2018年11月30日、ファッションブランドのユニクロを経営する株式会社ファーストリテイリングが、アジア46箇所にある「主要な素材工場のリスト」を公開した。これはどのような意味を持つのだろうか。
私たちが手にするファッション製品には、原材料の調達から製造、卸、販売に至るまで多くの企業が関わっている。所在地も国内外に及び、複雑さが増した結果、ブランドですら自社の商品がどこでどのようにつくられたかを把握するのが難しいという状況だ。だからといって、商品化の過程で起こっている問題まで「知らなかった」で済ませてよいのだろうか。
たとえば、2013年にバングラデシュで商業ビル「ラナプラザ」が崩壊した事件。ビルには私たちもよく知る有名ファッションブランドの縫製工場も入っており、死者は1,130人以上、負傷者は2,500人以上、行方不明者は500人以上にのぼった。事故原因はずさんな安全管理だ。
調査が進むにつれ、労働者が低賃金で働かされるなど、劣悪な労働環境であったことも明らかになったが、ブランド側は「そんな状況にあるとは知らなかった」と責任を否定。そしてニュースを見ていた消費者も、自分たちが着る服をつくっている人々が命の危険にさらされるほど酷い環境で働かされていたことを、そこではじめて知った。サプライチェーンの透明化は、いまもファッション業界の課題として挙げられている。
世界の年間の服製造数は約800億枚といわれている。ユニクロはそのうち13億枚を製造しているので、世界の服製造枚数の1.6%にあたる服を生産していることになる(※1)。そんなユニクロがサプライヤー(原材料の生産から加工、流通に至るまでの過程にかかわる取引先や二次委託先など)公開に乗り出した意義は大きい。
2015年には、中国にあるユニクロの製造工場に香港のNGOであるSACOMが潜入した。その調査では、労働者が長時間、低賃金で働かされていたことや、染色などに使われる化学物質が適切に管理されず、労働者の健康面への影響が懸念される状況だったことが報告されている。そこでSACOMと日本側のパートナーNGO、ヒューマンライツ・ナウはサプライヤーリストの公開を要請してきた(※2)。
これを受けて、ユニクロは2017年2月から「主要縫製(ほうせい)工場リスト」を公開。工場排水を定期的に検査したり、素材工場と協働でエネルギーや水の使用量の削減に取り組んだりするなど環境保全にも取り組んできた。今回、2次取引先である主要素材工場のリストまで公開したことは、この一連の取り組みをさらに前進させたことになる。
近年はナイキやパタゴニア、アディダス、H&Mなど他の大手ファッションブランドもネット上で製造委託工場を公開するケースが増えている。これにより、工場での問題発生時に発注先を特定しやすくなることはもちろん、大手ブランド自身も下請けの工場での労働環境に配慮しやすくなる。
サプライヤーリストの公開は、私たち消費者にとっても安心して服を買うことができるようになるための一歩だ。服の生産にかかわる人たちが健康で幸せな暮らしを営めるよう、さらなる取り組みの進展に期待したい。
※1 ユニクロ柳井氏「サプライチェーンをゼロからつくり革(か)える」超情報化時代の戦い方
※2 ユニクロ製造請負工場・短期的改善を超えた抜本的解決を / ユニクロ:主要取引先工場リスト の公開を歓迎し、一層のコンプライアンス推進を期待する。
【参照サイト】ユニクロ主要素材工場リストの公開について
【参照サイト】取引先工場リスト