2019年3月17日(日)、『JAPANソーシャルビジネスサミット2019』が開催された。株式会社ボーダレス・ジャパンが主催となり、社会起業家によるトークセッション、未来の社会起業家によるピッチコンテストを実施。
イベントレポートの後編では、社会起業家を支える金融機関の取り組み、そして、ピッチコンテスト(スタートアップが自社の事業計画や将来性を短時間で端的に伝え、投資家から出資を募るコンテスト)のようすを取り上げる。
▶イベント前編はこちら:【JAPANソーシャルビジネスサミット2019レポ前編】社会起業家が語る、グローバルとローカルから見た日本の今
トークセッション3 「共に新たな社会をつくる」
ビジネスで解決すべき地域の課題と地域金融の新たな役割
三つ目のトークセッションでは、地域の金融機関に焦点を当てた。資金、物資、人などさまざまな側面で起業家をサポートする彼らは今、サポートに止まらず自ら動き変わろうとしている。
地域と関わりの深い信用組合の中でも、特に起業家支援に積極的な三つの信用組合の活動事例、そして日本が今後向かうべき金融機関のあり方について見ていこう。
セッション登壇者
- Facilitator:株式会社eumo 新井和宏氏
- Panelist:第一勧業信用組合 新田信行氏
- Panelist:いわき信用組合 本多洋八氏
- Panelist:飛騨信用組合 古里圭史氏
- Panelist:日本経済大学 学長 都築明寿香氏
- Panelist:株式会社トビムシ 代表取締役 竹本吉輝氏
地域発の起業家を創出するための土台づくり
止まらない少子高齢化、人口減少……。今の日本が抱える課題は、とりわけ地方では重要な問題となっている。飛騨信用組合の古里氏によると、岐阜県の飛騨・高山地域は年々少子高齢化に伴う人口減少が急速に進んでおり、統計上他の地域より10年先を行くそうだ。さらに飛騨高山地域には大学がひとつもないため、名古屋や東京など都市部に人が流れて行く構造になっており、地域に根差した活動をする起業家が誕生しづらい。
この課題に対し、飛騨信用組合は子会社としてベンチャーキャピタルを設立。エクイティやメザニンをはじめとする資金供給をすべて網羅するなど、地域に起業家が生まれやすい仕組みづくりに力を入れている。
岩手県いわき市を拠点とするいわき信用組合は、クラウドファンディングや投資ファンドを立ち上げ、地域での起業・創業を支援する活動をおこなっている。中でも力を入れて取り組んだのは、U・I・Jターンの呼び込みだ。いわき信用組合の本多氏は、地域での成功事例をこのように語る。
「いわき出身で起業の志がある方が、いわきで起業する仕組みがないために都市で起業・創業してしまう傾向は以前からありました。いわき出身の人が地元で起業して持続的に運用できるよう、起業しやすい仕組みづくりに努めました。今は地域振興ファンドで投資をえた会社は7社。すべてU・I・Jターン事業者が関与している事業なんです。いわきの地域で起業家支援の成功事例が出てきたので、これからもさらにベンチャー支援をしていきたいと思っています。」
信用組合はサポーターであると同時に、プレイヤーであれ!
