スティーヴン・キングというアメリカの小説家がいる。映画「ショーシャンクの空に」の原作といった泣ける話も有名だが、彼の真髄はやはりホラー小説に表れる。例えばJust After Sunset(夕暮れをすぎて)に収録されているStationary Bike(エアロバイク)という短編は、健康のためにエアロバイクを始めた主人公の情念が膨れ上がり、奇妙な想像世界となって現実に襲いかかる様子を書いた作品だ。
イギリスにある映画学校Blaenau Gwent Film Academyの生徒たちは、そんな日常の中の恐怖を書いた同作品を映画化したいと考えていた。スティーヴン・キングの作品は今までも数多く映画化されており、特にホラー映画の制作に関わりたい若者にとって、同氏の作品を手掛けることはひとつの憧れだろう。そしてこの学生たちは、なんとわずか1ドルでStationary Bikeの映画化権を手に入れることができたのだ。
なぜそんなことが可能だったのだろうか。それはスティーヴン・キングが学生向けに、映画化しても構わない作品の一覧を公開しているからだ。このDollar Babiesと名付けられた一覧は、同氏のオフィシャルサイトに載っている。これを発見した映画学校の教員が連絡を取り、1ドルで契約を交わすことになった。その契約には「映画が完成したらDVDを送るように」という項目も含まれているという。スティーヴン・キングは、学生の作品をぜひ見たいと思っているようだ。
同氏は、このように学生に映画化権を与える取り組みを1970年代から続けてきた。なんと「ショーシャンクの空に」の映画監督フランク・ダラボンも、若いときにDollar BabiesでThe Woman in the Room(312号室の女)の映画化権を獲得したことがある。その後の作品でアカデミー賞にノミネートされるほど活躍するのだから、スティーヴン・キングの取り組みは、一人の青年にキャリアを積むきっかけを与えたと言えるだろう。
そして今回新たに、夢見る若者がスティーヴン・キングの作品の映画化に挑戦しようとしている。1ドルで契約したStationary Bikeの脚本を考えているのは、14歳と16歳の学生だ。映画やキャリアについて問いかけるのもあまり意味のないことに思えるくらい若い。それでもこのような未来を背負う青年たちがStationary Bikeの映画を作成することは彼らの自信となり、なにか善いものを人生に焼き付けることができるかもしれない。作品は来年の春に完成する予定だ。