月曜日の朝、通勤電車に揺られ、うとうと目を閉じながら会社へと足早に向かう日々。仕事や飲み会などでせわしい一週間を終え、土日は家でぐたぐたしていたらまた憂鬱な月曜日の朝の繰り返し。
どうにかしたいと思いながら、こんな日々を悶々と過ごしている人にこそおすすめなのが、今年5月箱根にできたホテル「ビオテラスオルガニカ箱根」(以下、オルガニカ箱根)だ。
オルガニカ箱根は、「エシカルに生きる」というアイデアから生まれたホテルで、以下8つのキーワードをホテルのなかで体現している。
- フェアトレード(公平貿易)
- オーガニック(自然との共生)
- ナチュラルマテリアル(自然素材)
- クラフトマンシップ(後世に残したい職人技術)
- リサイクル(再循環)
- ウェイストレス(ゴミを少なく)
- ローカルトレード(地域貢献)
- ソーシャルベネフィット(社会貢献)を意識したライフスタイル
「エシカルに生きる」と聞くと、なんだか敷居が高く感じるという方もいるかもしれない。それに「オーガニック」やら「フェアトレード」、「リサイクル」といった取り組みが社会によいことはわかるが、宿泊する自分にとってどんなメリットがあるのかわからないという人も多いだろう。
オルガニカ箱根は、どのような想いでこの「エシカル」を押し出し、どんな体験を提供しようとしているのだろうか。表面的なコトバだけではわからないオルガニカ箱根の本当の魅力について、ホテル総支配人の益岡さんとホテル所有者である本荘倉庫と一緒に運営をする川口さんにお話を聞いてきた。
日常をそのまま持ち込んでリラックス
オルガニカ箱根では、歯ブラシを提供していない。ゴミを少なくするためはもちろんだが、お客さんに普段使っているアメニティーを持参してもらうことで、日常の延長線上としてリラックスして過ごしてもらうことができると考えているからだ。
ペットボトルや自動販売機も置かず、ウォーターサーバーを利用してもらうことで家でくつろいでいる気分になれる。
これらのサービスの原点には、ユニークな思いがある。オルガニカ箱根は、過剰なサービスは相手にとってマイナスになると考えており、アメニティーを毎日交換したり、多くの説明を必要としない人にマニュアルとおりにすべて話しをすることはしていない。
もちろん、サービスを必要としている人に対してはそれを与えるが、「与えること」と「引くこと」がちょうど半々のバランスになるように調整しているという。
宿泊客の8割が女性で、若い人から70歳くらいの方まで、東京近辺を中心にさまざまな人が癒しを求めて訪れている。
無理のないマクロビな食事で自然な自分を取り戻す
ホテルの楽しみの一つといえば、食事。オルガニカ箱根では、食事にもさまざまな工夫が凝らされている。
まず、玄米・穀物・野菜を中心に動物性・乳製品を使わないマクロビオティックな食事を提供している。
また、「オーガニック」という基準だけにこだわって海外製の値段の高いオーガニック食品を使うよりも、地産地消を心がけているのも特徴だ。オーガニックとは本来質素なものであるし、エシカルの基準も人間が無理をしないという考えが根底にある。
そして、食事の量もお客さんによって調整し増減している結果、ウェイストレスにつながっている。
月替わりで料理を替えており、訪れる方からも食事の評判がとてもいいという。オープンから3か月だがすでにリピーターの方もいるそうだ。
自然素材の家具やリネンからも力をもらえる
館内のアメニティーやタオル、家具もオーガニック製品だったり、エシカルな概念で作っている製品を中心に選んでいる。
カンボジア女性たちのハンドメイド石鹸やハーブ商品も扱っているが、それは自分を取り戻してしっかり生きているカンボジア女性たちを応援したいと思ったからだと、川口さんは語った。
