけでよいのだ。

今後、CHART projectでは国内外でCHART作品を集めた展覧会の開催や様々な企業、団体とコラボレーションしながら事業を展開していくという。理念に共感して作品を制作・提供してくれる公式「CHARTist」も募集しているとのことだ。

「CHART projectを通じて社会課題データを身近に、かつポジティブに感じてもらい、その課題の解決に向けたアクションに繋がることを願っています。『社会に良いこと』をしたい、『何か社会に貢献したい』と思っている方が、まだ生まれていないアイデアをCHART projectを通じて生み出してもらいたいです。」

CHART projectを主宰するひとしずくの代表、こくぼひろし氏はこう語る。

「絵を描くことが好き、旅をすることが好き、場をつくることが好き、オシャレをすることが好き、芸術を鑑賞することが好き。そんな皆さんの『好き』をもっと活かして、社会をちょっと良くしたり、社会を良くしようとしている人たちを少しでも支えることができたら嬉しいです。」

CHART projectの根底には、「好きなことで社会貢献をする」という考え方がある。社会課題と聞くと自分とは縁遠い世界のことのように聞こえるかもしれないが、その課題を解決するための第一歩は、自分の大好きなことから始めればよいのだ。

アートやデザインが好きな方は、ぜひその感性を活かして、自分の作品で社会をもっとよくするための一歩を踏み出してみてはいかがだろうか。

【参照サイト】ひとしずく株式会社
【参照サイト】社会課題データをアート作品に変える『CHART project』を立ち上げたい!
【参照サイト】Instagram CHART project

(※画像提供:ひとしずく株式会社)