料理ワークショップで学ぶ、デンマーク式デザイン思考の本質

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IDEAS FOR GOODではこれまでも複数回に渡り、あらゆる角度からデンマークについて紹介してきた。なかでも日本とデンマークを繋ぐキーパーソンのひとり、ニールセン北村朋子さんにはたびたび、現地在住ならではの視点から「食」や「暮らし」、ひいては「民主主義」にいたるデンマークのエッセンスを教えていただいている。

現在ニールセンさんは、ニコライ・フロストさんと共に、デンマーク・ロラン島にフォルケホイスコーレを設立準備中でもあり、すでに短期間のパイロット版を数回実施している。毎回、国内外から年齢もバックグラウンドも様々な参加者たちが集まり、満足度の高い学びの時間を過ごしていると聞く。

今後はいよいよ教育機関として常設のフォルケホイスコーレとなるべく、現在もメソッド開発などが進んでいるようだ。そんななか今回は、ニールセンさんとニコライさんが都内で行ったワンデーワークショップの場にお邪魔してきた。

この日の参加者は約20名。その多くがロラン島における短期間フォルケホイスコーレの体験者たちだ。久しぶりの再会を喜びあう姿があちこちに見られるなか、ニコライさんからその日の内容が伝えられた。

「今日はまず最初に、デンマークのデザイン思考がどんなものなのか改めて説明します。実例もいくつかご紹介するので、そのあとはグループごとに議論する時間を持ち、最後はみんなで食事を作って食べましょう」

ニコライさん

ニコライさん/写真提供:原 裕

ルールは可能性を広げるためにある

デンマークのデザイン思考には、誰のことも見捨てない、誰もが発言していい安心感が基本となり、価値観は一人ひとり違うという大前提の上で議論が進む。合意形成にいたるプロセスは見事なまでに民主的で、ニコライさんの話では、物ごとの「コンセプト(概念)」を考え、「プリンシパル(決まりごと)」を議論し、「マニフェスト(宣言)」を確定させるという議論のフローにポイントがあるようだ。(デンマーク料理界のマニフェストに関しては、こちらの記事でも紹介している)

わたしたちは全員違うからこそ「コンセプト」を共有し、本当に大切なことを「マニフェスト」として確定させる。そのための「プリンシパル」は徹底的に議論され、何が本当に大切で、外してはいけないことを明確に言語化する。プリンシパルはいわばルールのような意味合いだが、決して禁止事項を掲げるものでもない。むしろその逆で、ベースラインを決めることで他のすべてに自由な発想が認められるのだ。ニコライさんは「ある程度の縛りがあることによって、守るべきことが明確になり、それは文化として醸成(じょうせい)される」と話す。

求める社会の姿を議論したあと、文具や木製パーツを使って自由に具現化してみることも。/ 写真提供:原 裕

この日は限られた時間で行われたショートバージョンだったが、ニコライさんとニールセンさんは今後、フォルケホイスコーレでの実用に向けてさらなる改良を重ねるつもりだという。どんな人も参加しやすいことを考えたワークショップは、目指す社会の実現に向けた「ファーストステップの踏み出し方」とも言える。完成版は日本社会のためにも、より多くの人に体験の機会があることを願う。

そして議論のあとは「おいしい時間」へ。それも同じくデザイン思考が活かされた、民主的なディナーとなった。

レシピは一切なし。チームでつくる料理はデモクラシーの体現

調理グループは、おむすび、魚料理、野菜料理、スモーブロー(デンマークのオープンサンドイッチ)という4つ。自己申告制だがニコライさんの掛け声ひとつできれいに分かれた。

ニールセンさんたちが用意してくれた国内外の素晴らしい食材を自由に使って料理をするのだが、何をどう作るのか、指示してくれる人はいない。ニコライさんからのリクエストはたった2つ。なるべく五味(甘味・辛味・酸味・苦味・塩味)を意識すること、そして「できれば1時間20分後にはみんなで食べ始めたい」ということだけだ。そのためどのグループも、どんなメニューを作るのか、仕上がりのかたちを相談し、役割を決めたら手早く作業を開始した。ついさっきまで社会的な議論を交わしていた場が、一気に厨房のカオスに変わる。食材を分けあったり、道具や調理場所を共有しあうといったグループを超えた連携もにぎやかに進んだ。

全員分の煮りんごをつくるニールセン北村朋子さん。/ 写真提供:原 裕

ワークの様子

写真提供:原 裕

調理は食事という目的に向けたプロセスだが、この時はまるで、「幸せ」を代名詞にされて久しいデンマークの根幹を思う体験になった。参加者のクリエイティビティ頼みであることが、「全員で参加することの安心感」と「最終的な仕上がりへの貢献」を味わえるからだ。

自分にはなかった発想を誰かが提案してくれたり、偶然にもアートピースのような美しい盛りつけが生まれたり。何度となく誰かが褒めてくれて、他の誰かは助けてくれて、また、教えあって、笑いあって、認めあって。芋の皮を剥きながらソーシャルな感動を覚えたのは初めての体験だった。

ニコライさんはケールの葉をオーブンで焼き、クリスピーなチップスを披露。

ニコライさんはケールの葉をオーブンで焼き、クリスピーなチップスを披露。/ 写真提供:原 裕

そして、予定通りの時間に全ての料理が並んだ。企画したニールセンさんとニコライさん自身が感動で目を潤ませるほど、プロセスを含めた最高のアウトプットの完成だ。厳選された食材と全員の両手が活かされた料理の品々。どもれこれも格別なおいしさだった。

「社会のあり方を考える」というと、堅苦しさを覚える人もいるだろう。しかし、体験を通して自分の理想を実感し、言葉にする強さが芽生えることもある。今度はぜひ、あなたなりのファーストステップを踏み出してみてはどうだろうか。

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