デンマーク発の「未来を自ら創造する」デザイン思考。ありたい未来に向けた課題解決を

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「数百年前と比べて、変化はすごいスピードで起きているから、この先の未来がどうなるかなんて誰も答えを持ってない。いまは、ヒトだからこそできることを、教育を通して磨いていくことが大事。」

以前IDEAS FOR GOODで書いたフィンランド最大の教育の祭典に関する記事で、こんなメッセージがあった。今回は、まさにその教育の形を一つ示すようなトピックを取り上げたい。

東京・丸の内で、デンマーク発の未来洞察を取り入れたデザイン思考「Futures Design」の体験イベントが開かれた。企画・主催は、CSV(共通価値の創造)のマーケティング支援を行う株式会社エンゲージメント・ファースト。同社と業務提携しているデンマークのデザイン会社Bespokeの共同創業者ニック、そしてリサーチャーのアンドレアスによるビジョンの共有、プチワークショップなどが行われた。

Bespokeイベント

登壇者左からBespokeニック、アンドレアス、エンゲージメント・ファースト社アドバイザーの八木橋パチ昌也さん

近年、注目されているデザイン思考。Bespokeが持つ手法の特徴は、「ありたい未来・目指す未来」を描き、そこからいまの社会と企業の状態を把握し、バックキャスティング(*)することだ。

テクノロジーが急激に発展し、人口が減り、働き方も変わっていくなか、わたしたちの未来には“不確か”なことが増えた。自分の将来に、漠然とした不安を感じる人も多いかもしれない。そんな不確かな社会で、「Futures Design」は個人・企業のまだ見えていないイノベーションの源泉を発見するきっかけとなるだろう。本記事では、Bespokeの考えや手法に焦点をあて、イベントのようすをお届けする。

* まずは理想的な未来を描き、そこから逆算して現在の戦略を考える手法。現状からどのような改善ができるかを考え、改善策を積み上げるフォアキャスティングとは違い、理想的な未来から現状を考える。

Bespoke(ビスポーク)

Bespokeデンマーク・コペンハーゲンに本拠を置くデザイン会社。“世界で最も刺激的”と言われるビジネスデザインスクール「カオスパイロット」の卒業生らが創立した。未来の洞察を取り入れたデザイン思考の手法「Futures Design」を、ワークショップなどを通して広め、世界で20か国以上で業界を超えてビジネスを行っている。

「Futures Design(未来をデザインする)」とは?

Futures designとは
Futures Designは、Bespokeが開発したデザイン思考のメソッドだ。社会の現状から未来の変化を洞察し、「目指す未来」のイメージを確立。イメージと洞察(インサイト)をもとに企業または個人ブランドの戦略を考え、顧客体験価値の開発をしたり、コミュニケーション戦略を立てたりする。

ニックたちは、この手法を「Strategic Foresight&Experience Design (戦略的に未来を読み解き、体験をデザインする)」と呼び、次世代のビジネスのあり方をさまざまな場所に広めている。コペンハーゲンやマドリード、マルメ、リオデジャネイロなどの都市でワークショップを開催し、Futures Designの思考を参加者に短期間で体験・実践してもらうこともしている。

ワークショップのようす

ワークショップのようす

ワークショップでは、現状から変化に関わるシグナルの発見、インサイトのビジュアル化、発表などの共創プロジェクトを行う。「目指す未来」に向けた長期的な視点を持って事業計画を立て、大きな変化にもすばやく対応できる柔軟性を育てることが目的だ。これらを通して、いま一度自分たちの行う事業の存在意義(Purpose)や価値(Value)を考えてみる機会にもなるだろう。

世界がどう変わるかなんて予測できない。たとえば1800年代末期のニューヨークでは主な交通手段が馬車であったため、街が馬糞にまみれていくことが懸念されており、国際会議の重大なテーマにもなっていたが、車という新たなテクノロジーが台頭したことによりあっさりとその問題が解決されてしまったように。

「私たちは、未知(Unknown)をナビゲートすることを学んでいかねばなりません。」ニックとアンドレアスは、「マネジメント」の発明者ピーター・ドラッカーの言葉を引用しながらそう語った。

目指す未来は、一つじゃなくていい

目指す未来は、みな同じではない。そして、それぞれ一つずつである必要もない。今後生き残っていくためには、ビジネスの進め方を「利益重視か非営利か」「デザインか機能性か」などというようにはっきりと切り分けすぎずに、柔軟に可能性を広げていくことが大事なのだ。そういったBespokeの考えから、メソッドの名前は「Future“s” Design」とあえて複数形にしているという。

会場では、参加者にむけて「あなたにとっての未来とは?」という質問が出た。回答として出たのは、「次の世代のための世界」「環境問題」「希望」「過去以外のすべて」など。

