2019年5月28日・29日の両日、東京・大崎にて1日完結型のワークショップ「Futures Design Basic Course」が開催された。CSV(共有価値の創造)のマーケティング支援を行う株式会社エンゲージメント・ファーストが主催となり、同社と業務提供しているデンマークのデザイン会社Bespoke社の共同代表であるニックとルネの2人がイベントを進行した。
イベントレポート前編では、Futures Designの概要、その片鱗に触れるワークの様子をお伝えした。後編では、Futures Designのツール「THE FUTURES CANVAS」を活用したブランドの未来の創造についてお伝えする。
Futures Designの4フェーズ
ワークショップの後半では、いよいよFutures Designのフレームワークを用いて「ブランドの未来」をグループごとに創造していく。Futures Designのフレームワークは以下4つのフェーズから成る。
Situate:自分や対象テーマが置かれている現状を明らかにし、進むべき方向を決める
Search:世の中の変化を表しているシグナルを探して集める
Sense:集めたシグナルの意味を統合し、インサイトを言語化する
Scale:好ましい未来を想像し、そこに至る道のりを計画する
4つのフェーズを経る中で、アイデアの発散と収束を繰り返していく。これをグループごとにおこない、最終的に「わたしたちにとって好ましいブランドの未来」の創出を目指す。
未来を創るための地図「THE FUTURES CANVAS」
Futures Designの4つのフェーズを体験するため、今回は「THE FUTURES CANVAS」というツールを使用。Situate、Search、Sense、Scaleのプロセスを旅する”地図”のようなものだ。ここからはFutures Designの4フェーズに合わせて、グループワークのダイナミズムをお楽しみいただこう。
Situate:ブランドが直面する課題を明らかにする
自分や対象テーマが置かれている現状を明らかにする「Situate」のフェーズから旅は始まる。まずは広く「ブランド」が直面している課題や脅威を見つけていく。例えばフェイクブランドの台頭や、ブランドのコモディティ化などが挙げられる。
続いてブランドに関わるステークホルダーを書き出す。ユーザーやメーカー、購買チャネルであるECサイトまで幅広く記載。このようにブランドを取り巻く現状を明らかにした上で、最後に「ブランドにとって何が強みとなるか」を出し合って第一フェーズは完了する。
Search:ブランドの現状からシグナルを見つける
「Search」のフェーズでは、ブランドに関する現状を調査するスキャニングのワークに入っていく。前編のタイムスリップのワークのように、「ブランドの未来」にインスピレーションを与えてくれるシグナルを探すのだ。
スキャニングを手助けするツールとして、トレンド、カルチャー、テクノロジー、ワイルドカード(その他)の文字が記載された4枚の「スキャンカード」を活用する。4つの異なる視点から世界を捉え、現状のシグナルを探っていく。誰かの頭の中にある空想やアイデアではなく、現実社会にすでに存在している企業やサービス、ムーブメントからピックアップするのがポイントだ。
例えばブランドの「トレンド」に関連する事象として、「B Corporation」が挙げられる。B corporationとは社会的・環境的にいい会社と認定された会社へ与えられる認証を指すが、近年は消費者の購買行動にも強い影響を与えている。消費者にとって「いいブランド」かどうかを判断する重要な指標になっているのだ。
「カルチャー」に関しては、例として「パタゴニア」が挙げられた。同社では日中でも社員がサーフィンに行くことが許されており、そのユニークな企業文化が会社のブランディングに繋がっている。「テクノロジー」の例としては、実在しないモデルを使ってブランドイメージを訴求する「バーチャル・インフルエンサー」が紹介された。「ワイルドカード」では”MeToo”の活動をブランドが支援することで、ブランドメッセージを強く発信する例を挙げていた。
参加者は30分間個人でリサーチをおこない、4枚のスキャンカードを仕上げていく。個人ワークを終えたらグループで個々のスキャンカードを壁に張りながら説明。この時、アイデアの近似性を意識してグルーピングをおこない、共通の要素を付箋に書き出していきインサイトの発見に繋げていくのがポイントだ。
