「誰もが世界を変えられる」ソーシャルビジネスの第一人者たちが投げかけた3つのメッセージ

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社会課題に関心を持ち、何か行動を起こしたいと考えても、「何をしたらいいかわからない」「自分には無理かもしれない」と思い、なかなか行動に移せないという人も多いのではないだろうか?

そんな人たちに向けて、ソーシャルビジネスの第一線で活躍する方々が力強いメッセージを送るイベント「ソーシャル・ビジネス・フォーラム2019」(主催:有限会社トラスト)が、東京・日本橋で11月20日に行われた。一堂に会することが珍しいソーシャルビジネスの第一人者が集結したイベントの様子をレポートする。

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ソーシャル・ビジネス・フォーラム2019が行われた会場の様子。開演時には、定員500名の会場が満席となった。

ソーシャルビジネスに関わる第一人者が集結

まずは、ゲストスピーチを行った6名の方々を紹介したい(プロフィールは一部抜粋)。

  • ムハマド・ユヌス氏:グラミン銀行の創設者で、2006年ノーベル平和賞受賞。
  • スプツニ子!氏:2013年よりマサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボ助教を務め、現在は東京藝術大学デザイン科准教授。2019年TEDフェローに選出。
  • 田坂広志氏:経営者やリーダーを対象にした「田坂塾」を主宰。
  • 田口一成氏:25歳で独立し、ソーシャル・ビジネスしかやらない会社ボーダレス・ジャパンを創業。2019年11月現在、31の事業を世界10か国で展開。
  • 田瀬和夫氏:企業、政府、自治体、国際機関、NGO、学術界、ユースなど様々な主体をつなぎ、SDGsが目標とする人類の幸せ(Well-being)の形を追求するSDGパートナーズ(有)代表取締役CEO。
  • 岡田昌治氏:九州大学SBRC特任教授。2008年よりムハマド・ユヌス博士とソーシャル・ビジネス推進プロジェクトに取り組む。

パネルディスカッションでは、社会課題に熱く向き合う以下の3名の方が登壇した。

  • 兒玉久美氏:一般社団法人グラミン日本 理事。
  • 福澤久氏:社会的マイノリティ(LGBTQ、障がい者、ひとり親、出所者など)の人達が抱える「働きづらさ」を事業を通じて解消することを目指す、株式会社マイソル代表取締役。
  • 福寿満希氏:花のビジネスを通し、障がいや難病等と向き合う人々を積極的に雇用し、多様な人材が認め合い活躍できる社会を目指す、株式会社LORANS.代表取締役。

ソーシャルビジネスとは?

ソーシャルビジネスとは、社会問題への取り組みを「ビジネス」という手段で行い、それを通して新たな社会的価値を創出しようとする取り組みのことである。今回のイベントでも、それぞれの言葉でソーシャルビジネスが定義されていたので紹介したい。

ボーダレス・ジャパン 田口一成氏「(一般的な)ビジネスは効率の追求で成り立っており、その効率から漏れてしまう人たち、場所、出来事が数多くあります。そういった非効率をも含めたビジネスをリデザインすることが、根本的な解決になるのではないかと思っています。よりインパクトを出すためには、経済的に自走できる仕組みも必要です。そういう意味で、社会課題を新しくデザインしていくビジネスが必要になると考えています。」

ムハマド・ユヌス氏「ビジネスで得た利益を自分たちのために使わず、問題を解決するために使う、それがソーシャルビジネスです。」

SDGパートナーズ(有) 田瀬和夫氏「企業の存在意義は、継続的に金を稼ぎ利益を得ながら、社会に善をなすことです。ですので本来は、すべてのビジネスがソーシャルでなくてはいけないと考えています。」

「ソーシャル・ビジネス・フォーラム2019」 3つのメッセージ

どのスピーチもパネルディスカッションも、心に刺さる素晴らしいものばかりだったのだが、今回は「ソーシャル・ビジネス・フォーラム2019」の全体を通して筆者が受け取った3つのメッセージを、登壇者のスピーチを織り交ぜて記したい。

