2020年度の厚生労働省の調査によると、全国のホームレス状態の人の数は調査が開始された2003年以来最少の3,992人であった。しかし、この調査で対象とされたのは、公園や駅、道路などの路上で生活する人のみ。24時間営業のネットカフェや漫画喫茶などで寝起きする広義のホームレス状態の人の数は、都内だけで一晩に約4,000人いるとされている(2018年東京都の調査より)。
「街中でホームレス状態の方を見かけるたび、何か力になりたいと思うが、自分に何ができるのかが分からない」という人も少なくないのではないだろうか。そんな方に紹介したいのが、アメリカで始まった、身近なツールを活用したホームレス支援の方法だ。
今回ご紹介する支援方法を考案したのは、ロサンゼルス・サンタモニカ在住のAshley Sundquistさん。普段からホームレスの人々を手助けしたいと考え、彼らと積極的にコミュニケーションをとっていたAshleyさんは、2020年1月のある日、図書館の駐車場で路上生活をする男性・Joeさんと知り合う。Ashleyさんは、彼と話をするなかで、ホームレス状態の人々が「周辺地域に支援をしてくれる施設が色々あるのは分かっていても、その場所を探すのに苦労している」ことを知った。
彼女がJoeさんに見せてもらった「避難所の一覧リスト」は、PDF形式のデータだった。サンタモニカのホームレス・コミュニティの人々の多くが携帯電話を持っており、公共のWi-Fiを利用して、インターネットに接続することはできる。しかし、PDFファイルは重いため、公共の弱いWi-Fiではスムーズに閲覧しづらい。また、リストには地図画像も載っておらず、URLをクリックして地図を開けるような作りにもなっていなかった。PDFをプリントアウトする手もあるが、ページ数が多いため、何がどこにあるのかが把握しづらいのも問題だった。
そこで彼女が思いついたのが、グーグルマップを活用し、支援スポットのリストを作ることである。通常、グーグルマップのリスト作成機能は、行きたい場所を保存したり、記録しておいたりと個人的な目的で利用されることが多い。しかし、これを他者のためにも活用できると気づいた彼女は、インターネット上に散らばっていた情報を一か所にまとめることで、誰もが、効率的に支援スポットを探せるようにしたのである。
グーグルマップ・リストの場合、紙やPDFのリストとは違い、何がどこにあるのかが一目でわかり、気に入った支援場所をあとで見つけやすいように保存ができる。また、役に立った支援所の写真を撮り、レビュー投稿をすることで、ほかのホームレス・コミュニティの人に情報共有ができるのもポイントだ。
Joeさんは、彼女が作成した「一時的に宿泊できる施設リスト」を絶賛。他のバージョンも作ってほしい、という彼の願いに応え、Ashleyさんはその後、無料で食べ物をもらえる場所、無料でシャワーを浴びられる場所、精神疾患の治療を受けられる場所、ホームレス状態の若者を支援する場所などをまとめたリストも作成した。さらに、ホームレス・コミュニティだけでなく、パンデミックの影響を受け困窮する人々のために役立つ場所のリストも公開している。
Ashleyさんの活動には大きな反響があり、国内外から「自分も同じような活動をしたい」というメッセージが多く届いた。中には、市の職員から「リストの活用法について聞かせてほしい」という問い合わせもあったという。
Ashleyさんは、英語のWebメディアMashableの取材に対して、「これは私にしかできないことではなく、誰もが同じようにできることなのです
」「皆が自分の町で同じような取り組みを行えば、とても多くの人を救うことができるでしょう
」と答える。そのうえで、支援を始めたい人に向けて、自分の思い込みに基づいたソリューションを導き出すことになってしまわないように、まずは、困っている人の話を聞き、彼らのニーズや課題を知るところから始めてほしい、とアドバイスを送った。
ホームレスの問題は、社会構造や経済システムなど、大きな要因が影響しているため、一個人にできることは少ないと思えてしまうかもしれない。だが、身近なテクノロジーの使い方をほんの少し変えるだけで、気軽に彼らの力になることもできる。格差を是正する未来のテクノロジーに期待するのも良いが、既存のツールを活かした新たな助け合いのアイデアの誕生にも、注目していきたい。
【関連ページ】ホームレス問題
【参照サイト】You Can Help the Homeless with Google Maps│ Local Guide Connect
Edited by Yuka Kihara