ロンドン・カレッジ・オブ・ファッション、サステナブルなファッション選びのガイドを公表

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サステナブルファッションという言葉が世界中で認識されるようになって、しばらく経つ。人々にとって、いかにサステナブルにエシカルにファッションを楽しむか、考えるきっかけを与えるものも既に数多く存在している。特に、2015年に発表されたドキュメンタリー映画『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』に影響を受けた人も多いのではないだろうか。ファストファッションの製造における人道的な問題や甚大な環境汚染を露わにしたこの映画を通して、ファストファッションを中心に現行のファッションビジネスには改善が必要であるというメッセージは広まった。

ファッション業界が抱える問題に注目が集まる中、「あれはだめ」、「これも避けた方がいい」といった情報は、メディアやソーシャルメディア上でも手に入りやすくなっている。その一方、ファッションの楽しみとサステナビリティを両立しようとすると、「どう選べばいいの?」、「ベターチョイスはどこにあるの?」という疑問が必然的に生まれる。

サステナビリティという言葉の持つ意味は幅広いゆえ、ファッションに限ったことではないが、100%完璧な答えというのはなかなか存在しないのが現実だ。何事も一長一短であり、最悪の場合は、一見ベターに見えるチョイスもグリーンウォッシングになりうる危険性が潜んでいることもある。

そうした中、サステナブルなファッションを選ぶ際の有力な手引きの一つとなるガイドが発表された。世界有数の名門ファッション校、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションによる「スタイルガイド:ファッションとサステナビリティを探って(Style Guide: Exploring Fashion and Sustainability)」 である。

「変化に向けて、声をあげる存在になりましょう」

このガイドは、2月頭の英国アカデミー賞(BAFTA)の発表前に、授賞式に出席しレッドカーペットで注目されるスターたちに向けて、当日のファッションの指標としてリリースされた(実際には、その後に開催されたアメリカのアカデミー賞の受賞者の方が、このガイドに載っている案を多く採用していたのだが)。世界中の視聴者に向けて影響力がある存在である著名人向けのサステナブルファッションを啓蒙する内容だが、一般消費者にも多くの学びが見つかる。

「テキスタイル業界は気候変動の主となる要因であり、国際的な海上・空中の飛行と輸送の合計より大きな影響をもたらす」「製造された5着の服のうち、3着は12ヶ月以内に埋め立て地に送られる運命にある」「ファッション業界が排出するゴミの量は前例のないレベルに達している」と警鐘を鳴らし、「最もサステナブルな衣料とは、私たちが既に持っているもの(この世界に存在しているもの)だ」としている。

製造過多と消費主義拡大により、衣料一着ごとのライフスパンが短くなっている現在。悪化の一途を辿る現状に歯止めをかけるべく、ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションは5つの提案をするとともに、それぞれの提案におけるおすすめのサービスや、参考情報を提供している。

提案1:リセールサービスを利用する

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Image via Shutterstock

先述の「私たちが既に持っているもの」を活用する方法の一つが、リセール(再販)サービスの利用だ。日本でもリサイクルショップや委託・買取したデザイナー衣料の販売のビジネスはかねてから存在するが、これらは今、サステナビリティの視点から大きく注目されている。ここで言うリセールビジネスは、マーケット型の買取・販売のみだけではなく、個人間で売買取引ができるサービス(日本でいうヤフオク、メルカリ、ラクマのようなサービス)も含めている。

ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションがおすすめするリセールサービス

マーケット型
個人型

アメリカでのケースだが、最近では大手高級デパートであるNordstromもリセール商品の売り場を導入したことがニュースになった。中古品のリセールは、今後も大きな成長が見込まれるマーケットだと言われている。

提案2:レンタルサービスを利用する

UberやAirbnbなどのシェアリングサービスが身近なミレニアル世代やZ世代にとって、受け入れやすいスタイルとして提案されているのが、レンタルサービス。

「(結婚式やパーティなどで)1回しか着る予定がないから」とファストファッションを購入していた消費者にとって、1回だけ着る服を所有しなくとも、1回だけ着るエクスペリエンスを買うサービスだと考えることができる。

ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションがおすすめするレンタルサービス

しかし、筆者は先日、ファッションのレンタルサービスが潜在的に持つ問題に関して、気になる記事を見つけた。ファッション大手のELLEによる、「服をレンタルすることで、ワードローブはよりサステナブルになるのか?」という記事だ。レンタルサービスの多くは、オンラインで服を選ぶと個人宅に発送され、一定期間後に返却するというスタイルを取るが、この記事では、往来する輸送による環境負荷と梱包によるゴミの問題が指摘されている。さらには、返却されるたびにドライクリーニングが施されるが、それに使用される強い化学物質による環境汚染も無視できない。加えて、循環型としての魅力を持つレンタルサービスだが、多数の人が異なる使い方をする循環を通して、服の消耗を速め、1着1着のライフスパンはかえって短くなる可能性もある。

