木は、私たちの健康に欠かせない存在だ。1875年に創設された森林保護団体「アメリカン・フォレスト」によると、アメリカ国内の木のおかげで、年間1,740万トンの大気汚染物質が吸収され、喘息などの病気の予防につながっている。また、熱中症による死亡者数も年間約1,200人減少しているという。
しかしながら、そんな木が持つ力の恩恵を受けられる人と受けられない人がいる。同団体によると、アメリカの都市部ではわずかな例外を除き、裕福で白人が多い地域ほど多くの木が植わっている一方、社会経済的に恵まれない地域ほど、木の数は少ない。たとえば、テキサス州の州都オースティンでは、低所得層が多い地域と富裕層が多い地域とで、木で覆われた土地の割合に20%もの違いがある。さらに、テネシー州のメンフィスでは、低所得者や人種的マイノリティが特に多い地域の気温が、市内の平均的な地域より約10度も高く、人々は熱中症などの健康リスクにさらされやすいという。
住む人の人種や所得によって樹木の分布状況に違いがあると、社会の不平等を悪化させることになりかねない。そんな現状を変え、すべての人が木の恩恵を受けられるようにすべく、アメリカン・フォレストは、各地域に十分な数の木があるかどうかを可視化する指標「Tree Equity Score」を算出している。
Tree Equity Scoreでは、地域の人口密度、木の葉が茂っている部分を指す樹冠、地表面温度、雇用、人種などに関する8種類の指標を統合し、ひとつの指標にしている。指標は0~100の値をとり、100であれば地域内に十分な数の木があり、すべての住民がその恩恵を受けていることを意味する。
この指標があることで、地域のリーダーや林業の専門家は、どの場所にリソースを集中させて木を植えるべきか特定することができる。たとえば、アリゾナ州の州都フェニックスでは、アメリカン・フォレストが他の団体と協力し、木を平等に植えるよう市に働きかけたという。また、同じくアリゾナ州のツーソンでは、新たに100万本の木を植えることが決まっていたが、 Tree Equity Scoreがあることで、具体的にどこに植えれば効果的か把握することができた。アメリカン・フォレストの目標は、都市にただ多くの木を植えることではなく、適切な場所に適切な数の木を植えることだ。
こうして植樹を進めれば、新たな雇用の創出という観点からもメリットがある。木を植える仕事はもちろんのこと、剪定の仕事、殺虫剤を散布する仕事、木質系廃棄物から製品を作る仕事など、様々な仕事が生まれるからだ。植樹の必要性が高い地域は失業率が高い傾向があるため、雇用の促進に対する期待は大きいだろう。
アメリカン・フォレストは、2030年までに少なくとも全米100都市でTree Equity Scoreを100にし、「木の平等」を実現することを目指している。こういった取り組みを通して、木の持つ重要な役割にあらためて注目したい。
【参照サイト】Tree Equity Score
【参照サイト】TREES AS A PATHWAY FOR SOCIAL EQUITY
【参照サイト】CAREER PATHWAYS INITIATIVE
【参照サイト】Tree Equity Score highlights lack of cover in low-income areas
【参照サイト】地球地図全球版 | 国土地理院
Edited by Tomoko Ito