1. 課題をどう捉えるかが重要

社会課題を解決するビジネスを作る前段階として重要なのは、「課題をどう捉えるか」という視点だ。

その視点を持つ上でアートが大きな役割を果たすことを、東京藝術大学デザイン科准教授のスプツニ子!氏のスピーチで強く実感した。スプツニ子!氏は「スペキュラティブ・デザイン(問いを立てるデザイン)」を研究しているアーティストで、テクノロジーやバイオに潜む課題や問題をデザインを通して描き出し、問題提起することをライフワークとしている。スプツニ子!が関わった作品例として、実在する同性カップルの遺伝情報から出来うる子供の姿・性格等を予測し家族写真を作り上げた「(IM)POSSIBLE BABY, CASE 01: ASAKO & MORIGA」(スプツニ子!氏が指導したAi Hasegawa氏の作品)、2018年に露呈した東京医大の入試で女性受験者が減点された問題を切り口に、痛烈な皮肉で男女差別の問題をあぶりだす「東京減点女子医大(TOKYO MEDICAL UNIVERSITY FOR REJECTED WOMEN)」などが紹介された。

スプツニ子!氏は語った。「私がいつも大事にしているのは、『人の発想が変われば、世界は変わる』というフレーズです。私たちがいるこの世界にあるものはすべて、誰かの発想によって生まれています。ということは、人の考え方や価値観を少しでも揺さぶることができたら、そこから生まれる世界も変わるはずです。私の場合はそれを、デザイン・映像・写真といった作品を通してやっています。」

スプツニ子!氏

東京藝術大学デザイン科准教授のスプツニ子!氏。

一方、SDGパートナーズの田瀬和夫氏は、SDGs(持続可能な開発目標)をビジネスで活用する際、17目標を個別に捉えず、連関を理解する重要性を指摘した。「SDGsの各目標はバラバラに捉えられ、今やっていることと紐づけるだけで思考停止してしまうことが多くあります。実際はそうではなく、17の目標は連関しており、1つが解決したら他が深刻化したり、そもそも複数同時でなければ解決できなかったり、といった複雑な関係を持っています。その中に、ドミノ倒しのように物事が動いていく起点となる『レバレッジ・ポイント(梃子の力点)』が存在します。そのことに気づき始める会社も出てきています。」(田瀬和夫氏)

また、SDGsの歴史や文章を読み解き、「世代を超えて」「すべての人が」「自分らしく」「よく生きられる」というSDGsの世界を明らかにした。「企業がSDGsを取り扱う際には、ただ17個の目標だけを考えるのではなく、その先にある『世代を超えて・すべての人が・自分らしく・よく生きられる』世界に対してどう貢献できるのか、すなわちパーパスを考えないと、SDGsに取り組む意味はないのです」と田瀬氏は語った。

田瀬氏

SDGパートナーズの田瀬和夫氏。

2. 課題を解決するようにビジネスをデザインする

社会課題を解決するためにビジネスを始めようとしても、途中で目的が利益に差し替わってしまうこともあるが、それでは意味がない。重要なのは、課題を解決するためのビジネスをデザインすることだ。

ボーダレス・ジャパンの田口一成氏は、貧困農家にオーガニック・ハーブの生産してもらい妊娠中や授乳中の女性向けのハーブティーとして売る「AMOMA natural care」のビジネスを説明しながら、ソーシャルビジネスの作り方を解説した。「ビジネスモデルを作る前に、まず、社会をどうしたいかという『ソーシャルコンセプト』を作ることがとても大切です。そのうえで現状を明らかにし、現状を理想に変える『HOW』の部分を考えます。このとき、現状の課題に対して対策を打つのではなく、課題の裏にある原因を捉えて、原因に対する対策を打たなけければいけません。原因がわかれば、対策となる『HOW』の部分は見えてきます。この『HOW』の部分をビジネスモデルに落としていくという順番です。」

さらにこのとき、社会へのインパクトを測る指標(ソーシャルインパクト)を設定し、月次の決算の際に売上・利益と共にチェックしていく。社会のために始めたことがいつの間にか売上・利益のためだけになってしまうということがなく、本当に社会に対してインパクトを出し続けるために、指標の設定が重要だと指摘した。

田口氏

(株)ボーダレス・ジャパン代表取締役社長の田口一成氏。

ムハマド・ユヌス氏は、バングラデシュの貧困問題を解決するために、従来の銀行とは異なり、スタッフが毎週、家に直接出向いて女性にお金を貸し、主に女性たちがビジネスをすることを支援してきたグラミン銀行の活動を紹介した。グラミン銀行は2008年にアメリカにも進出し、アメリカで貧困に苦しむ女性たちを救っているという。バングラデシュや他国での活動を経て、「貧困は貧しい人々によって作られるのではない。システムによって作られてしまう」と結論づけ、「貧しい人のいない世界を作るために、システムを変えなければいけない」と訴えた。

