長崎県壱岐市が日本初の「気候非常事態宣言」。2050年までにゼロエミッション、再エネ自給率100%目指す

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エメラルドグリーンの海。新鮮な魚介類。九州の北西沖に浮かぶ離島、長崎県壱岐市(いきし)は福岡から高速船にのれば1時間でいける、観光名所としても人気の場所だ。この壱岐市が2019年9月25日、議会定例会において、日本で初めて「気候非常事態宣言」を可決、承認した。

壱岐市のツインズビーチ

壱岐市のツインズビーチ

気候非常事態宣言とは、国や、自治体、学校、団体といった組織が、気候変動が異常な状態(気候危機)であることを認める宣言を行うと同時に、気候変動を緩和するための積極的な政策を打ち出すことによって、市民や事業者などの関心を高め、気候変動への行動を加速させるものだ。

平たく言うと、「火事だ!」と警報を鳴らすことによって人々の注目を集め、火事=気候変動を緩和する政策を積極的に打ち出すことだ。目的は、人類、社会経済、エコシステムを守ることにある(※1)

世界で最初に宣言を出したのはオーストラリア・デアビン市。草の根活動家が政治家に個別に働きかけを行い、2016年に議決にこぎつけた。その後、欧米を中心に拡大し、今や世界中で1100以上(2019年10月時点)もの国や地域、組織が宣言を出している。実際、この原稿を執筆している間に、神奈川県鎌倉市からも同様の気候非常事態宣言が出された。

壱岐市が全国に先駆けて宣言を出したきっかけは何か、今後どのように気候変動に取り組んでいくのか。壱岐市総務部 SDGs未来課 課長の小川和伸さんに話を聞いた。

※1 急速に拡大する世界の気候非常事態宣言についての考察,東京大学名誉教授 山本 良一,20190802

気候危機宣言の背景には、豪雨と藻場の減少

壱岐市が気候非常事態宣言を出した背景には、気候変動による自然災害が顕著になってきたことがあげられるという。「2017年は50年に一度という豪雨が2回、今年(2019年)もすでに同規模の豪雨に見舞われました」と小川さん。この傾向は全国で見られる。たとえば、50ミリ以上の雨の発生回数は右肩上がりで増えている(※2)

また、海水温の上昇により、魚の住処となる藻場が大幅に減少。2016年には前年比で漁業総生産量が3割減少した。2017年の漁獲量を10年前と比較すると、6割も減少したという。漁業を主な産業とする壱岐市にとっては大打撃だ。

小川さんは、「後継者不足もあいまって漁業をやめる人もいます。藻場を回復させる取り組みも行っていますが、気候変動問題を解決しなければ根本的な解決はできません」と語る。環境面だけではなく、地域の経済面にも影響を及ぼししつつあることが今回の宣言につながったのだ。

※2 気象庁 大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化

壱岐市の具体的な気候変動対策は?

宣言文では、2050年までにCO2排出量を実質的にゼロにすることが打ち出された。その方策としては、再生可能エネルギーの活用、省エネルギー、そして4R(Reduce, Reuse, Recycle, Refuse)推進をあげている。

再生可能エネルギーについては、2050年までに100%にする目標だ。現在の再生可能エネルギー自給率は9%。これを2030年には24%、2050年には100%にすることをめざすという。壱岐市は、もともと平坦で日照時間にも恵まれ、太陽光発電に適している。また風にも恵まれ、風力発電にも取り組んでいるが。しかし離島であるため、九州本土とは系統連系(※3)しておらず、また島内の系統の規模も小さいため、多く発電できても出力制限がかけられてしまうそうだ。

実際、2017年の春には九州電力から20回の抑制指令が出されている(※4)。そこで余剰電力を活用し、再生可能エネルギーによって水から水素を製造。蓄電して水素発電を行う計画だという。

また、4Rについては、まず生ごみの水切りを徹底した上で、生ごみ処理機、段ボールコンポスト等の購入に対する補助金制度を設け、減量・堆肥化を推奨。まだ使用するできる服を回収したり、島内産の焼酎のリターナブルビン活用を推進したりする。また、現在リサイクル率は36%と長崎県内1位ではあるが、2027年までにこれを40%まで引き上げる計画だ。

省エネについてはSDGsの取り組みの一環として、中学生を対象に環境教育を行い、子どもから大人に伝えていく他、市の事務及び事業にかかる電気使用量(消費電力)を2020年までに6%削減(2014年比)する目標だ。

※3 発電した電気を電力会社に買い取ってもらうため、電力会社の送配電網に接続すること
※4 壱岐のメガソーラーに見る「出力抑制」の実際

他の自治体や若い世代と協力して解決していく

壱岐市が宣言を出したことは画期的とは言え、気候変動の問題を一自治体だけで解決することは到底できない。そのため、宣言は「日本政府や他の地方自治体に、気候非常事態宣言についての連携を広く呼びかけます」という一文で結ばれている。今回気候危機宣言を出したことで、宣言を検討している国内の自治体からの問い合わせがあったそうだ。

小川さんは「宣言を機に市民の関心を高め、さらには、SDGs未来都市に選定された自治体などとも連携しながら取り組みをすすめていきたい」と語った。

また、最後にIDEAS FOR GOODの読者に対し「小さな自治体の取り組みだけでは根本的な解決はできないので、若い人たちにも現状を知ってもらい、解決に向けた努力ができれば」とメッセージを寄せた。

「あなたたちが裏切ることを選ぶのであれば、私たちは決して許しません」

国連気候行動サミットにおいて、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんは、大人である私たちをこう叱責した。将来世代を守る時間はそう残されていない。

壱岐市、鎌倉市に続いて、国、そして全国の自治体から宣言が出され、「火事」を消すほどの積極的な気候変動緩和策が打ち出されることを期待したい。

【参照サイト】公式 壱岐市ウェブサイト
【参照サイト】Climate Emergency Declaration and Mobilisation In Action