事業で地球を「改善」。サステナブルの一歩先「リジェネラティブ」に取り組む企業たち【イベントレポート】

Browse By

カリフォルニアでの森林火災や中南米のハリケーンなど、過去最大規模の自然災害が毎年のように発生し、被害が後を絶たない。このような気候危機が深刻化している原因の1つは、工業的な栽培方法や有害な化学物質を使用した食物と繊維の栽培が挙げられる。世界中の年間温室効果ガス排出量の4分の1を占めていると言われている工業型農業に代わり近年注目されているのが、大気から炭素を取り出しそれを地面の中に貯めこむことができる「リジェネラティブ・オーガニック農法」だ。

当セミナーでは、事業を通じてリジェネラティブ・オーガニックを推進し、気候危機対策を積極的に行なっている企業とリジェネラティブ・オーガニックの本質と可能性を探り、企業のあり方について考える。2020年10月15日に開催されたセミナーの内容をレポートする。

登壇者プロフィール
パタゴニア プロビジョンズ マネージャー 近藤 勝宏 氏

近藤さん1973年生まれ。神奈川県出身。1995年、パタゴニア鎌倉ストアにパートタイムスタッフとして勤務。正社員として入社後、ストア、マーケティング部門のマネージャーを経て、2016年よりパタゴニアの新しい食品事業の日本担当マネージャーとなる。日頃からサーフィンやスノーボードなど愛好し自然と親しみながら、より環境負荷の少ないライフスタイルを探求している。
https://www.patagoniaprovisions.jp/


株式会社ラッシュジャパン コミュニケーションマネージャー 丸田 千果 氏

丸田さん学生時代をカリフォルニア・ベイエリアで過ごし、教育コンサルタント、プランナーの仕事を経て、2014年株式会社ラッシュジャパン入社。化粧品のための動物実験反対、LGBTQ+の権利、難民支援、再生可能エネルギー普及などのエシカルキャンペーンを担当後、採用プロジェクトやデジタル体験を駆使したコンセプトショップなど、幅広くブランドストーリーを伝えるコミュニケーション施策をリード。リジェネレイティブバイイングのプロジェクトでは鳥を追い、日本の里山文化に魅了される。株式会社fogのChief Oshaberi Officerとして循環と再生がキーワードのおしゃべりアワー「fog tv」に出演中。
https://jn.lush.com/tag/lush-times-join-the-regeneration


みんな電力株式会社 社長室プロジェクト推進1チーム 長島 遼大 氏

長島さん1995年、横浜市生まれ。大学卒業後、環境問題を学ぶため13カ国を周り、5カ国でボランティア活動を行う。帰国後、2018年12月みんな電力株式会社に入社。再生可能エネルギーの利用を普及させるため、生産者と消費者が直接会える“発電所ツアー”や、再エネ利用企業と社会貢献意欲の高い学生のマッチングを目指す就活イベント“電力就活”といった様々な企画を担当。休日は、有機農家と共に立ち上げた“畑を中心とした新しいコミュニティ団体”の活動を通じて、地元横浜市で農業を行う。
https://minden.co.jp/

このセミナーでは「リジェネラティブとは何か」と「なぜ今リジェネラティブが必要なのか」の2つのことについて理解し、考えていきたい。

まずはパタゴニアの近藤さんから取り組みについてを紹介する。

地球を救うためにビジネスを営む、パタゴニア

パタゴニアはアウトドアスポーツが好きなメンバーが集まり、自分たちが山登りをするために必要な道具を作ることをきっかけに設立された会社である。しかし、会社で製造した道具を持って世界中を旅していると、彼らは変わり果てた自然の光景に衝撃を受けた。その変わり果てた自然をみて、アウトドアがブームになってしまうと、トレイルを楽しむために森が切り開かれ、山の岩肌が傷つけられ、さらにはサーフポイントもなくなってしまい、このままでは自然が破壊されることを実感したのだと近藤さんは語る。

パタゴニアの創業メンバー

Patagonia Archives (C)2020Patagonia, Inc.

