安心して住める住居があることは、世界人権宣言でも保障された人々の基本的な権利だ。しかし 米国では50万人以上が2018年にホームレス状態を経験したと推定されており、先進国でも住宅の問題は解決されていない。
このような問題の要因として、家賃や初期費用などの金銭的なハードルの存在だけでなく、有害な建築素材などの衛生上の問題や、建物のたてかえ等のような貸主側の都合で、入居者が退去を求められることも挙げられる。
否応なくホームレスになってしまう人が多い現状に対し、米国の非営利組織People’s Actionは、「A National Homes Guarantee」というプロジェクトを立ち上げた。
同プロジェクトでは、1,200戸の公営住宅を建設する。その中で公営住宅への投資促進、公営住宅居住者の人権の保護、公営住宅居住者への過去の差別への補償などの実現を目指している。
さらに、環境負荷の低減と入居者の安全性確保の両立も目指す予定だ。環境負荷低減のために、室内照明の調光スイッチや、大規模住宅では屋根にソーラーパネルを設置するなどを導入する。また、既存の公営住宅から鉛やカビなどの有毒物質を取り除いて住めるようにするほか、新設の住宅では持続可能性に配慮して伐採された木材による建設を目指す。
このプロジェクトは公営住宅に関連する大規模なプロジェクトであり、責任者自身も「急進的だ」と自ら評価するほどだ。しかしながら、プロジェクトについて議会議員や複数の地域関係者に提案したところ、大きな賛同が得られたという。1,200戸の住宅を建設すること自体は環境への負荷が生じるが、環境負荷を低減できる工事手法を用いて対策するそうだ。
住宅問題の影響を受ける人たちは、気候変動や異常気象など環境問題の影響を受けやすいという社会的な構造がある。環境問題が要因となって、安全で持続可能な住居を得られない人がいる現状を受けて、このプロジェクトでは、長期的には環境と人権の問題両面の解決に取り組む予定だ。
住居を持てない問題は、様々な社会的なサービスを受けられなかったり、心理的負担が増加したりするなど、生活の質を大きく下げる。近年ハウジングファースト(安心できる住まいを得ることが最優先であるという理念)の普及など、住居に関する権利への関心が高まっているなか、このプロジェクトは野心的で必要性の高いものだと言えるだろう。民間非営利団体主導のプロジェクトが、法律や行政に今後与える影響に注目される。
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【参照サイト】State of Homelessness