Sense:ブランドの現状からインサイトを読み解く
続いて、先ほどのワークで見えたパターンやつながりからインサイトを読み解く「Sense」のフェーズへ。「ブランドは〜だ」という形で、シンプルな言葉でインサイトを表現する。
ルネは「恐れずに、大胆に表現してみましょう。インサイトはジョークに似ています。見た瞬間に理解できるものがいいインサイトです」とアドバイスした。
あるグループはインサイトを読み解き「ブランドは、親友だ」と表現。先のワークで出た事例から、「時にはミスをしたり欠点があったりするけれど、その欠点すら愛されることがブランドにとって大事だ」というインサイトを得たようだ。
その他にも「ブランドは価値観を共有するコミュニティーだ」「ブランドは民主化される」「ブランドは未完成」など、ユニークで印象的なインサイトが続々と発表された。各グループの発表を聞いたニックとルネも「ブランド自体が持っている未来へのポテンシャルが感じられた」と感想を述べた。
Scale:わたしたちにとって望ましいブランドの未来を定義する
4つ目の「Scale」のフェーズでは、いよいよ「わたしたちにとって望ましいブランドの未来」を定義するワークに入っていく。以下3つの段階を経て、ブランドの未来を形作り、そのためのアクションを決める。
1. 「わたしたちが望むブランドの未来」を表すステートメントをつくる
2. 「わたしたちが望むブランドの未来」のプロトタイプをつくる
3. 「わたしたちが望むブランドの未来」を実現する短期的・長期的なアクションを決める
まずはこれまでのワークで集めた、ブランドを形成する要素を参考に「わたしたちが望むブランドの未来」を短い言葉で表現する。ニックは「今この時点で存在していないからといって不可能ではない。1960年にケネディが宣言したアポロ計画も、『人類を月に送る』という彼のステートメントを受けて動き出したのだから」と元米大統領のケネディ氏の言葉を引用し、ステートメントの強い力を伝えた。
次に、デンマークを代表するレゴや雑誌の切り抜きを使ってステートメントのメタファーを作り出す。デザイナー的な手法であるプロトタイプの作成だ。参加者は楽しみながら、感覚的にステートメントが示すブランドの未来を形にしていく。手を使ってモノ作りをすることで、それまでとは違った脳の部分に刺激を与えるのもその狙いだ。
最後に「わたしたちが望むブランドの未来」を実現するためのアクションプランを短期スパン、長期スパンの両方で決めていった。
「THE FUTURES CANVAS」のアウトプットはそれぞれのグループでまったく異なる、創造的な仕上がりとなった。例えばあるチームのステートメントは「人生を豊かにするWOW!」。中央のレゴでは驚きが溢れる世界を表現し、見る角度によって人の顔が見えるこだわりよう。ユーザーの思いを尊重し、声をきく機会の創出をアクションプランとして書き出している。
すべてのグループのアウトプットを見て回り、多種多様なブランドの未来に共感と驚嘆の声が溢れていた。
「ブランドの未来」はひとつじゃない
すべてのワークを終えると、そこには複数のブランドの未来(Futures)が広がっていた。約6時間、長時間のワークショップを終えた参加者の顔はどこか晴れ晴れしく、新しい可能性に心が踊っているように見えた。
ワークショップの最後には、参加者全員で円を描き「今日持ち帰りたいもの」を全員で共有した。ブランドの定義を再発見した人や、異なるバックグラウンドを持つ参加者との共同作業を楽しんだ人、そしてFutures Designそのものの魅力に惹きつけられた人。Futures Designを通して得たものは一人ひとり異なり、そして意味あるものとなったようだ。
編集後記
正解のない「未来」の創造。時に迷いながらも仲間と協働し、学び合う参加者の姿が印象的であった。不確実な未来だからこそ、あらゆる可能性に満ち溢れている。そして未来はわたしたちで創造することができると、不思議と確信を得られたワークショップであった。
普段の仕事で生かすならば、会社のビジョン策定や見直しに役立つだろう。目の前の業務を遂行することも欠かせないが、時にはもう一段目線をあげて会社や事業を見つめ直してみると新たな未来が顔を覗かせるはずだ。
主催のエンゲージメントファースト社によると、向こう2年間に日本から1,000人のFutures Designer輩出を目指すそうだ。あなたも未来の創り手として、Futures Designを体得してみてはいかがだろうか。