2019年6月、英国発ハンドメイドコスメブランドLUSHが、アジア最大規模の旗艦店「LUSH 新宿店」をオープンした。新宿店では、作りたてのフレッシュなスキンケアアイテムはもちろん、ブランド初となるオーガニックフラワーや、限定メイクアップラインの販売が行われている。8月下旬にはスパサービスのフロアもオープンする予定だ。
創立当初から人・動物・環境に配慮したビジネスを展開してきたLUSHらしく、新宿店にもエコフレンドリーなこだわりが詰まっている。オープンに際し来日していたLUSH創立者の1人、ロウィーナ・バードさんに、店舗の新たな取り組みや商品へのこだわりについてお話を伺ってきた。
話者プロフィール:ロウィーナ・バード
早くから美容業界に身を置き、ビューティー・セラピストの資格を取得。その後、のちのラッシュの創立者となるクリエイターらが立ち上げた通信販売のブランドである「Cosmetics To Go(CTG)」を経て、共同でLUSHの創立に至る。カラフルな“色”を用いて、様々な商品に命を吹き込むように数多くのベストセラーを開発。2012年には、ラッシュにとって初めてのカラーメイクアップ商品「Emotional Brilliance」を開発。商品開発のみならず、海外のビジネスパートナーの開拓や、LUSH SPAの開発や統括、ブランドのグローバル展開をも担う。2014年10月より、ラッシュジャパンの代表取締役に就任。
※以下、すべてロウィーナさんのコメント。
LUSH 新宿店について
新宿店は、アジア最大のLUSH店舗。デジタルと融合したショッピング空間がテーマです。ネイキッド(パッケージフリー)商品を専用のアプリでスキャンすることで商品の詳細情報が閲覧できる「デジタルパッケージ」というシステムを採用するなど、エコフレンドリーな仕組みにもこだわっています。計4フロアにわたるリテール空間では、新宿店限定のメイクアップアイテムや、作りたてのスキンケアアイテム、パフュームなど、全ての人を対象にした様々なアイテムを販売。フロアごとに異なったコンセプトやムードが味わえるのもポイントです。8月下旬には、スパフロアもオープンする予定なんですよ。
新宿店限定のメイクアップラインへのこだわり
「Makeup for all」というコンセプトを掲げた今回のメイクアップラインは、どんな人にでも楽しんでもらえる「スキンケアするメイクアップアイテム」。アロエやシアバターなど肌に良い成分を配合したメイクアップアイテムは、さながら「色付きスキンケア」です。肌が荒れてしまうからとこれまでメイクアップを敬遠していた人にも使ってもらえるように、ネイキッドアイテムは防腐剤を使用せず、それ以外のアイテムも防腐剤の使用量をできる限りおさえるなどの点にもこだわりました。
もう一つの特徴は、様々なアイテムを「固形化」したこと。「固形化してしまえばパッケージなんていらなくなる」という考えに基づき、フェイシャルファンデーションやハイライターなどほとんどのアイテムをスティック状にして提供しています。LUSHの人気商品・シャンプーバー(パッケージいらずの固形化されたシャンプー)と同じ発想ですね。
今回のラインナップの中で私が最も気に入っているのは、リップスティックです。気分が明るくなるような素敵なカラーが揃っているのはもちろんのこと、特に注目してほしいのは「本体とケースが分かれていること」です。従来のリップケースは、プラスチックと金属など異なる素材を組み合わせて作られており、リサイクルに向かないことが多いんですね。一方、この新しいケースは、アルミニウムや真ちゅうだけでできているので、完全にリサイクルが可能です。
化粧品のパッケージをつくるためだけに、毎年なんと100億エーカー(=4000万平方キロメートル)もの森が切り倒されているといいます。これって、ものすごい数ですよね。皆さんの中には「リップケースなんてかなり小さいパーツに工夫を施したって、大きな違いにはならない」と思われる方がいるかもしれません。ですが、そんなことはありません!「とても小さなものだからこそ」重要なのです。単一素材でできたリップケースの場合でも、リサイクルされず他のゴミと一緒に捨てられてしまうことが多くあります。リップケースがあまりに細かいパーツなのでわざわざピックアップするのが大変だからです。
新しいケースを作って毎回ムダにしてしまうよりも、同じものを繰り返し使えた方が良いのではないか?そう考え、私たちはリップ本体とケースを別に販売することにしました。ケースにはLUSH製品以外のリップカラーをセットしてもらっても構いませんよ。捨てられる運命だったケースに新しい命を吹き込めるなんて、それだけで素晴らしいことなんですから!