「設立メンバーは、パタゴニアのギアが売れれば売れるほど、環境を破壊してしまっていることについて真剣に考えるようになりました。そこで会社のミッションステートメントを『私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む “We’re in business to save our home planet”』と掲げました。ビジネスを通じて今ある環境課題や社会課題を解決し、地球を救っていきたいという想いが込められています。そして、社員一人一人がその手段を考えていく姿勢が求められています。」

その他にもパタゴニアは、「死んだ地球からはビジネスは生まれない。」という考えを大切にしている。地球が壊滅的な状況になると経済活動さえできないので今まさに鬼気迫っている状況だと近藤さんは語った。

「実際に新型コロナウイルスや火災、台風も身近で発生しています。地球を救うべく、まずはオーガニックを基軸に自社製品を開発していますが、それらの取り組みは、気候危機への悪影響を抑えることはできても、気候危機を止めるまでには至らない現実を突きつけられています。そんな中、我々は諦めることなく『問題の症状を超えて、問題の原因(本質)について確信が持てるまでで何度でも問い続けるべきだ』という考えを持っています。問題の本質を突き詰め、それに対してアクションをとるという姿勢で日々活動しています。」

「解決策は土にある」。農業を解決の糸口にして始まった パタゴニア プロビジョンズ

気候危機の原因を突き詰めたとき、要因の一つとして地中と空気中の炭素量のバランスが乱れがある。バランスを保つためには二酸化炭素の排出量を削減することはもちろんだが、空気中の炭素を地中に戻すことが鍵なのではないかと考えている。

「新しいジャケットを数年に1度しか買わない人も、1日3度の食事をします。気候危機を引き起こす要因の4分の1が『食』に由来しているといわれていますが、土壌回復や野生動物の生態系の維持・回復をしながら食品を加工・販売すべきだと考え、パタゴニア プロヴィジョンズが始まりました。」

本気で地球を守りたいのなら、まず取り組むべきは人々の生活により身近な『食』。日々の食事で口にするものがどのように作られたのかを意識することで地球を変えられるのではないかと発足されたのがパタゴニア プロヴィジョンズだ。土や水、動物、環境を修復・回復する方法で食べ物を作り、消費すると食自体が問題ではなく解決策になると考えている。

パタゴニアプロヴィジョンズの製品

Daisuke Hayashi(C)2020Patagonia, Inc.

注目されるリジェネラティブ・オーガニック農業

そんな『食』のあり方を変えようと取り組むパタゴニア プロヴィジョンズが、現在もっとも注目しているのは、表土を再生するのと同時に炭素を隔離する有機農業「リジェネラティブ・オーガニック」だ。

「今までは、なにかを製造するためには環境を搾取しながら素材や資源を使う必要がありました。そして『サステナブル(持続可能)』というコンセプトは環境へ与えるインパクトをゼロに近づける考え方です。一方『リジェネラティブ・オーガニック』は1を作るときに、環境に与えるインパクトをより良い方向であるプラスに変えるコンセプトです。」

このリジェネラティブ・オーガニックという考え方をより多くの消費者に知ってもらい、リジェネラティブ・オーガニック農法で製造している製品を購入してもらいたいと近藤さんは話す。

「また、例えば欧州ではオーガニック産業がたくさんありますが、実はオーガニック製品は環境へのダメージを与えているのです。そこで、自然に悪影響を与えない、むしろ回復するような方法で育てられたものが消費者にとってわかりやすくなるよう、2020年春に『リジェネラティブ・オーガニック認証』をローンチしました。」

このような認証制度や製造背景のストーリーを日本国内、いずれは世界に広め、インパクトを強めることで地球を救いたいと近藤さんは強調した。すると、それを聞いた長島さんがこう感想を述べた。

「私たちは再生可能エネルギーを活用することで、二酸化炭素の排出を抑えることができます。そのため、電気を再生可能エネルギー比率の高い電力会社に切り替えるのは有効です。一方で、すでに出てしまった二酸化炭素を吸収するという視点も今後より重要になっていきます。そこで、土が注目され始めているということなんですね。誰もが必要とする「食べる」という身近な行動を通じて、体の健康も地球環境もより良くなっていくというアプローチは大きなインパクトがあると思いました。」

ハッピーでヘルシーな人生を追及するラッシュ

次にラッシュジャパンの丸田さんから同社のリジェネラティブの取り組みについて紹介があった。

ラッシュはイギリス生まれのコスメブランド。ハッピーでヘルシーなライフスタイルを追求し、既成概念にとらわれない化粧品業界のパイオニアとして挑み続けることをブランドのビジョンに掲げている。さらに2020年6月にはブランドとして大切にする紹介文をアップデートし、初めてリジェネラティブを軸に企業活動を行なうと宣言した。

