海洋のプラスチック汚染問題がにわかに脚光を浴びているが、水産資源の枯渇問題も忘れてはならない切迫した問題だ。世界の人口が2050年には100億人に迫ると言われる中、魚ブームや中産階級の増加も伴い、魚の需要が大幅に増加している。
世界自然保護基金(WWF)の調査によると、マグロやカツオなどのサバ科は1970年と比べて約74%も減少しており、85%の水産資源が今も過剰に搾取され乱獲されている状況だ。冒頭述べたプラスチック問題も、水産資源の枯渇問題に拍車をかけており、漁獲量規制の動きが活発になってきた。
そんな世界が漁獲量規制に動く中、生まれたばかりのもう一つの動きがある。それは、アメリカのスタートアップ企業「GOOD CATCH社」がはじめた、魚の味がする植物由来の素材のみでヴィーガン(ビーガン)でも食べれる魚の代替品を作るというものだ。
GOOD CATCH社のミッションはたったひとつ「海洋の生命とエコシステムを守るための代わりの選択肢を提示する」ということである。目玉商品は「フィッシュフリーツナ」という、魚を使わないツナ。味も見た目も色も本物のツナとは大差ないのだから不思議である。彼らのホームページの中では「犠牲のない食」というキーワードが使われている。
魚にはDHAという優れた栄養素が入っているのが特徴だ。「このフィッシュフリーツナには、その優れた栄養素が含まれていないのでは?」そう心配する人もいるのではないだろうか。答えは「NO」だ。魚を使っていないフィッシュフリーツナにも、海藻から抽出したDHAが入っている。さらに、植物由来のタンパク質がふんだんに含有されていおり、ヒヨコ豆、大豆、えんどう豆、レンズ豆、そら豆、シロインゲン豆の3種類をある黄金比率で混ぜ合わせることで、ツナに限りなく近い風味になっている。
現在のところツナに関しては、3種類の製品が販売されている。そのままのシンプルな味の「Naked in Tuna」、地中海料理風に味付けされた「Mediterranean」、オイルやハーブで味付けされた「Oil & Herb」。その他にも、冷凍食品の「Crab Free Cakes」、「Fish Free Sliders」がある。パッケージはどれもおしゃれでSNS映えする。
2018年末までにはオンラインストアの「Thrive Market」と「Fresh Direct」にて販売される見込みだ。その後、全米各地の「Whole Foods Market」でも展開予定である。また、将来オーガニック認証を取得することも目標としている。
GOOD CATCH社では、フィッシュフリーの製品を手に入れやすく、本物のツナよりもお手頃な価格で販売するために日々、奔走している。いくら製品が素晴らしくても、値段が高かったり、特定のスーパーでしか入手することができずに家庭の食卓に並ばなければ、社会にインパクトを与えることはできない。
ヴィーガン食やマクロビオティック、昆虫食という、食をめぐる新しい動きが続々と出てくる中で、また新たな環境に優しい食が誕生した。肉の味がするヴィーガンフードはよくみられるが、魚はまだまだ珍しい。フィッシュフリーという言葉はまだ出始めたばかりだが、おそらく近い将来、日本でも手軽に入手できるようになるだろう。「フィシュフリー寿司」や「フィシュフリーツナおにぎり」などという和食が誕生する日も近いかもしれない。いずれにしても、魚消費先進国の日本でフィッシュフリーが流行る日が待ち遠しい。
【参照サイト】GOOD CATCH