イギリスの大手お菓子メーカー、キャドバリーが、自社チョコレートバーの包装からブランド名や成分などの言葉をすべて削除するキャンペーンを行っている。その目的は、高齢者が抱える「孤独」への関心を高め、言葉の寄付を促すため。これは一体、どういうことだろうか?
現在、イギリスの高齢者の多くが「孤独」な状態である。定年退職したり、家族に先立たれたり、病気になったり、さまざまな理由で高齢者は近しい人と過ごす時間を失ってしまう。キャドバリーと高齢者の健康や生活の向上に取り組むNPO、Age UKの調査によると、260万人の高齢者(65歳以上)は、1週間に話すのは3人以下の知り合いのみと回答。そのうち22万人もの高齢者は、1週間誰とも話さずに過ごしているという。
このキャンペーンでは、言葉を排除したチョコレートバーが、会話のない日常への違和感に気付いてもらう役割を持っている。1週間誰とも話さないとどうなるのか、その様子をありありと伝えるキャドバリーの動画がこちら。
コメディアンのスー・パーキンス氏が、実際に30時間誰とも話さない生活を体験。会話がないことはもちろん、テレビも電話も、スマホでSNSを見るのもだめ。ご飯も寝るときも一人。はじめは単に面白くないな、という表情だったスー氏だが、時間が経つにつれて表情は険しくなり、最後にはまるで病気にでもかかったかのように、ソファに横になってしまう。
わずか30時間ほどとはいえ、その辛さを経験したスーは、身近な高齢者にほんの一声かけること、つまり「言葉の寄付」を呼びかけている。会ったら「こんにちは」と挨拶をする、天気の話をする、昨日あったサッカーの試合について話す。何気ない会話が孤独に苦しむ高齢者の暮らしを大きく変えることにつながる、と訴えたのだ。幸い、調査によると、イギリスに住む16から45歳の67%は孤独を感じている高齢者の自信を高めるために貢献したいと回答している。
キャンペーン中、キャドバリーの言葉を排除したチョコレートバーが1本売れるごとに、30ペンスがAge UKに寄付される。同団体ディレクターのキャロライン・アブラハム氏は「孤独は、健康や暮らしはもちろん、自分自身の見え方にまで影響を与える。まるで自分が見えないものや忘れられたもののように感じてしまう」と孤独でいることの問題を指摘した。
2018年には、「孤独担当国務大臣」を新設したイギリス。高齢者だけでなく身体障がい者、子育て中の親、子どもまでもが孤独を感じており、その結果、健康を害するなどして年間320億ポンド(約4.9兆円)もの損失につながっているという。今回の取り組みはこうした国の政策の影響もあるのだろう。
日本ではまだこうした孤独に対する国としての政策は見られないものの、同様の問題は日本でも散見される。身近なおやつ、チョコレートが孤独解消につながる一手になるか、ぜひ注目していきたい。
【参照サイト】Cadbury are joining Age UK to fight loneliness
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