「ラッシュの信念は、フレッシュでオーガニックかつ安全な化粧品を作ることです。動物実験を行っておらず、安全性を確かめるためには人の肌で製品の品質と安全性を確認しています。私が一番好きなラッシュの信念は、ハッピーな人がハッピーな石鹸作りに携わることを重視していること、そして温かみのある家族経営スタイルです。」

ラッシュは商品開発から製造、そして販売まで全てのサプライチェーンを自社で保有している。香りまで自社開発することにこだわり、約9割がヴィーガン商品である。

また、「フレッシュ・オーガニック」が単なるマーケティング用語を超えて、実際にフレッシュであり、本当に有機であることを大切にしているラッシュ。それは、特定の認証マークを保持していなくても、小さな農家から有機の物を購入し、原材料に取り入れていることで体現している。商品を作った人や、お客様に届けている人の顔を見ることが重要なのだ。

さらに、2018年頃に創立者が改めてラッシュが向かう方向性を明示した、LUSH SECRET MASTER PLANが紹介された。それには「お客様がほしいものではなく、必要とするものを自社で作ること」や「現状に甘んじず、ビジョンの全てを満たす新商品を発明すること」、そして「地球を救うためのコスメテックレボリューションを興すこと」などが明示されていた。

その中で特に印象的だったフレーズは「もう時間がない。革命が必要だ。」という創立者の鬼気迫ったメッセージだ。

普通に買っていては、持続可能な購買活動はもうできない。Regenerative Buyingの必要性

次にラッシュが行うリジェネラティブな原材料調達について言及した。

今までは「サステナブル(持続可能)な」原材料の調達をしていたが、地球の平均温度は年々上昇している。これからは、環境に害を与えないような行動(サステナブルな行動)だけをするのではなく、自分たちが積極的に介入することで、もともとあった自然の豊かさを再生させることにつながる行動(リジェネラティブな行動)が重要だと丸田さんは強調した。

「ビジネスをしながら多方面にポジティブな影響を与えることが企業としての責任です。自社でいうとサプライチェーンに関わるステークホルダーと一緒に製品を生み出し、お客様という仲間に届ける必要がある。顧客に評価されると他企業や組織に影響があります。そしていずれは社会に反映され、世の中のルール(制作や法律)も変えていくことができるかもしれないということを意識しながらビジネスの決断をしていかなくてはいけません。」

このように、ラッシュでは生産者と消費者の枠を超えた、社会のあらゆるステークホルダーへ影響を与えることを視野に入れ、企業活動に取り組んでいることがわかる。

豊かな生物多様性を再生する、リジェネラティブプロジェクト

次に、リジェネラティブに関連するプロジェクトが紹介された。2017年頃から公益財団法人日本自然保護協会と取り組んでいる絶滅危惧種の渡り鳥を指標に、全国各地にある豊かな里山を周りながら原材料の調達をする「渡り鳥プロジェクト」。これは、ラッシュの掲げる信念にBrexitをきっかけに唯一あとから付け足された「自由に移動できること」のテーマに合わせて始まった、環境や社会を再生させることを目的に置くリジェネラティブプロジェクトである。

「このプロジェクトで最初に着目したのが絶滅危惧種のイヌワシが住んでいる群馬県みなかみ町の赤谷の森でした。イヌワシが暮らすためには森の食物連鎖のピラミッドが維持されている必要があります。そのためには、イヌワシが狩りをしやすいよう造林政策で育てられた山を管理しなくてはいけません。そしてその工程で得た自然の恵みをいただいて商品の材料に使用しました。例えば木くずを使ってイヌワシの「ワシ」にちなんで和紙を開発しギフトペーパーに使用したり、他には、もともと存在するラッシュ製品の原材料の調達をストーリーのある地域の湧き水や豆腐などに切り替えました。」

そのあと本格的に渡り鳥プロジェクトとして追い始めた鳥が準絶滅危惧種として登録されているタカ科の渡り鳥、サシバだった。

「サシバが子育てできる場所には、豊かな里山があります。そのような場所では昔から続く米作りが行われています。そんな里山で米作りをしている農家の皆さんから米ぬかや米粉をラッシュで仕入れ、洗顔料などの商品に使用しています。このように、渡り鳥プロジェクトでは全国の豊かな里山から原材料の調達をしているのです。」