信用組合は起業家を資金面からサポートするイメージが強いが、最近では信用組合が自ら先陣を切って地域の活性化を促進する動きを見せている。
岐阜県の飛騨・高山エリアを拠点とする飛騨信用組合では、金融業界初の試みであるデジタル地域通貨「さるぼぼコイン」を発行している。地域の経済活動を活発化させるため、飛騨高山地域限定で使えるデジタル通貨だ。さるぼぼコインの主導者でもある飛騨信用組合の古里氏は、地域のために自らがプレイヤーとなって動く面白さについて語る。
「地域で流通するデジタル通貨の事業は、自分たちがプレイヤーとなってやっているんですね。起業家に対しては支える側に回りながら、時には自分たちがプレイヤーになって支えられる。地域金融は、まさにソーシャルビジネスなんですよね。客観的な立場にいるのではなくて、地域の中でソーシャルビジネスを育てるプレイヤーとして存在しているのではないかなと思いますし、そこが面白いです。」
信用組合は地域と一体である。そう語るのは、第一勧業信用組合で理事長を務める新田氏だ。「信用組合は金融機関である前に、地域の組合なんです。信用組合の資本は地域の組合員からの出資金で、信用組合の預金は地域の組合員からの預金で成り立っています。つまり、地域が滅びると私たち信用組合も自動的に消滅します。私たち自身が地域の一部なんです。」
地域の信用組合はサポーターに止まらない。地域の課題を自分ごと化して動き続ける必要があるのだ。
金融業界をもっと多様に、サステナブルに
地域ごとに信用組合の革新的な取り組みが生まれている一方、日本の金融業界に対する危惧もあるという。第一勧業信用組合の新田氏は、グローバルな視点で見たときに浮き上がる日本の金融機関の閉鎖性と均一性に危機感を覚えたそうだ。
「金融機関にも多様性が必要だと思います。アメリカでは6,500もの信用組合、フランスやドイツ、イタリアも何千という信用組合がある一方、日本はまだまだ少ない。多様性を持つことで、共創を生み出せる金融機関が増えるといいなと思っています。」
「世界にはサステナブルで、価値ある金融機関があります。たとえば、オランダのTriodos bankはクリーンエネルギーに、ドイツのGLS Bankは学校とまちづくりに特化して融資・投資をおこなっています。世界をみると、実はこれが金融の最前線です。」
社会全体がサステナブルになるために、日本の金融機関もアップデートしていく必要がありそうだ。
ファイナルピッチ:ボーダレスアカデミーから誕生した未来の社会起業家たち
本イベントでは社会起業家によるトークセッションに加えて、未来の社会起業家たちによるファイナルピッチがおこなわれた。ボーダレス・ジャパンが運営する起業家養成所『ボーダレスアカデミー』では4ヶ月で起業のイロハを学び、社会問題を解決するビジネスプランを完成させる。
今回はボーダレスアカデミーの第1期、50名の卒業生の中から最終選考まで勝ち残った8名が想いのこもったファイナルピッチを実施。それぞれがテーマに掲げる社会課題に対し、論理的に示したビジネスプランと解決策を情熱をもって述べ、会場の聴衆を惹きつけた。
優勝は「ヤングケアラーを救うオンラインコミュニティー」 宮崎 成悟氏
優勝は、ヤングケアラー(若年介護者)を救うオンラインコミュニティーと就職支援ができるポータルサイトを提唱した宮崎 成悟氏に決定した。ヤングケアラーとは、若くして家族の介護を担う子どもたちを指す。
日本であまり浸透していないが、高校生の5.2%、つまりクラスに1人の割合がヤングケアラーに該当する。宮崎氏自身も元ヤングケアラーで、当時感じた孤独感を原体験としてうまれたビジネスアイデアだ。共通の悩みを抱えたヤングケアラーが集まり、励まし合い、ときには助け合うコミュニティを作ることで彼らの孤立感を払拭し、さらには彼らが仕事を手にしやすいよう就職の支援をおこなう予定だ。
社会課題に本気で向き合う未来の社会起業家を輩出するボーダレスアカデミーとその卒業生、今後の動向に注目したい。
なお、ボーダレスアカデミー第二期を2019年4月8日〜22日の間に募集するそうだ。解決したい社会課題がある、社会起業家を目指している方は、ぜひチャレンジしてみてはいかがだろうか。
編集後記
社会課題に取り組む社会起業家と、彼らをさまざまな側面で支える金融機関。サポートはもちろん、金融機関が地域の課題に直接取り組む姿勢も欠かせない時代になっているのだろう。まだ日本の地域や金融機関が抱える問題は大きい。だが確実に、さまざまなセクターが自らの役割を拡張しお互いを助け合うムーブメントができつつあると感じられるイベントであった。
イベントに参加した未来の社会起業家たちは、社会起業の先輩たちの金言に後押しされ、さらに高く飛躍していくことだろう。