「やみつきになる美味しさ」に覚えはないだろうか。砂糖のたっぷり入った甘いもの、揚げ物などの脂っこいもの、辛い物や、手軽に食べられるしょっぱいものなどが、その代表格だ。
人は生きるために必要な栄養素を体が自然と欲するようにできている。技術や科学の発展はめざましく、一食でさまざまな栄養をとることがができるので、先進国では人々が飢餓に苦しむことはほとんどなくなった。しかし体の進化は、悠久の時を経てきたものだ。急激な食文化の変化に体がついて行かず、近年では、肥満による病気の方が問題になってきている。
たとえば、さまざまな人が暮らすイギリスでは、1990年代初頭から肥満が増えてきた。同国の国民保健サービス(NHS)によると、成人の60%以上が太り過ぎ、または肥満だという。その問題の多くは子供時代に始まり、境遇が恵まれていない人ほど、食生活が乏しい傾向があることを研究は示唆している。
そこでイギリスは2021年6月、思い切った政策を打ち出した。テレビとオンラインで、ジャンクフード(脂肪、砂糖、塩分を多く含む飲食物)のCMが表示される時間に、制限を設けるのだ。チョコレートやアイス、ハンバーガー、シリアル、人工甘味料の入ったジュースなどの宣伝は、夜9時から朝5時半の「深夜枠」での表示となり、午後6時ごろなど、子供と大人が家で一緒にテレビを見るゴールデンタイムには放送されなくなる。
イギリスの非営利団体Cancer Research UKによると、英国の11〜19歳がジャンクフードの広告を見ている場所は、86%がソーシャルメディア、84%がテレビ、82%が街中の看板だったという。また、同国の保健省は、脂肪、砂糖、塩分が多く、子供が過剰に糖質とカロリーを摂取しがちな食品や飲料のオンライン広告を制限すると、英国の子供(4~15歳)が1年間に食べる量を125億カロリー(ドーナツ6,200万個に相当)減らすことが可能だとしている。
この政策に対し、抗議や懸念の声もあがっている。BBCによると、イギリスの広告協会のSue Eustace氏は「放送やオンラインパブリッシャーの仕事が失われる」と主張し、食品業界の一部は「ジャンクフードの広告だけを規制するのは不均等につながる」と話しているという。
イギリス政府は、若者が不健康な製品を過剰に消費するのを防ぐことを目指し、これまで長らく広告規制の政策を打ち出してきた。首都のロンドンでは、2018年から公共交通機関でジャンクフードの広告が禁止されている。
かつて「成人病」という言葉があった。これは大人が急になるものではなく、子供の頃からの生活習慣がもとで発症するケースがあるため今では「生活習慣病」と呼び方が改められている。若いうちにジャンクフードを食べすぎると、健康を害する未来が待ち受けている可能性があるのだ。イギリスが打ち出したのは大胆な政策だが、子供を守る立場にある大人がとった行動としては、評価できるものだろう。
【参照サイト】Queen’s Speech 2021: Junk food adverts to be banned completely online and on TV before 9pm
【参照サイト】Anti-obesity drive: Junk food TV adverts to be banned before 9pm
【参照サイト】Press release: Ending online junk food adverts will lead to UK children eating the equivalent of 62 million fewer doughnuts every year – enough to fill 88 skips a week
Edited by Kimika