日本の伝統的な衣服・着物。洋服文化が流入・定着した今、着物は、成人式や結婚式といった特別な日のための装いになりつつある。かつて日常的に着物を着ていた父母(祖父母)も今では洋服を着ることが増え、立派な着物はタンスの奥にしまい込んだまま──そんなご家庭も少なくないのではないだろうか。
今回は、そうした着られる機会のなくなった着物に新しい命を吹き込む小さな洋服屋「babanofuku」をご紹介したい。
筆者が「babanofuku」に出逢ったのは、2020年8月29日に参宮橋Atlyaで開催された「ワタシクリエイトminiFES」に足を運んだときのことだ。「ワタシクリエイト=自らの幸せから半径3mの幸せへ、そして社会をより良くしていく」というコンセプトにちなんだエシカルアイテムやハンドメイドアクセサリーなどが並ぶ会場──その一角に並ぶ洋服の可愛らしさと、「大事な着物をほどいて作る唯一無二の洋服」というPOPの一言に引き寄せられるようにブースを訪ねたのだった。
babanofukuの洋服は、一枚の着物をパーツごとに分解して仕立て直した一点もの。すべて「ばあば」こと松野一二三さんの手仕事でつくられている。
「一枚の着物をほどいて、それぞれの布地の大きさを見ながらどんなものが作れるかを考えるんです。メインの洋服を作ったあと、着物によっては小さな端切れが余ってしまうも多いのですが、そういうものは組み合せて一枚の服にしたり、あとでパッチワークのようにしてバッグにしたりしています」と一二三さんは言う。
彼女が着物を洋服に仕立て始めたのは、3年くらい前のこと。はじめは、もう着なくなった着物を、自分で着るために仕立て直していたという。完成した洋服の質の高さに驚いた娘の泰子さんは、自身の運営するウェブサイトのなかに手作り服の通販ページをつくることにしたのだそうだ。
筆者が、ハンガーラックに並ぶ美しい洋服に見惚れていると、一二三さんは過去の作品を撮りためたアルバムを見せてくれた。
「はじめのころに作ったこの服は、私と孫とでおそろいにしたんです。今でもよく孫が着てくれていますよ」と彼女は微笑む。
洋服をつくる材料となる着物は、自分が持っていたものや、叔母のもの、ご主人の母親のものなど様々。彼女の仕立ての腕前を耳にして「こんな洋服をつくってほしい」と着物を持ちこむ人もいるそうだ。また、着物だけではなく浴衣や帯を材料にすることもあるという。一二三さんによると、浴衣からつくった服は、身体にくっつきづらく肌触りがいいため「どんな季節でも気持ちよく着られるアイテム」になるのだとか。手軽に洗えて普段使いしやすいのも嬉しいポイントだ。
──伝統文様を活かした落ち着いた雰囲気のチュニック、モダン柄のシックなワンピース、ワンポイントの大きなモチーフを活かした印象的なスカート──もとの着物の美しい柄や質感を活かして作る一二三さんの洋服は、デイリーに着られそうなものから、ハレの場にぴったりの華やかなものまで多岐にわたる。
「過去には『子どもが入学式で着る服をつくってほしい』とお願いされたこともあります。真っ赤な着物をワンピースに仕立て直したのですが、式当日はそれを着た彼女が一番目立っていたみたい!(笑)」
かつて父母や祖父母のものだった着物は、ばあばの得意な洋裁で、子や孫をやさしく包む洋服へと生まれ変わってゆく。美しい着物と、着物に詰まった想い出──どちらも大事に守りつぐやさしい手仕事に心惹かれた方は、ぜひWEBサイトをチェックしてみてはいかがだろうか。
◇2020年10月21日(水)~27日(火) 松屋銀座7Fにて開催される「ワタシクリエイトcollection」にてホリスティックな生き方や未来に継ぐ手仕事など様々なストーリーを持つブランドとともに、babanofukuも展示販売。手にとって試着できる機会にぜひ足を運んでみてほしい。
【参照サイト】babanofuku
【参照サイト】ワタシクリエイト
【参照サイト】ワタシクリエイトminiFESレポート
【参照サイト】Atlya