オルガニカ箱根で体験できるカンボジアの伝統医療であるチュポンというハーブサウナも、自然の力を活用した癒しのひとつとなっている。もともと医療が発達していないカンボジアでは、クルクメールという調薬師がハーブから薬を調合していた。本来身体が健全であれば、それで十分に病気にならずに済むのだ。
こういった自然に寄り添ったモノに囲まれることで、心身ともに無駄な力を解き放つことができるのだろう。
一人より二人で。スタッフに対するエシカルな取り組み
「エシカルを生きる」というアイデアはゲストだけではなく、スタッフに対しても徹底している。総支配人の益岡さんは、「責任を一人で背負うと、大きなミスが多くなる」という。
そのためオルガニカ箱根では掃除やレストランの準備など、一人でおこなう作業を減らしている。一人でやると煮詰まってしまうが、二人ならば思考の動きが変わり、滞らないという思想からだ。
地球の脈を感じられる場所、箱根
オルガニカ箱根は、すべての部屋がオーシャンビューだ。和洋ある各部屋からは、相模湾が広がりさらに先には三浦半島が見渡せる。また、オルガニカ箱根は箱根で一番高台で営業している宿泊施設でもあり、海からのぼる朝陽や満月を目の前で見ることができる。
箱根の山と海に面した静かなテラスで朝食をとることもでき、どこにいても自然と一体になれる。
「箱根にこだわったつもりはないですが、箱根で一番高いところにある宿泊施設でマグマに近くて地球の脈みたいなものが感じられる場所」と川口さんが言うように、ぼーっと地球の鼓動を感じるのに最適な場所であると感じた。
同時に、オルガニカ箱根に流れる「静けさ」と「穏やかさ」は、建物のおかげだけではない。そこに訪れる方々のいい気が集まり、お客さんと一緒に作り上げているからこそ出せる雰囲気なのだ。
頑張りすぎないのが本来のエシカル
このホテルのアイデアを考えた川口さんは、もともと医療事業に従事しながら、食べすぎ、働きすぎで身体を壊し、最終的にはガンで命を落としてしまう人をたくさん見てきた。
ご自身も大腸がん、子宮がんを罹患した経験から、「1週間泊まれば病気が治る」ような施設を作るのが夢だったという。
「なにもないところでなにもしない。でもただぼーっとするのではなく、自然のなかで地球のことを考えてみる。なんとなく体調が悪いが原因がはっきりとわからず悩む人が、忙しすぎてなにも考えられない毎日から抜け出し、なにもすることができないので地球のことでも考えてみるか。自然とそんな風になってくれたらいいなと思いました」
そしてエシカルとは「人間の本能に基づき普通の生活をする。普通の思考回路を取り戻す」ことだと考えている。ゴミを減らすのも、自然を大切にするのも、フェアトレード(助け合う)も、すべて当たり前のこと。
そんな本来の精神状態に戻る場所が、ビオテラスオルガニカ箱根だ。
編集後記
巷ではエシカル商品がたくさん売られている。なかにはマーケティングのために「エシカル」というコトバが使われているものもあるだろう。
しかしオルガニカ箱根の場合は、表面的なコンセプトにとどまらずホリスティックな(全体的な)アプローチに基づいて作られているのが特徴だ。ホテルとしてお客さんに癒しを提供しリラックスしてもらう工夫をした結果、エシカルになっているだけなのだ。
そんなオルガニカ箱根は、宿泊施設であるが、日々の暮らしや消費スタイルを見直すきっかけとして機能している。まるで、子供の頃は当たり前に持っていた好奇心や行動力、素直さを取り戻す場所のようだ。
その場にいて時間を過ごすだけで浄化される場所、オルガニカ箱根。そこでリラックスした休日からまた忙しい日々に戻ったとしても、一度身体が覚えた「本来のわたし」に戻るスピードは前よりも格段に早くなるはずだ。それは一度あの空間に行って体験してみないと、わからない。
【参考サイト】ビオテラスオルガニカ箱根