花を贈る、を日常に。アフリカローズが展開する男性コミュニティ「ローズアンバサダー」

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ある日突然、好きな人からバラの花束をプレゼントされたら、あなたはどんな気持ちになるだろう。きっと、バラの美しさに見惚れ、相手の気持ちに心を打たれ、幸せな気持ちで胸がいっぱいになるはずだ。

花の持つ力はすごい。贈ったほうも贈られたほうも、幸せで温かい気持ちになれる。誰かが誰かに花を贈れば贈るほど、世の中の幸せは増えていく。だからこそ、特別な機会だけではなく何気ない日常の中でも花を贈り合う文化を広めていきたい。

そんな思いを胸にユニークな活動を展開しているのが、様々な業種で働く、男性だけで構成されるコミュニティ、「ローズアンバサダー」だ。主宰しているのは、東京の広尾と六本木に店を構え、ケニアのバラを販売しているAFRIKA ROSE(アフリカローズ)の取締役で、フラワーデザイナーの田中秀行さん。

ローズアンバサダーを主宰するアフリカローズ取締役、田中秀行さん

アフリカローズは、社会起業家の萩生田愛(はぎうだ めぐみ)さんが2013年に立ち上げたフラワーブランドだ。アフリカ・ケニアから最高品質のバラを輸入し、日本で販売している。もともと国際ボランティアでケニアに滞在していた萩生田さんが、ケニアの名産でもある美しいバラの販売を通じてケニアの貧困解消、雇用創出につなげたいとの想いでスタートした。

日本のバラにはないグラデーション模様が特徴で、輪も大きく生命力も高いアフリカローズは、その力強い美しさで多くの人を魅了し、最近ではギフト用だけではなくパーティーやオフィスの装飾としても人気が出てきている。

アフリカローズ

そのアフリカローズに取締役として参画し、萩生田さんの右腕として事業を支えながらフラワーデザイナーとしても活躍しているのが田中さんだ。今回IDEAS FOR GOODでは、田中さんに「ローズアンバサダー」の活動について詳しくお話をお伺いしてきた。

金融業界から花の世界へ

最高級フレンチ・ガストロノミーとして知られるジョエル・ロブションの装花を手がけるなど、今ではフラワーデザイナーとして引く手あまたの田中さんだが、その田中さんも元々は全く違う業界から花の世界に飛び込んだ人間の一人だ。

「大学を卒業して10年間金融業界にいたのですが、収入はよかったものの、理想とする将来像が見えず、違和感を覚えていました。そんなとき、たまたま休みの日にお花の勉強をする機会があり、自分で花を作ってプレゼントしてみると、すごく喜ばれることが分かりました。これであれば自分も働いていて気持ちがよいし、人の笑顔も創れると思い、花の世界に興味を持ち始めました。」

アフリカローズ 広尾店

「在職中にフランスに渡ってお花について学び、帰ってきたタイミングで独立しました。最初の1年はラグジュアリーブランドやウェディングの装花をやっていたのですが、そのときに自分と同じように異業種から花の世界に入ってきた萩生田の存在を知りました。アフリカローズの事業はケニア、社会、そして自分の幸せにもつながると思い、手伝わせてほしいと話をして関わるようになりました。」

バラを贈る、が特別ではない世の中に

アフリカローズの素晴らしさを少しでも多くの人に知ってもらおうと考えた田中さんは、2016年のバレンタインを機に、「アフリカローズアンバサダー」というコミュニティを立ち上げた。

参加する条件は「男性であること」、「そして日頃の想いと共に花を送ることへの共感」という2つだけ。最初はアフリカローズに足を運んでいた顧客などに声をかけ、10人が集まった。アンバサダーの目的は、日本ではあまり根付いていない「バラを贈る」という文化を広めることにある。

「日本では、お花は基本的に女性が好むものというイメージがあると思います。僕はフランスに行っていましたが、フランスでは男性でも女性でも普通に花を買って帰ります。日本には男性が週末にバラを持って帰るといった文化がなく、『恥ずかしい』みたいな印象があるので、それを変えていきたいと思ってはじめました。」

フランス・パリにある花屋 via Shutterstock

たしかに、日本では「花を贈る」=「何か特別なこと」という印象が強い。特に「愛」を象徴するとも言われるバラとなれば、プレゼントを気後れする男性も少なくないだろう。そんなバラが持つイメージを変え、バラを贈ることを「恥ずかしい」「きざ」なことではなく、「ふつう」で「かっこいい」ことにしたい。それが田中さんの想いだ。

