社会的弱者、そして花好きなすべての人に幸せの輪を広げる。シンガポールのフラワーショップ「BloomBack」

Browse By

花を贈ったり受け取ったりすることは、ちょっとした非日常である。記念日でもない普通の日に花をプレゼントされたら、驚きと同時にとても嬉しい気持ちになる。

そんな日常の幸せを、自分の家族からお年寄り、病院患者の方、そして街ゆく花好きなすべての人に届けているプリザーブドフラワーショップがシンガポールにある。それが「BloomBack」(ブルームバック)だ。

ブルームバックは、シングルマザーや虐待を受けた方など、社会的または経済的に恵まれない女性をトレーニングし、現在スタッフの約30%を占める割合で雇用しているソーシャルビジネス(社会的企業)である。

海外から輸入したプリザーブドフラワーをブーケやチャームに加工し、主にオンラインで販売している。ほかにもプロジェクトベースで、結婚式場やイベント会場から廃棄された大量の花を引き取り、小さなブーケにし、病院や乳がん財団の患者の方などに無料で配る活動もおこなっている。

今回、シンガポールにあるブルームバックを訪ね、創業ストーリーからフラワービジネスに込めた想いまで話を聞いてきた。

Image via BloomBack

花を使ったソーシャルビジネスのきっかけは、姉

創業者のHazel(ヘーゼル)は、なぜ花を使ってソーシャルビジネスを興したのだろうか。そこには身近にいる大切な人を想った原体験がある。

ヘーゼルの姉Faith(フェイス)は、視覚と聴覚に障害があり、鬱の症状もあった。そんなフェイスは花が大好き。そこで彼女を喜ばせるため、友人の結婚式から持ち帰った大量の花で小さなブーケを一緒に作り、一人で住む高齢者や貧しい人たちに手渡しに行った。フェイスやブーケを受け取った人たちの笑顔を見てヘーゼル自身も嬉しくなり、「もっとこの輪を広げたい」と、2017年にブルームバックを創業することにした。

「花を買う余裕のある友人や知人ではなく、花のヒーリング効果を本当に必要としている、社会から取り残された人たちに渡したかったのです
」とヘーゼルは答えた。

Image via BloomBack

そんなヘーゼルは以前、フライトアテンダント、そしてファイナンシャルプランナーとして働いていた。異色のキャリアからビジネスオーナーになって、一番大きな変化はなんだろうか。

「ファイナンシャルプランナーは一点集中する業種です。一方、ビジネスオーナーは経営から広報、人事まで全体像を見ないといけない役割です」。

大きなキャリアチェンジであるが、ヘーゼルの強みである「物事をやり遂げ、自分や周りにいる人の成長を促進する力」によって、わずか約一年で多くのメディアから注目を集めるソーシャルビジネスの一つになった。

(左端)Hazel、(右から2番目)Faith Image via BloomBack

「ビジネスを推進するにはできるだけ効率性を目指す一方、一人ひとりが向上し成長し続けなければなりません。そうすることで、自分の仕事に価値を付加できるだけではなく、自分自身についてより深く知ることができます」。

起業家としての彼女の挑戦は、まだまだ続く。

幸せにできる人を増やすため、ビジネスを拡大したい

花を買うことは、少し贅沢な支出であるが、経済や社会の成長に伴い、シンガポールでは花を贈る習慣が少しづつ根付き始めてきたという。そんななか、プリザーブドフラワー市場も競争が激しくなっている。そこでブルームバックでは、花の色の種類を増やし、光や音楽機能を付け加えるなど、ほかとは異なる新しい特徴を持たせることで差別化を図っている。一番人気の商品は、手軽に持ち運びのできる小さいチャームである。

人気商品のチャーム

自分たちが伝えたい社会的な意義を一般の人に広く知ってもらうため、商品以外にも工夫を凝らしている。それは、ワークショップイベントなどで参加者一人ひとりに話しかけるなど、パーソナルタッチを大切にすることだ。小さなことだが、確実に人の記憶に残る方法で、ファンを拡大している。

一つひとつ手作業で丁寧に作っている

商品はすべてハンドメイドのため、バレンタインデーや母の日など、イベントがあるハイシーズンは多忙だ。メイン業務以外にも、廃棄された果物や野菜を使ってブーケを作るプロジェクトや、企業とのコラボレーションもスタートするという。さらに、2019年には初の店舗を持つ予定だ。

イースターホリデー用のギフト

これだけ多くのことを現在15人ほどのスタッフでこなしている。限られた人数だが、花をとおして幸せにできる人の数を増やすため、ビジネスを拡大するのが直近の目標である。

「誰かを幸せにするため、愛を感じてもらうために、このビジネスをしています。自分たちのギフトをとおして、贈り手から受け手に、企業からコミュニティに、愛が届けられる瞬間が、シンプルだけど私にとって幸せなことです」とヘーゼルは語った。

編集後記

最初は、病気がちな姉を元気付けるためというとてもパーソナルなきっかけで始まったこのプロジェクト。それが次第に、高齢者の方や病院の患者さん、そして花を愛でるすべての人へと、輪が広がっている。とてもすてきな広がりだ。 

今後、ビジネスの拡大によって、さらに多くの人に愛を届けようとしているブルームバック。資金やスタッフが限られたスタートアップであるため、さまざまなチャレンジを抱えていることだろう。それでも、ビジネスを始めた原点に立ち戻りながら、強くしなやかに事業展開しているヘーゼルの生き様はとてもかっこいい。彼女たちの扱う花には、愛が根付いているのを感じる。

【参照サイト】BloomBack

東南アジア漂流記に関する記事の一覧

FacebookTwitter