環境保護と地域作りは両輪で取り組むことで継続することができるため、ラッシュではリジェネラティブな原料調達をしながら商品を展開している。渡り鳥プロジェクトの他にも、原材料を海外で作られたモノから国産のモノに徐々に変え、地域産業を支えている。例えば、これまでイギリスから取り寄せていた炭を、日本で初めて世界農業遺産に登録された能登半島の炭に変えたり、海外製のウォッカが原料だった商品に宮古島の琉球泡盛を使用したりといった調達の切り替えが少しずつ行われている。

丸田さんのお話を聞き、長島さんが一言コメントを加えた。

「シークレットプランに挙がっていたように、生み出した商品に満足せず、改善をし続けていくマインドは企業としてとても重要だと思いました。どの企業も完璧ではないので、このようなセッションを通じて一緒に考えていくことで、より良い未来を創ることに繋がっていくのではないでしょうか。」

人間も自然の一部として、地球をより良くする役割を担うべき

続いてはトークセッションで対話をしていく。ここではより具体的にリジェネラティブに関する理解を深めるためにいくつかの問いが立てられた。

1つ目のテーマは、「なぜ企業としてリジェネラティブ・オーガニックに取り組むのか?」という問いだ。

パタゴニアの企業としての存在意義は、故郷である地球を救うため、ビジネスを営むことである。そして地球が危機にさらされている問題の原因を突き詰めたときに解決するカギは土だと、近藤さんは土の重要性を改めて説いた。

「土はたくさんの微生物が本来いるところですが、戦争で使われていた技術が農業に転嫁され、農薬や化学肥料を使って効率化を求め、簡単に同じ物をたくさん作る単一栽培が発展してしまいました。そうして望むものだけを育てるために殺虫剤などを使って不要なモノを除去し、土や生態系のバランスが崩れてしまったのです。そこで、土がより健全になるためには、植物が光合成をする際に分泌される栄養素が必要です。つまり、土への栄養を促進させるためには農業をすることが重要だと我々はとらえています。環境を改善させながら自分たちの食をまかなう仕組みを作り、農業で気候危機の解決につなげることを目指しています。」

パタゴニアプロヴィジョンズ 近藤さん

パタゴニア プロヴィジョンズ 近藤さん

現在多くが進めている、効率化だけを求めた方法で農業を進めていてはいけないと、農業に取り組んでいるパタゴニア。彼らの対象とする農業は食品だけではなく、農作物であるコットンなども含まれる。

「例えばコットンの製造現場では、農薬による環境汚染や働いている人が癌になってしまうなど多くの課題があります。そうではなく、コットンを作れば作るほど土壌が改善される仕組みであれば、炭素をより地中に閉じ込めることができるようになります。現在はパイロットプログラムとして実験的にリジェネラティブ・オーガニックを進めている最中ですが、食品だけでなく、土にかかわる農業全般の抱える課題を解決することで地球の危機を救いたいと考えています。」

丸田さんは、近藤さんの意見を聞いたうえで、皆共通する命がキーワードであり、同じ自然の一部であることを心に止めておくことの重要性を語った。

「土の中の微生物やタネも生きていて、土そのものも生きています。人間も命をつなぐシステムの一部として関わらせてもらっていることを忘れてはいけないと思います。ラッシュは特に自然の恵みを原材料として使っているため、供給量や価格の変動がビジネスに影響しています。我々は自然の恵みをいただいてビジネスを営んでいるので、自然の再生プロジェクトに参加させてもらえるよう、謙虚でいたいと思っています。」

一般的に使われる、”Let’s save the planet” という表現は人間が自然より外にいるか、上の立場から発しているイメージだと丸田さんは付け足した。自然と人間を切り離すのではなく、どうしたら人間も生態系メンバーの一員として役割を果たせるのかを真剣に考えないと企業はビジネスをやっていけなくなるのではないだろうか。

環境だけではない、包括的な「再生」が重要

続いてのテーマはリジェネラティブは環境だけではなく、人だけでもない動物も含まれる包括的な意味としてとらえられることについて話題が提供された。

パタゴニアが役員として参加する「リジェネラティブ・オーガニック・アライアンス」が独自に作成した、先ほど紹介されたリジェネラティブ・オーガニック認証について近藤さんから、説明があった。