レンタルサービスの人気が高まり拡大している中で、立ち寄り型のローカルな店舗展開でのレンタルの拡充や、クリーニング方法の見直しなど、業界側から見直すべき点は多くある。消費者側も、いくらレンタルとはいえ過剰に利用するのではなく、ファッションに対し高まり過ぎてしまう欲求を抑えることも重要だ。

提案3:サステナブルなブランドを選択する

中古品やレンタルではなく新品を購入する際は、より慎重に賢く買い物をするべきである。環境に優しい素材の開発・利用、アップサイクル、労働環境の管理、透明性など、サステナブルなコンセプトに挑戦しているブランドやリテールビジネスは既に存在しており、それらをサポートすることを提案している。

ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションがおすすめするサステナブルなブランド

ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションがおすすめするリテールビジネス

IDEAS FOR GOODで以前取り上げたアプリGood on Youも、サステナビリティの指標を見極める情報源として掲載されている。

提案4:好きなものを長く愛す

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Image via Shutterstock

続いては、いかに個人が一つ一つの衣料のライフスパンを長くするかについて触れている。まずは当然、丁寧に扱い、そして支障が出てきた際には信頼のおける専門家に修理を依頼することは大切だ。しかしこのガイドがもっと重きを置いているのは、消費者のマインドセットの部分だ。

まずは購入する前に、「本当に必要かどうか」をじっくり考えること。一般的なイギリス人は、着ていない、もしくは忘れ去っているアイテムを、一人当たり57点も所有しているとか。さらには、計算上ではその内の16点は1度しか着ておらず、11点はまだ新品でタグがついた状態であるとも言われているそうだ。それらの日の目を見ない衣料にも、大量の水・エネルギー・原料が使われ、労働者の手によって作られ二酸化炭素を排出した上で手元に来ていることを忘れてはいけない。

そういった手付かずになっている衣料を見直し、スタイリング方法を考え活用することに努めたり、どうしても不要であれば周りの人に譲ったり交換をしたりすることも、責任を持ってファッションを楽しむ方法の一つである。

さらには素材について。ポリエステルなどの化学繊維は洗濯するたびにマイクロプラスチックを放出するため、好ましいとは言えない。服を長く愛すのが大切とはいえ、ライフスパンが長ければ長いほど、化学繊維衣料は海洋汚染に繋がってしまう。最終的に衣料の寿命が終わった際に自然に還元しやすいという点も含め、天然素材を推奨している。

そして不要になったものは、極力、そのままゴミとして出すのではなく、人に譲る、リセール、リサイクルなど、次の行き先を探すことも重要だ。

提案5:情報にアンテナを張る

最後の提案は、ファッション業界の抱える問題を議論し、取り組みやすいサステナブルファッションのアイデアを献身的に発信する、ソーシャルメディアからの情報に注目すること。

一度に全てを吸収しようとすると、情報に埋もれ息苦しくなることもある。メディア、団体、インフルエンサーなど多くの情報源がある中で、自分にとって特に集中的に取り組んでいきたいと思うポイントを見極め、それに合った情報をセレクトしていくのも大切だ。

ロンドン・カレッジ・オブ・ファッションがおすすめするインスタグラム

まとめ

ファッションは、衣食住の一つであり生活に欠かせないものでありながら、自己表現のツールでもある、非常に興味深い分野だ。しかし一方で、環境への負荷が他の産業と比較しても非常に大きく、そして消費者の目には見えにくいところで多くの犠牲が生まれ、代償が払われている。業界全体で問題を見据え、ファッションビジネス自体のシステムを早急に改善していくことがまずは重要だ。それと同時に、消費者も、慣習化してしまっている今のファッションのあり方と今一度向き合い、一人一人が意識改革を進めていく必要がある。

冒頭で述べた通り、サステナビリティの解釈は幅広い上に、新しい考え方や技術が日々生まれている中で、100%の正解というものは存在しない。業界側と消費者側どちらもが理解を深め、「よりよいファッション」を目指していく姿勢を保つことで、現代におけるファッションの楽しみ方はより拡大していくであろう。

【参考記事】Style Guide: Exploring Fashion and Sustainability (London College of Fashion, UAL)

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