人口は70万人にも満たず、国連が後発開発途上国(最貧国)に分類する国、ブータン。経済力に目がいく世界の潮流に流されずに、 国民総生産(GNP)ならぬ、国民総幸福量(GNH)という指標を1972年という早い時期に国王自ら提唱し、人々の幸せの度合いを重視する姿勢を貫いている。当時、高度経済成長期にあり、社会にさまざまな弊害が発生していた日本でも、その指標は注目された。
ヒマラヤ山脈に位置し、澄んだ空気と雪解け水がつくる水系が育む緑は、旅行者を大いに魅了する。そのブータンで、もう一つの興味深い取り組みが行われようとしている。2030年までに「廃棄物ゼロ社会」を目指し、国民の環境意識を高める「私のゴミ、私の責任」キャンペーンが、第4代ブータン国王戴冠式記念日の2019年6月2日に始まったのだ。
ブータン国家環境委員会によるこのキャンペーンでは、毎月2日に「ゼロウェイスト・アワー(廃棄ゼロの時間)」を少なくとも1時間設け、あらゆる組織や個人が、周辺地域を清掃する。これにより、一般医市民の環境に対する社会的責任を啓蒙し、空き地への不法投棄をなくす。また、適切な廃棄物管理と持続可能な消費スタイルを実践し、国民の行動に変革をもたらすことが期待されている。
ブータンには、20年以上前に制定された廃棄物管理システムが存在する。しかし廃棄物管理への投資が固形ゴミに偏っていたため、行政や民間セクター、市民団体の活動の成果が思うように出ておらず、苦労していた。国家環境委員会によると、廃棄物の削減や、再利用、回収、輸送、処理について、不十分な知識と認識、大きなコスト負担、技術的な難易度、実行能力といった課題が山積しているという。
ブータン内務文化省は、国家環境委員会と共に自治体や、NGO、国際機関、ブータン映画協会、メディア等も「ゼロウェイスト・アワー」に関して協業するとしている。同委員会の廃棄物管理部門マネージャーのティンリー・ドルジ氏は、「各組織が、モニタリングと評価を行い、毎年報告書を提出します。」とその協業内容を語る。
日本でも、小学校から高校までは清掃業者を入れずに、生徒や教員が教育の一環として清掃活動を行っているところも多く、今回「ゼロウェイスト・アワー」を発足させたブータンとも、共通した精神性があるように感じる。実社会の現状を鑑みると、毎月決まった日にちに全国民が地域の清掃を実行するのは、難しいかもしれない。しかし、廃棄ゼロ社会を目指すブータンの決意と努力は、見習うべきものではないだろうか。
【参照サイト】Bhutan to observe Zero Waste Hour for Zero Waste Society by 2030