そして、世界の大きな課題として「環境」「富の集中」「失業」の3つを挙げ、新しい目的地に行くためには今までとは違う道を作らなければならないと語った。「今我々は、ドルマークを脱ぎ捨てて、本来の人間性について考えなければいけないのです。ドルサインだけがある眼鏡ではなく、ドルサインと人間性の両方があるダブルフォーカスの眼鏡に替えようということを私たちは提案しています。お金を稼ぐことはハッピーだけど、人を幸せにすることはスーパーハッピーです。問題解決に集中しさえすれば、人間に不可能なことはありません。」

ユヌス氏&岡田氏

ムハマド・ユヌス氏と対談する、九州大学SBRC特任教授の岡田昌治氏。

3. できるかできないかではなく、「やるかやらないか」

ソーシャルビジネスをやってみたいと思っても、自分には無理ではないかと諦めてしまう人も多い。それに対しても、力強いメッセージが投げかけられた。

ボーダレス・ジャパンの田口一成氏は、誰でもやり続ければ成功できる、目的に直結したビジネスモデルを作ればやり続けることができる、と語った。「事業で失敗する人と成功する人がいますが、正確に言うと『やめるかやめないか』です。やめない限り、成功への途上です。それでも多くの人がやめてしまうのは、『社会づくりに直結したビジネスモデル』ではなく、儲けられそうなマーケットに飛び込んでしまうからです。ソーシャルコンセプトを作り、目的に直結したビジネスモデルをしっかり作れば、やりがいを見失わずやり続けることができます。そして、やめなければ成功できます。」

さらに、ソーシャルビジネスで起業する仲間を増やしたいという思いをこう語った。「社会起業家が誕生する社会システムをもっと作っていかなくてはいけないと思います。社会起業家が増えれば増える分だけ、解決される社会課題は増えるということなので、その仲間がたくさん増えるといいなと思います。」

パネルディスカッションに登壇した、起業7年目の株式会社LORANS.の福寿満希氏も、まず始めることの大事さを実感を持って語った。「ビジネスを実際にやったことが、一番の勉強になりました。どんな会社を作りたいか、どんなことをやりたいかが定まったときに、あとから仲間ができました。まずは自分がやれること、身の丈に合ったことからでも、精一杯やってみることがスタートになります。」

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パネルディスカッションに登壇した、(右から)グラミン日本の兒玉久美氏、株式会社マイソルの福澤久氏、株式会社LORANS.の福寿満希氏。

ムハマド・ユヌス氏は、「すべての人が、ソーシャルビジネスをデザインする能力を持っています。クリエイティブな過程ですが、専門家やコンサルタントは必要ありません。あなたにもできるし、私にもできる。皆ができるのです」と語った。

さらに、子どもに伝えたいメッセージを問われ、こう語った。「子どもたちには、どんな世界を作りたいかを語り、問いかけたいです。そして、人生の目的は何かについて考えさせます。大人になると『就職して誰かに雇われる』、『自分で新しい仕事を作る』という2つの選択肢がありますが、学校で良い成績を取って、良い卒業資格をもらって、大企業に就職する、というのは人生の目的地ではありません。人は誰かのために働くものではありません。独立した生き物です。ビジネスをすることでお金が生まれ、社会の問題を解決できるようになります。すべての人が起業家になれば富の集中は起こりませんし、しかもそれがソーシャルビジネスの起業家であれば、社会問題も解決します。」

そして最後にこう述べた。「誰もが一人ひとり、世界を変えられる能力を持っています。やってくれる誰かを待つ必要はないのです。私たちの中に力はあるのです。」

ムハマド・ユヌス氏。

ムハマド・ユヌス氏。

編集後記

6時間という長丁場でありながら、退屈することはまったくないほど刺激的なスピーチ続きのイベントだったのだが、会場の熱気は伝わっただろうか。数々の熱いスピーチから受け取った、「課題をどう捉えるかが重要」「課題を解決するようにビジネスをデザインする」「できるかできないかではなく、『やるかやらないか』」という3つのメッセージ。中でも特に強烈だったのは、ムハマド・ユヌス氏の「誰もが一人ひとり、世界を変えられる能力を持っている」という言葉だ。

誰もがソーシャルビジネスで起業し、社会課題を解決することができる。そのためには常に課題にアンテナを張り、自分が取り組みたい課題を見つけたら迷わず取り組むという姿勢を忘れないようにしたい。

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