今や日本でも朝食はごはんではなくパン派、という人が約半数を占めるという。それだけに、パンに含まれる添加物が気になっている人も多いのではないだろうか。
日本よりもパンを主食とする人が多いイギリスで、加工助剤や人工添加物を使っていないパン「リアルブレッド」を広めようというキャンペーンが2019年2月23日から3月3日まで行われている。このキャンペーンは2008年11月に、よりよい食べ物と農業のための同盟サステインと、『Bread Matters』の著者アンドリュー・ホワイトリー氏により立ち上げられた。
イギリスでも、パンを早く、低コストでつくるために、約80%のパンは大規模工場で、15-17%はスーパーでつくられている。その結果、添加物が入れられることも多いという。
キャンペーンでは、リアルブレッドを自分でつくってみること、もしくはリアルブレッドをつくる地元の個人経営のパン屋からパンを買うことをよびかけている。
健康のために添加物の入っていないリアルブレッドを選ぶことはもちろんだが、なぜ「地元」の「個人経営」のパン屋と限定したのだろうか。
理由の一つは地域経済の活性化だ。調査(※1)によると、地元の事業者に1ポンド使った場合、平均で76%は再び地元に投資されるという。そのため、地元で使われるお金は結果的に1.76ポンドに。同じ1ポンドをチェーンの大型スーパーなど地域外に拠点を置く事業者に使った場合は、地元に再投資される金額はわずか36ペンスになる。地域の衰退は日本だけではなくイギリスでも深刻な問題の一つで、日々の何気ない買い物が地域の未来を良くも悪くもしてしまうのだ。
次に地域コミュニティの活性化。地域に根ざしたパン屋は、孤立しがちなお年寄りや子育て中の親などが馴染みの顔に会ったり、立ち話をしたりする社交の場となる。「900万人以上が常に、もしくはしばしば生きづらさを感じている」という実態を受けて孤独担当大臣が設置されたイギリス。小さいながらも地元のお店が担う社会的な意義は大きいのだ。
そして最後に、環境への配慮だ。サステインによると、イギリスでは毎日1200万個のパンが運送されているという(※2)。工場から運び出されたパンは中央集荷場に集められ、そこから地域の集配所へと運ばれ、さらにスーパーへと運送される。地元でできたパンを地元で消費すれば、CO2の余分な排出を減らすことができる。
「すべてのパンを“人々の健康”と“地域”、そして“地球環境”にとってよりよいものにしていく」。シンプルなキャンペーンながら、込められた思いは奥深い。
キャンペーンサイトのイベントカレンダーをみると、イギリス全土で開催される楽しそうなイベントが目白押しである。初心者向けのパンづくり教室や、ビール酵母を使ったパンづくり教室、元祖天然酵母「サワードウ」を使ったサワードウパン教室、地元の無添加パン屋さんが集うマーケット。見ているだけで美味しそうなパンの香りが漂ってきそうだ。
地元の個人経営のパン屋でリアルブレッドを買う。ちょっと背伸びをすればできそうなアクションによって、地域で人々が生き生きと働き、暮らし、そして環境負荷も減らしていくことができるとしたら。何より、美味しいパンが家のすぐそばで食べられるとしたら。こんなに幸せなことはないのではないだろうか。
たかがパン、されどパン。パン選び一つで、健康が、地域が、未来が大きく変わる、いや、変えられるのだ。美味しそうなパンの香りと共に熱い想いを感じるキャンペーンだ。
※1 Sacks, J. Public spending for public benefit, New Economics Foundation, London, July 2005
※2 Calculated by Sustain from figures published by the Flour Advisory Bureau and Federation of Bakers.
【参照サイト】Real Bread Campaign