ラストワンマイルの課題にイノベーションで挑む。インドネシア、コペルニクの挑戦

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途上国における社会課題の解決と聞くと、インフラのような大掛かりなものや、ボランティアのようなお金にならない活動をイメージされる方が多いのではないだろうか。敷居が高く、外部の人間が何かしようとしても現地に受け入れられないのではないか、という疑念から、なかなか踏み込めない個人や企業もあるかもしれない。

そんな考えを覆す団体がある。インドネシアのバリ島に本部を置き、日本、アメリカに法人を置くコペルニクだ。同団体は、東南アジアを中心に現地の社会課題の解決になるようなテクノロジーと、そのテクノロジーを実際に使う現地の生活者を結びつけ、彼らの生活改善につなげる事業を行う。

今回はコペルニクの日本法人である、一般社団法人コペルニク・ジャパン代表理事の天花寺氏にコペルニクのユニークなビジネスモデルと事例について伺った。

話者プロフィール:天花寺 宏美(てんげじ ひろみ)

一般社団法人コペルニク・ジャパン代表理事として日本でのコペルニクの活動全体を統括。企業のCSR活動に関するパートナーシップ構築や協業プロジェクト実施とともに、途上国向け製品開発、市場調査、ビジネスプラン作成を行うアドバイザリー・サービスの顧客対応を行う。

アイデアを途上国の課題解決へつなぐ

Q.どのような課題意識でコペルニクが始まったのでしょうか?

コペルニクは当時国連で働いていた創設者の中村俊裕と、同僚のエヴァ・ヴォイコフスカがニューヨークで設立しました。きっかけとなったのは、当時生活改善に関わる、社会課題を解決できるようなテクノロジーが発達しはじめたころで、途上国の課題を抱えている人に近い所で生活者の支援に取り組みたいという想いを持ったことです。

クラウドファンディングのプラットフォームの立ち上げがコペルニクの始まりです。当時は浄水器やソーラーパネルといった、生活改善につながるイノベーティブな商品を世界中から集め、寄付金と共に現地のNGOとつなげる役割をしていました。今も、災害の緊急支援で必要な製品を届ける活動は続けています。

それから9年経った現在は既にあるソリューションだけではなく、まだ世の中に出ていないソリューションを模索しようという動きになっています。まだ世の中に出回っていないものは品質の向上が必要なものもあるので、消費者が必要とするクオリティにするための支援も行っています。

コペルニク天花寺氏

コペルニク天花寺氏

Q.新たなソリューションの支援は、たとえばどのように行うのでしょうか?

これから途上国向けに製品を開発する企業は、どんな流通ルートで、どんな価格で、そして誰に売ったらいいのか、ノウハウがあまりない場合もあります。私たちには製品普及を通じて得たノウハウがありますので、企業向けに製品開発及び流通のサポートをしています。

また、私たちが企業に提供してきた「製品の普及」や「インパクトの見える化」といったノウハウに対し、政府機関、国連機関にも興味を持っていただいています。私たちの事業の大きな柱として「製品の普及」「企業との連携」「政府や公的機関との連携」を掲げています。

Q.世の中にないものを途上国で形にする……難しそうですね。

これまでになかった新しいソリューションについては実証実験を大事にしています。色々なアイデアを小さくテストすることで、軌道修正していきます。軌道に乗ったら現地企業が持続可能な形でビジネスが成り立つようにするまでをお手伝いしています。

コペルニク自らでも、現地のニーズとフィットする可能性のあるケースをテストすることもあります。その実験結果はウェブサイトで公表もしています。

コペルニク天花寺氏

コペルニク天花寺氏

Q.どのような方からお問い合わせを頂くのでしょうか?

新興国をメインにビジネスをしていきたい企業から相談いただくことが大半です。金融業界やメーカーなど、業種は様々です。現場の感覚を1次情報として持っている私たちだからお手伝いできることが多いです。

官民連携でイノベーションを

Q.企業との連携事例を教えてください。

そうですね。三菱電機さんの「バイクの荷台に積める冷蔵庫」はゼロから始めたアイデアですね。これまで魚売りは、魚を入れたバケツに水と氷を入れて運んでいたのですが、早く売り切らないと品質が悪くなってしまっていました。

こういったことを三菱電機のデザイナーさんと共に現地の生活者にヒアリングし、製品を通じて、どうしたら生活者の収入を向上できるか、ビジネスモデルを考えながら製品開発を進め、試作につなげました。

また、NHK教育テレビジョン(Eテレ)などの番組を制作するNHKエデュケーショナルさんとの共同事業では、教師が生徒に一方的に知識を伝えるだけだった理科の授業を、生徒と教師が相互に対話しながら学べる授業に切り替えるお手伝いができたかと思います。

授業でNHKエデュケーショナルさんが提供するビデオを授業に導入したことで、教師の授業の助けとなり、新しい指導方法を導入するきっかけとなっています。また、貧困層だけでなく、教育に関心の高い富裕層にも販売し、収益化にもつながっています。

Q.これからの展望を教えてください。

企業活動と途上国の連携については日本や現地の公的機関も興味を持っています。民間と私たちだけでなく、官民合わせてイノベーションを起こしていく必要があると思います。

公的機関としても、「日本のイノベーションを金銭面で支援したい」「公的機関が持つネットワークを活用したい」といった考えを持っています。個でできることは限られているので、大企業の中の新規事業と組んだり、こうした公的機関と組んだりと、さまざまな立場の人を巻き込んでいきたいと思っています。

コペルニク天花寺氏

コペルニク天花寺氏

インタビュー後記

「途上国のラストワンマイルに技術を届ける」これまで企業単体でできることは限界があった。製品の拡散力や現地との細かいやり取り、現地ならではの慣習といった、収益に対するコストがあまりにも多いことからなかなかビジネスにはなりづらかった。

これからはコペルニクのような、現地ともともとつながりがあるような法人がオープンにパートナーシップを広げることで、途上国にビジネスの門戸が大きく開かれていく。今後のコペルニクのパートナーシップに注目したい。

【関連サイト】コペルニク

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