左:ニック 右:アンドレアス

登壇者 左:ニック 右:アンドレアス

Bespokeが目指すのは、多くの人の「可能性の範囲」を広げることだ。そのために、デザイン思考によるアプローチと戦略的洞察の両方を活用している。

知らない間に起こっている「イマジネーション欠落の危機」

Futures Designを形作る要素として、イベント中にはイマジネーションの大切さが語られていた。それは一体なぜか。Bespokeのふたりが次に引用したのは、イタリアの活動家フランコ・ベラルディの言葉。「われわれにとって喫緊の社会的な危機とは、経済や金融などではない。イマジネーションの欠落だ。この現象をあらわす、新しい言葉が必要だろう。」

未来を創っていくためには、創造以前に想像する力が欠かせない。しかしわたしたちは最近、イマジネーションを働かせることをやめており、しかもそのことに気付いていないというのだ。Bespokeのチャート分析によると、とある分野について「自分が知っている(詳しい)とわかっている人」が約15%、「自分が知らない、ということをわかっている人」が約25%、「自分が知らない、ということをわかっていない」人が約60%だった。つまり、半数以上の人々が無自覚なのである。

チャート

私たちはいつのまにか、次々と登場する新しいテクノロジーを、ただ受け止めて消費するだけになっていないだろうか。たとえばスマートフォンの新しい機種が発売され、これからの世界のトレンドはこうだ、と言われれば「そういうものだ」と解釈して、思考停止していないだろうか。それは本当にわたしたちが欲しい未来なのか、と想像したことはあるだろうか?

ニックとアンドレアス

「新しいものに便乗する人ではなく、流れをつくる人になっていかなくてはならない。」とニックは語る。彼によると、イマジネーションは、体験の多さに比例するという。脳のシナプスは、新しい人に会ったり、新しい体験をしたり、新しい考えに出会ったりすることの積み重ねでつながっていく。

だからこそ、これからは複数のエリアに深い知識と関心、経験を持ち、イマジネーションにあふれる「Polymath=博識者」が必要だという。たとえばスティーブ・ジョブズやレオナルド・ダ・ヴィンチのような人物だが、これを企業として体現することが、これからの時代の流れをつくるカギとなる。

未来創造のフレームワーク

Futures Designのアプローチは、Situate、Search、Sense、Scale という4つフェーズにわけられる。そして、2つのダイヤモンドを描くように発散と収束を行う「ダブルダイヤモンド」型のプロセスをとっていく。これらを組織・チームで経て、未来の戦略を立てていくのだ。
ダブルダイヤモンド

  1. Situate(位置決め):初期テーマ設定。事業の「目的」や「ビジョン」を描いていく
  2.  Search(探索):「知っていると知っていること(Knows Known)」を増やすためのリサーチ活動。STEEPV(*)から、望ましい未来の兆候が出ている「シグナル(兆し)」を探しにいく
  3. Sense(意味付け):Searchで見つけたシグナルから、わかったことを整理して言語化・ビジュアル化する。そしてリサーチ結果の分析をする
  4. Scale(拡大):一旦収束させた分析結果から、好ましい未来を想像して再度発想を広げるフェーズ

Bespokeのアプローチは、五感を使うことが特徴的だ。同社の2019年のテーマは、「Tactile thinking(触って思考する)」。粘土などで思い描く未来を表現するなど、実際に手を使ったプロジェクトを行うことがあるという。

未来を予測する最善の方法は、自ら創りだすこと

イベントの最後には、Futures Designワークショップのプチ体験が行われた。ペアを見つけ、手元を見ずに相手の顔だけを見ながら似顔絵を描き、その下に「未来のイメージをふくらますような質問」を一つ書いて、相手に手渡すというアイスブレイクだ。

参加者は立ち上がり、短時間でさまざまなペアをつくってまわっていた。

エクササイズのようす

エクササイズのようす

エクササイズのようす

エクササイズのようす

「将来、どんな生活してる?」「仕事してるの?」「いつか海外で働きたい?」「この先も、いつも笑っているにはどうしたらいい?」などの質問が登場。その後はビールを飲みながら談笑する、ヒュッゲの時間となった。

ビール片手に質問タイム

ビール片手に質問タイム

未来の見方は人それぞれだ。AIが台頭する時代を、シンギュラリティ(技術的特異点)の訪れによって人の職が奪われてしまうかもしれない、と捉えることもできるし、人の代わりにAIが働いてくれるポストワークエコノミーの社会なら、わたしたちはより好きなことに時間を費やせるぞ、というとらえ方をすることもできる。

Futures Designの考え方は、そんな未来の境界線をあいまいにし、まだ知らない可能性の範囲を広げてくれる。5月28日と5月29日には、エンゲージメント・ファースト社の主催で、東京にて1dayワークショップを行う予定だ。

もしあなたがこれからの未来を不安に感じているとしたら、そして、日々登場するテクノロジーや情報を受け入れるだけの人になっていると気づいたなら、自ら流れをつくることを意識して仕事をしてみてはいかがだろうか。いまは誰もが、未来の創り手となれるのだから。

▶ワークショップ詳細:Futures Design Basic Course(1日コース)
【参照サイト】Futures Design Course
【参照サイト】Bespoke
【参照サイト】エンゲージメント・ファースト、デンマークのBespoke社と業務提携し、未来創造型デザイン思考を日本で展開
(一部写真提供:Bespoke)