本当の「ラグジュアリーさ」とは
東京はとてもインスパイアリングな街ですよね。商品の着想を得ようと、こちらに来てから、様々なところを歩き回りました。日本では商品の包装ひとつひとつでさえ、とても美しく工夫されている。本当に綺麗で、豪華に見えます。ですが、同時に残念な気持ちにもなりました。だって、皆、家に帰ったら包装を解いて捨ててしまうでしょう?
豪華なパッケージがラグジュアリーさを生むのではありません。のちのち、はぎ取って捨ててしまうものなのですから。大切なのは、商品そのもの。中身にきちんと手がかけられているものこそが、本当にラグジュアリーな商品だと呼べるのです。
LUSH商品のパッケージはいたってシンプル。ですが、LUSHの商品はラグジュアリーであると自信をもって言うことができます。それは、世界中から素晴らしい材料を見つけてきているから。生産者と直にふれあい、植物がどう育っているか、質はどうなのか、きちんと分かっているものだけを使っているからです。「この商品を使うことで、地球に、人に、動物に、こんな違いがもたらされる」──そう自信を持って言えることこそが商品の価値なのです。
サステナビリティ(持続可能性)からリジェネレーション(再生)へ
地球に、人に、動物に、良い違いをもたらす──そんな原料を調達するため、私たちは日々全力を尽くしています。私たちの大切な責任の一つが、農家の「リジェネレーション(再生)」を促進することです。リジェネレーションは、サステナビリティ(持続可能性)の考え方とは違います。人間はこれまで、地球の資源を使える分だけ使いつくしてきました。今の状況をいくら持続させようと、過去に失った環境はそのままですよね?それに、自分たちだけがサステナブルに事業を行っているだけでは不十分です。他の会社が資源を乱獲していたら状況は悪化する一方ですからね。サステナブルという考え方にかこつけて今までと同じやり方を続けていたら、いつか資源が枯渇してしまうのは目に見えています。サステナビリティだけでは足りない。これからは、持続しながらも新たな何かを創出する意味で再生(リジェネレーション)させなくてはいけないのです。
リジェネレーションを促進するため、私たちは、サプライヤーと「売り買い」以上の関係性を築き、ともに協力しようとする努力を欠かしません。
ある原材料にまつわるストーリーをご紹介しましょう。タグアナッツ(象牙椰子)についてのストーリーです。タグアナッツは、ヤシ類のうち、種子の中の胚乳と言う部分が非常に硬い種のこと。乳白色の胚乳が象牙の色にそっくりなので、ベジタリアン・アイボリーとも呼ばれており、おもにエクアドルなどの熱帯に生息しています。1950年代、象牙のボタンに替わって使われるようになったのですが、プラスチックが開発されてからはめっきり出番がなくなってしまい、デザイナー物の洋服でしかお目にかかれないほど貴重な素材になってしまいました。このタグアナッツにバイヤーの1人がとても興味を持ったことをきっかけに、LUSHのアイシャドウポットの素材として使用できないだろうかと、エクアドルを実際に訪ねて検討してみることになりました。しかし、現地の農家は「いまはタグアナッツの市場は縮小しきっている」というのです。タグアナッツの木を切って、他の作物を育てようという動きが加速していました。よく話を聞いてみると、タグアナッツが実をつけるには雄木と雌木の対が揃わないといけないのにも関わらず、それを知らなかった農家たちが実際に実がなる雌木だけを残し、雄木ばかりを切ってしまっていたようなのです。でも、彼らに悪気はない。何も知らなかったのです。私たちは、すぐにLUSHのパッケージ原料としてタグアナッツを仕入れることに決めました。私たちがきちんとした知識を教えることでタグアナッツを守ろう、そして、タグアナッツがどんなに素晴らしい植物であったかを現地の人々に再認識してもらうおうと決意したんです。
素材をめぐる旅、とでもいうのでしょうか?──私たちは、たったひとつの素材を通して、たくさんの人と出逢い、様々なことを考えているのです。
