アフリカの一部地域では今もなお、HIVが猛威を振るっていることをご存知だろうか。HIV.govによると、現在HIVの感染者は3790万人にのぼり、その約70%がサハラ砂漠以南のアフリカに集中している。世界の中でも貧しいとされているアフリカ諸国では、HIVが死因のトップを走り続け、年間約47万人(死者の61%)がエイズなどHIVに関連した病気で亡くなっているという。
HIVは早期に発見さえできれば、薬などで免疫力の低下を抑えることができ、エイズへの進行を防ぎながら通常の人となんら変わりなく長生きすることができるのだが、貧しい地域ではなかなか早期発見に至れていないのが現実だ。
早期発見への障害の1つに、HIV検査のできる病院の不足がある。地方に検査のできる病院が少ないため、大きな町までの長い移動を強いられることが多く、これが低所得者にとって検査への大きな足枷となっている。また、地方ではHIV検査に必要な物資も不足しており、検査を受けたくても受けられないこともある。
このような理由から、近くに検査のできる病院のない地域では、エイズを発症する段階になってからHIVの感染に気づくケースも少なくない。そんな状況の中、誰でも簡単にHIV診断のできる検査キット「CATCH(キャッチ)」が発表された。
「BEFORE IT DEVELOPS, CATCH IT(進行する前に、HIVを発見するんだ)」というコンセプトで生まれた検査キットCATCHは、イギリスのプロダクトデザイナーであるハンス・ラムザン氏(Hans Ramzan)によって開発された。
この検査キットの特徴は、まず自宅で検査できることだ。従来の方法では専門医が検査を行うのが一般的だったがCATCHの使用には医師の監修は必要なく、自分の家で検査できるため、わざわざHIV検査のために遠方の病院まで足を運ぶ必要がない。
また、医療への知識が少ない人でも直感的に使用できるデザイン性にも注目だ。検査はたった3ステップで終了する。まず指を消毒するために青い部分に指をスライドさせ、次に採血のための針を下げる。最後にボタンを押して結果を見れば、検査は完了。ややこしい説明書を読む必要がないことから検査へのハードルが下がり、広い範囲で普及することが期待されている。
他にも、検査キットの一部にリサイクルプラスチックが使用されていることも特筆したい。昨今、プラスチックゴミが問題視されているが、耐久性に優れていることや、重さが軽く運搬が簡単なことから、プラスチックは検査キットのように広い範囲で使用が想定されるものにはうってつけの素材だ。CATCHは、リサイクルされたプラスチックを使うことで、プラスチックをゴミにせず「価値ある素材」として使い続ける仕組み作りに貢献している。
CATCHの開発は、ラムザン氏が自身の叔母を不治の病で亡くしたことがきっかけだった。「もしもっと早くに病気を見つけていれば、叔母の生存率はかなり高まっただろう。この後悔が僕を動かしたんだ。」とラムザン氏は語る。
CATCHは1つ4ポンド(約560円)で販売される予定だ。自宅で簡単に使えるようにしたことでユーザーの抵抗を大幅に削減し、経済的にもユーザーに寄り添ったHIV検査キット。使用が広く浸透し、HIVによる病気の発症者の減少に貢献することを期待したい。
【参照サイト】Catch
【参照サイト】Number of deaths due to HIV
【参照サイト】The Global HIV/AIDS Epidemic
画像提供:hans ramzan