「リジェネラティブは日本語で『再生』などと解釈されますが、その言葉だけを取るといろいろな意味があります。リジェネラティブ・オーガニック認証は、既存のオーガニック認証をベースに置きつつ、カバーしきれていない指標を包括的に取りまとめた認証制度です。」

    リジェネラティブ・オーガニック認証の要件

  1. 土壌の健全性(より豊かになる農法)
  2. 労働者の公平性(持続可能な労働に従事しているか、労働者の公平性の担保)
  3. 動物福祉

これらの指標にもあるように、リジェネラティブ・オーガニックを実現するためには、自然に限定せず、動物や人も含めた包括的な再生が大切だと近藤さんは強調した。

次に長島さんから、ラッシュが動物実験を禁止している理由について質問を受け、丸田さんはこう答えた。

「動物実験をしていない一番の理由は、安全性の精度を高めるためです。人が使う化粧品は、人と種差のある動物ではなく、人で試す必要があるからです。また、安全性を担保するために動物を犠牲にしたくないという想いがあります。」

生き物それぞれの役割について近藤さんも補足した。

「動物にも人間にも役割があります。すべて地球上の生き物は環境の一部なので、すべての動物や微生物もお互いに連鎖し結びついています。例えばアメリカなどの大草原は一番炭素を固定していましたが、戦後開発されて土が死んでしまい、砂漠化してしまった歴史がありました。そこに本来いるべき動物がその場所に戻ってくると地面に養分が戻り、土が戻り、草が生える事例がありました。その事例からわかるように、それぞれの生き物には役割があるのです。」

未来像を実現するのために必然的にリジェネラティブ・オーガニックが解決策になる

最後のテーマは国内に目線を向け「日本でリジェネラティブ・オーガニックという概念は広まると思うか?」について議論した。

丸田さんはリジェネラティブ・オーガニックという概念は日本にはすでに存在するが、それをどう呼ぶか、そしてどのように消費者に伝えるかが問われていると話す。

「サステナビリティやリジェネレーションの根底にあるカギは、トレーサビリティなのではないでしょうか。生産の背景を含め、商品の製造から販売まで情報がわかれば、一人一人が選択の自由を持てるようになります。リジェネラティブな取り組みに賛成し、広げたいならその商品を購入することで応援になり、他の人に伝えることができます。立場が違っても、同じ思いを持つ人たちが一緒に取り組むことができるのではないでしょうか。こうして皆が自分にとって正しい選択をするためには、製品に透明性を持つことが重要だと考えています。」

ラッシュジャパン 丸田さん

ラッシュジャパン 丸田さん

近藤さんは、理想的な未来を描くと必然的にリジェネラティブ・オーガニックが答えになるのではないかと語った。

「日本人は本来、環境をコントロールするのではなく、環境の一部として共存する意識を持っているので、日本古来の考え方がリジェネラティブ・オーガニックの考えとマッチしていると思います。リジェネラティブ・オーガニックの概念は広がらないといけません。気候が危機的な状況にある中で人々の幸せの価値観が変わり、資本的や物質的なものからより未来のことを考える思考が盛んになってきています。若い世代たちの考える未来像を実現するために世代を超えてしっかりディスカッションし、考えて進めていかなければいけません。我々が思い描く未来像を実現するのための手段のひとつとして必然的にリジェネラティブ・オーガニックに戻るのではないでしょうか。」

新型コロナウイルスが蔓延したことを機に、様々な考え方や行動が見直され、生活様式やマインドを含め、様々なものがリセットされている。リセットされた今、ここからどういった未来を作っていくのかを考えることの必要性を近藤さんは話した。もう過去へは戻らないし、戻す必要もない。未来をどう作っていくのかを考えたときにリジェネラティブ・オーガニックなどのストーリーや考えがすごく重要になっていると強調した。