「アフリカ」をとったら、仲間が増えた

田中さんの声かけにより始まった花好きの男性だけで集まるコミュニティは少しずつその輪を広げていたが、しばらくは月1回程度集まるだけの地道な活動だった。しかし、2018年の5月頃までは40人程度だったアンバサダーの数が、とある出来事をきっかけに急に増え始める。田中さんが、「アフリカローズアンバサダー」の名前から、「アフリカ」をとったのだ。

「『アフリカローズアンバサダー』という名前ではじめたのですが、僕の中に迷いがありました。これを伝えていけばいくほど、自分の商品であるアフリカローズを買ってくれと押し売りしているような感じがして、モヤモヤしていたのです。しかし、そんなときにアンバサダーの一人が、この活動を盛り上げるためにはアフリカローズではなく『バラ』であれば何でもよいことにしたほうがよいのでは?と提案してくれました。そして名前を『ローズアンバサダー』にしたところ、僕も気持ちが楽になって誘いやすくなり、どんどん人が集まっていきました。」

バラで入院中の子どもとその家族を幸せにする

名前を変えた「ローズアンバサダー」コミュニティは一気に勢いを増し、昨年9月にあっという間に100人を超えた。100人突破を記念して、ローズアンバサダーは病院でバラを使ったイルミネーションをつくるという企画をクラウドファンディングにより実施した。きっかけは、アンバサダーの一人が病院の医師だったことだ。

「ケニアツアーに参加してくださった方の一人が、0歳から6歳までの高度医療を必要とする病院の先生でした。移動中の車内でその方とアンバサダーについて話していたのですが、自分も小学校のときに入院をして寂しい思いをした経験があったため、少しでも子供たちが温かい気持ちになれるようなことがしたいと盛り上がり、病院でのイルミネーションづくりをすることになったのです。」

イルミネーションづくりの当日は、クリスマスにも関わらず約20人ものアンバサダーが手伝いに集まった。高度医療を必要とする病院のため、院内には生け花が持ち込めなかったものの、子供だけではなくその親も苦しんでいることを知った田中さんたちは、患者の家族らが看病のために長期滞在できるようにと建てられた宿泊施設の敷地の前に、バラでイルミネーションを作り上げた。

想いに共感したローズアンバサダーが集まり、自分たちの手でイルミネーションを作り上げた。

「最初は子供たちに向けて何かできたらいいなと思っていたのですが、話を聞いてみると、親の方々も苦しんでいることが分かりました。自分の子供が苦しんでいるのに、自分は楽しんではいけないのではないかと。そのため、親御さん方に向けてイルミネーションを作ることで、喜んでいただきたいと考えたのです。」

完成したイルミネーションの前で。

クラウドファンディングのリターンについても、様々な人が集まるアンバサダーならではの強みを生かし、ダンスが教えられる人はダンスレッスンを、ワインアドバイザーの人はワイン会を、アーティストの人は絵を描くといった具合に様々なプランを用意した。

道行く人にバラを配る「ローズウォーク」

病院イルミネーションのクラウドファンディングに成功して勢いをつけたローズアンバサダーは、二か月後の2019年2月、バレンタインに合わせて「ローズウォーク六本木2019」を開催した。

ローズウォーク六本木2019 の様子

これは、街を歩いている人たちにアンバサダーがバラを配るというイベントだ。アンバサダー発の企画で、女性一人の場合は女性に、カップルの場合は男性に渡し、女性にバラを贈るという体験をしてもらう。100本用意したバラは、わずか数十分でなくなった。

アフリカローズを受け取った女性とともに。

また、このローズウォークの取り組みを知った男性アンバサダー(オフィス向け定期配送サービスを展開するサラド、細井優代表)は、3月8日の国際女性デーに、自分の会社の取引先の女性に一輪ずつバラを贈るという企画を実践した。すると、多くの女性からバラの写真とともに感謝と喜びの声が届いたという。

4月には三菱地所からの依頼で同イベントを東京丸の内の丸ビルで実施し、5月には池袋西武にてローズアンバサダーとしてのトークイベントなども開催した。そして6月には、アンバサダー活動の盛り上がりを記念して、その年に活躍したローズアンバサダーを表彰するためのイベント「ロゼ&ローズナイト」も実現。当日は女性も含めて200人以上が集まった。

バラを贈り合うことで、世界は愛に包まれていく

田中さんによると、ローズアンバサダーに参加したメンバーは、花を贈ることに対する抵抗がなくなっていくという。そのコツは、「みんなでやること」だそうだ。

「なぜ日本には花を贈る文化がないのかを考えたときに、一つ分かったことがあります。それは、みんな花屋には一人で行き、渡して終わりとなってしまっているということ。また、花を贈る男性は『きざ』というイメージもありますよね。」