もうひとつ、先ほどとはまた違った例をお伝えしましょう。福島の「菜種オイル」についてです。菜種は、畑に植えると、汚染物質を吸いとって土を綺麗にしてくれるという作用を持ちます。さらに素晴らしいのが、土壌を浄化してくれるにも関わらず「菜種から抽出したオイルには放射線の影響が表れない」ということです。農家は、放射線汚染で使えなくなってしまった畑で菜種を育て土壌を浄化します。そして、LUSHがそれを買い取っているのです。
「製品の原材料として、福島の菜種オイルを選ぶ」ことにより何ができるのか?農家は土地を浄化し、LUSHは素晴らしい石鹸を作りお客様にお届けすることができます。そして同時に、「福島で何が起こったか」にフォーカスを当てることができるのです。商品は、LUSHからのメッセージ。私たちにとって、素材には、化粧品をつくる元であるという以上の「大きな意味」があるのです。
私たちが素材を選択するところにはいつも「想い」が、そして、私たちの選ぶ原料のひとつひとつに全く異なる「ストーリー」があります。環境、動物、人間に想いを馳せながら何がベストなのかを考えること。サプライヤーと一緒に「この美しい植物を未来まで引き継ぐにはどうしたら良いか」を考えること。これらは、自然の一部を使わせていただいている我々にとっての大きな責任だと思っています。
何を、どう選ぶか
私たちは、「環境や社会への取り組みを知ったうえでLUSHの商品を購入してほしい」とは思っていません。デザインや香り……商品を手に取るきっかけが何であれ、構わないんです。どちらにせよ、店舗に来てくれたら、私たちが皆さんを教育しますから。(笑)LUSHの店舗は単に買い物をするためだけの場ではありません。店内を見てまわったり、スタッフと言葉を交わしたりするなかで、お客様が商品について、商品の裏にある環境のことについて、リジェネレーティブプロジェクトについて…知ることができます。ここは学びの空間。いつ来ても新たな発見があるような場所なんです。
私たちは、「選択肢を提供すること」を大切にしています。シャンプーを固形化することで、パッケージを不要にした定番商品「シャンプーバー」を例にとってみましょう。この商品の販売によりこれまで13年で3900万本のボトルが埋め立てられるのを防いだ計算になります。私たちは、そんなシャンプーバーと従来のパッケージ入りのシャンプーとを一緒に店頭に並べています。なぜでしょうか?2つのタイプの商品が並んでいれば、お客様は「どうしてこんなふうになっているのだろう?」と不思議に思いますよね。そして、考えます。毎年1200億個のコスメパッケージが生産され埋め立て地に送られているということ、不要になったパッケージのうち半分は海や森など自然環境に捨てられてしまっているということ。そして、シャンプーバーのほうを購入すれば、ボトル3本分を無駄にせずに済むのだということを知ります。そのうえで、自分がどちらを買うかを選択してほしいと思うのです。
私たちは、ネイキッド商品を買うようにと強制することはしません。自分で気づき、自分で選択する──それこそが最も大切なことだと考えているからです。LUSHはショップであり、同時に「学びの場」でもあります。訪れる人に、様々な情報を提供し「他の選択肢がある」ということを提示することこそが、私たちの役目なのです。
私はいつも、LUSHのことを氷山だと表現するんです。氷山の大きなウェイトを占めているのは、海面に沈んだ「目に見えない部分」ですよね。LUSHの店舗や商品という「目に見える部分」は、ほんの一部。氷山の一角でしかないと思うんです。原料の調達や、製品の製造過程、動物実験反対やリジェネレーティブプログラム──パッと見ても分からない部分こそが、LUSHの大切なフィロソフィーだと、私は考えています。
あなたもぜひLUSHの店舗に訪れて、商品を手に取ってみてください。スタッフと言葉を交わしてみてください。きっと何か、新たな発見があると思います。
【参照サイト】LUSH JAPAN 公式サイト
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