自分が心地よいと思えるものを選ぶことを日々意識してほしい

最後にモデレーターの長島さんから二人に問いがあった。

「コロナ禍の今、プロダクトを売った先の消費者の意識はどう変わっているのか、あるいはどうしたらエシカル消費を意識する人が増えるのでしょうか?」

近藤さんは自分の消費行動は投票と同じであることを意識してほしいと述べた。

「新型コロナウイルスをきっかけに健康的で栄養価の高い食品を選ぶ消費者が増え、食品のニーズは変わってきています。10年前と比べると消費者の意識はかなり変化し、2020年は一層加速している印象を持ちます。パタゴニアでは消費のあり方を変えていきたいので、自分が食べているものと自身の健康というミクロな視点から社会全体に及ぼす影響というマクロな視点も含め、今自分が購入しているものが何につながっているのかをしっかり考えてほしいです。自分の消費行動は投票と同じなので、そういった意識で日々選択していれば未来は良い方向に変わりますし、私は良い方向へと動きを加速していく役割を担いたいです。」

丸田さんも本質的なエシカルの定義が変わってきていると話した。

「売っている化粧品の背景にはいろんなストーリーがありますが、なにが良いかなどは個人の自由だと考えています。なぜなら、選ぶ人はそれぞれの価値観を持っているからです。自分や周りに厳しくなりすぎず、自分が心地よいと思えるものを選ぶことを日々意識してほしいと考えています。そして私たちは、たとえお客さまが背景のストーリーを知らなくても、商品を知って、見て、『良い』と思ってもらうことが正解だと考えています。」

お二人の意見を聞き、長島さんも感想を共有した。

「食べ物や服や電気を選べるということ、選択肢があると認識することが何よりも大事だと思います。その上で、エシカルやリジェネラティブという言葉を意識して選ぶこともあるかもしれませんが、理想はリジェネラティブかそうではないかという選択ではなく、リジェネラティブという土台の上で、選択肢が多様にあるということではないでしょうか。特に意識しなくても消費が自然の再生に繋がっていると、それぞれの価値観で楽しく消費ができるようになると思います。」

みんな電力 長島さん

みんな電力 長島さん

最後に、お二人から一言ずついただいた。

丸田さん「新型コロナウイルスをきっかけにできた良いことの一つとして、個人も企業も悩みを共有しやすくなったのではないかと思います。競い合っていくのではなく、お互いの弱みを見せながらも強みを使って補い合い、既成概念を壊しやすくなるターニングポイントになったのではないかと思いました。ぜひ今後とも同じ志を持つ方々と一緒に未来の社会を作っていきたいです。」

近藤さん「まだパタゴニア プロヴィジョンズを知らない方も多いと思いますので、ぜひのウェブサイトも見ていただきたいです。リジェネラティブ・オーガニックをコンセプトに掲げるものが売れる仕組みを作りつつ、将来的には日本の文化を反映した食文化を育てあげ、日本に貢献していきたいと考えています。」

編集後記

国内では「SDGs」「サステナビリティ」「サーキュラーエコノミー」そして「リジェネラティブ」など、欧州から来た言葉が独り歩きしてしまい、その本質を見失いがちになることもある。対話の中で、近藤さんは「環境を回復するために新しい技術を開発するのでは解決できません。つまり、昔にもどっていくことが重要で、パタゴニアが取り組み始めた農業のあり方も古代からあるものです。こうして昔のやり方を学ぶことで、より自然な状態に戻すことができるのではないでしょうか。そして、人は土に触れるとすごく幸せな感覚になります。その感覚は人間は皆本来持っているもので、その豊かさを取り戻すことが大切です」と話していた。

新型コロナウイルスをきっかけに、「本質」や「あるべき姿」を見直すきっかけとなった今年。普段の生活様式を変えざるをえなくなった結果、社会だけではなく企業や個人も含め、身の回りの環境から考え方を含め、多くの方が変化を経験したのではないだろうか。対談の中にもあったように、人間も自然の一部だと改めて認識し直し、原点に戻り、人間だからこそ果たすべき役割を今一度考え直したい。

今後とも、両社の取り組みはもちろん「リジェネラティブ」の本質をとらえ、社会や環境に良い影響を与える企業が増えることに期待したい。

 

【関連記事】Tシャツから始まる気候アクション。パタゴニアのリジェネラティブ・オーガニック
【関連記事】行動を起こすのは、自分のため。英コスメブランドLUSH・創立者が考える、「地球に住みかを借りる」私たちがすべきこと
【関連記事】リジェネラティブ農業とは・意味

FacebookTwitter