「これを変えるためには、一人で買って、一人で渡すという仕組みを変えればよいのかなと。花を贈るという体験をみんなでシェアすることで、実は自分以外にもこんなに花を贈っている人がいるのだとわかり、花を贈ることが恥ずかしいことから普通のことに変わるのではないかと思ったのです。」

ROSE WALK IKEBUKURO 2019 の様子

ローズウォークもその典型だ。一人で花を贈るのは恥ずかしくても、アンバサダーが集まってみんなでやれば、楽しく花をプレゼントできる。そして、一人一人が花を贈る素晴らしさに気づき、アンバサダーとして文化を広めていく。

「バラを気軽に贈れる男性は、ある意味、本当の愛を知っているかっこいい男性なのではないか。それを、バラという目に見える形で広めていくのがローズアンバサダーなのです。どんなときに贈るかというと、身近な人にお裾分けでもよいし、お祝い事でもよいのですが、たとえば落ち込んでいるときもバラ一輪で元気づけられたらいいですよね。こういうギフトが繰り返されることで、世界はもっと愛に包まれていくのではないかなと。」

参加条件は「バラを贈るってなんかいい」だけというコミュニティの強さ

活動を開始してから3年が経ち、アンバサダーの数は250名を超えた。下は3歳、上は85歳まで参加しており、年齢も職業もバラバラの人々が、「花」という共通点だけで集まっている。

特別なスキルや資格などなくても、「花が好き」「バラを贈るってなんか楽しそう」というだけで仲間になれる。堅苦しい上下関係もないローズアンバサダーのコミュニティは、参加している男性からも好評のようだ。

ローズアンバサダーたち

田中さんは、「とあるアンバサダーの方は、こうしたコミュニティはいくつもあるけど、ローズアンバサダーのいいところは、何の技術もいらないところ。バラを贈ることは誰でもできる。一人ではできなくても、みんな集まればできる。それも強制的ではなく、みんなが楽しんでいるのが重要だと言ってくれました。」

「花」という抽象性の高いテーマだからこそ、誰でもカジュアルに参加し、楽しむことができるインクルーシブなコミュニティが作れているのだろう。集まる人が多様なだけに、メンバー同士から新たな企画のアイデアが生まれることも多い。田中さんによると、業種を超えた一種の事業開発コミュニティのような可能性も秘めているという。

目指すは10万人。「かっこいい」を再定義しよう

バラをキーワードに集まった男たちの集団は、どこへ向かうのだろうか。今後のビジョンについて、田中さんはこう語る。

「アンバサダーを10万人に増やすことを目指しています。10万人までいけば、世の中がすごくよくなると思うので。また、ただ人を増やすだけではなく、より大きなビジョンとしては男性が花を贈るという『文化』をつくりたいですね。」

「そのためには、『かっこいい』の意味を変えたいなと。『かっこいい』は、外見ではなく中身から出るものだよねと。どんな男性でも、自分の中に一つは光るかっこいい部分があると思うのです。それが『かっこよさ』であって、ローズアンバサダーはその『かっこいい』男性の集まり。それが10万人になったら、世の中にもっとよいインパクトを与えていけるなと。」

「花を贈るのはキザな男がやるもの。」「イケメンには花が似合うけど、自分にはそんなこと恥ずかしくてできない。」田中さんが壊したいのは、男性が勝手に感じているこれらのイメージなのだ。

「かっこいい」の定義を変え、誰にでも「かっこいい」部分があることに気づいてもらう。そして自分は花を贈るという行為が似合う「かっこいい」男なのだと認識してもらうことで、花を贈る男性を増やしていく。ローズアンバサダーは、ただ花を贈るだけではなく、男性自身が自分の魅力に気づくきっかけを提供するための場所でもある。

一年でもっとも活躍したローズアンバサダーを表彰するイベント「Rosé and Rose Night」の様子。

『Go Home With Rose』新橋のサラリーマンよ、家に帰ろう

ローズアンバサダーの次なる舞台は、日本を代表するビジネス街であり、サラリーマンの街として知られる東京・新橋。

9月19日に新橋のSL広場で開催される「ローズウォーク」では、アンバサダーらが、自宅に帰らずに飲み歩いているサラリーマンに対して、一輪のバラとともに「今日は早く家に帰ってバラをパートナーにプレゼントしよう」と呼びかける。

バラのサプライズギフトを通じてパートナーに喜んでもらい、パートナーとの関係性をより豊かにしてもらうのが狙いだ。

バラを贈るという行為は誰でもできる。そして、そのシンプルな行為が人を幸せにするパワーは計り知れない。少しでも世の中の幸せを増やしていきたいという人は、ぜひ花を誰かにプレゼントしてみてはどうだろう。きっとあなたも幸せになるはずだ。

【参照サイト】ローズアンバサダー
【参照サイト】アフリカローズ

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