「食の社会課題」と聞いて、何を想像するだろうか?フードロスや野菜の摂取不足、食料自給率や孤食化など、実は私たちの身近には「食」に関する問題があふれている。
そんな「食」に関する社会課題に触れ、さまざまな視点で食について考える場を提供する体験型のイベント「Social Good+食 Week(ソーシャルグッドな食ウィーク)」が、東京ミッドタウン日比谷で、9月18日〜9月28日の8日間にわたって開催された。
異業種トークと食のコラボレーション
さまざまな分野のプロフェッショナルが参加者と共に「食」の可能性を模索し、課題解決を目指すセッション「Food Q(フードキュー)」では、「食べる」「話す」を通して、スピーカーと参加者が、双方向で議論する場となった。狙いは、熱いトークと食のコラボレーションが、社会課題に対する向き合い方や未来の答えへの導きにつながることだ。
27日に行われたFood Qのテーマは、「食x社会課題〜様々な事象から食の現在と未来を考える〜」。異業種で活躍する6名の登壇者と参加者がライブ質問によって意見を交換し合った。
登壇者一覧
(ファシリテーター)霞ヶ関ばたけ代表/農林水産省官僚 松尾真奈さん
(スピーカー)株式会社コークッキング Co-Founder 伊作太一さん
(スピーカー)株式会社エブリー 執行役員 共同創業者 菅原千遥さん
(スピーカー)環境気象コンテンツサービスグループリーダー 鈴木孝宗さん
(スピーカー)カゴメ株式会社 サラダ商品部チーフ 湯地高廣さん
(スピーカー)ウェブサイト「フード・マイレージ資料室」 中田哲也さん
食の社会課題は山積みである
「日本は、年間645トンのフードロスがある」。そう日本の課題を提起したのは、飲食店のフードロスを消費者につなぐプラットフォーム「TABETE」を運営する株式会社コークッキングの伊佐さん。
スーパーで牛乳を買うときに、つい後ろに並べてある賞味期限が遠いものから取ってしまった経験を持つ方は案外多いのではないだろうか?フードロスの原因は飲食店だけでなく、生産・流通・小売・消費と、すべての段階に潜んでいる。「誰も悪くない」と同時に「全員に責任がある」複雑な問題構造が、解決を難しくしている。
また、農林水産省の中田さんは「フード・マイレージ」について、外国に比べると極めて数値が高い日本の課題を参加者に向けて説明した。国内の輸入農産物の生産に使われている、海外の農地面積は国内の2.4倍もの大きさである。食材が産地から食される地までの輸送に要する燃料やCO2の排出量をその距離と重量で数値化した指標であるフード・マイレージは、日々の食が地球環境とつながっていることを気付かせる。
材料の大量・長距離輸送はCO2の排出につながるので、なるべく近くで取れたものを食べることにより、食料輸送に伴う環境負荷を低減する対策が必要だ。
「地産地消の食材を購入したいが、なかなか手に入りづらい。忙しい中でも買えればいいんだけど・・・」と参加者からの意見対して「実は、地産地消の食材は最近、手に入れやすい環境になっている」と、中田さん。たとえば、直売所のような場所は各地域にたくさんあるし、スーパーでも地元の野菜を売っているコーナーもある。表示を見たり、情報収集をするなどの小さなことを気にする姿勢が大切だという。
さらなる課題も出た。若者の食への関心が減っており、「あなたは食の文化を受け継いでいると思いますか?」という質問に対して、30歳未満の女性の回答率は50%を下回っている。最近、昔に比べると若い女性は家庭で食を教わる機会が減っている状況だと、レシピ動画サイト「DELISH KITCHEN」を運営する株式会社エブリーの菅原さんは言う。サービスを通じて、食への関心を増やし、人々が料理を楽しめる動画作りを心がけたいと話した。
それぞれの企業に、できることがある
カゴメ株式会社の湯地さんは、食に関する社会課題に関して「種子から食卓まで産地や生産者の思いをつなぎ、届けていきたい」と話す。たとえば、消費者に「トマトの苗」を買ってもらい家庭菜園をしてもらうことで、家族みんなの会話が増えたり、それで野菜が好きになるなど、全国民が農家になるきっかけを今、つくっているという。
「気象データを使って課題解決につながった事例はありますか?」という参加者からの問いに対して、「食と気温は密接につながっている」と話すのは、環境気象コンテンツサービスの鈴木さん。気温が下回れば収穫時期も変わり、売れる食材も変わる。家庭菜園をやるときにも気象情報は必要不可欠であり、気温の変化を事前に把握することで商品需要の予測ができたり、物流の効率化でフードロスを防ぐことにもつながる。
各企業がそれぞれ課題解決への取り組みを話す中で、会場の参加者から、「ここにいる企業の活動がつながり、連携が深まれば食の社会解決に近付くと思います。」との声が上がった。異業種だからこそ、協力してできることがあるという気づきが会場全体に生まれた。
日常を変えることが、社会課題解決への第一歩
イベント終盤には、「料理をする行為が社会課題に一歩つながると思っています。」と、ファシリテーターの松尾さんから興味深いコメントがあった。外食ばかりしていると気付きにくいが、自分で料理をすることで、食材を買うときに変化が現れる。例えば、「今日はキャベツが高いから豪雨があったんだな」など、食材に想いを馳せるきっかけになるという。
コークッキングの伊佐さんも、食の社会課題を考えていくための手段として「料理」に注目している。同社では、ほぼ毎日社員のみんなで料理をし、一緒にお昼を食べることを大切にしているという。
「自分が口に入れるものに直接触れる機会は、料理をするか自分で栽培をするしかないのです。どんなに間髪的に農場や工場へ見学に行って食に対する意識を高めても、それを継続することは難しいですよね。だからこそ僕たちは、『日常』に注目しています。コミュニティの中でいかに食に触れるか、食を考える機会を増やせるか。理想は日常的に農業をすることですが、それは難しいとなったときに、最後の手段として『料理をすること』が有効だと思います。食材を使って自分の手で料理をすることで、失われていた食と自分をつなぐきっかけになります。」
食の社会課題を変えるきっかけは「日常」の中にあり、私たちひとりひとりにも、できることがあるのだ。
イベントに参加して
イベントに参加する前は、登壇者の方々のプロフィールを見ただけでは話の流れが想像できなかった。しかし、そんな異業種の交流だったからこそさまざまな視点で意見交換をすることができ、「ここにいる異業種がお互い連携すれば、問題解決につながる」という考えが、会場から生まれた。
また、トークセッションの途中で、隣の人同士で1分ほど感想を話し合う時間が設けられたが、開始したとたんに、たちまち会場内ではそれぞれの場所で熱い議論が始まった。ファシリテーターの松尾さんからの終了の合図がかかるまでは、会場にいた全員が真剣に目の前の問題と向き合い、「こんなにも真剣に食の社会課題について考えている人たちがいる」ということに感動した。会場に集まった全員の活動がつながり、連携が深まることこそが解決に近付くのである。
食の社会課題は、決して遠い問題ではない。コークッキングの伊作さんがお話しされていたように、ひとりひとりが「日常を変えること」が問題解決につながる一歩となる。みなさんも、まずは生活の中に料理を取り入れて、食材に想いを馳せる時間を作ることから、始めてみてはいかがだろうか。