ベトナムの大人気ピザ屋「Pizza 4P’s」のSustainability Managerである永田悠馬氏による、レストランのサステナブルなプロジェクトに焦点をあて、Pizza 4P’sがさらにサステナビリティを突き詰める「過程」を追っていくオリジナル記事シリーズ「Peace for Earth」。
前回は「持続可能な農業」をテーマに、創業10周年を記念するスペシャルピザ開発の裏側、ベトナムのオーガニック農園ティエンシンファームの取り組み、牛肉を使うことについての葛藤やそれに込めた想いなど、サステナブルアクションに取り組む企業のリアルな現場をシェアしてきた。
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第11回目である今回の「Peace for Earth」のテーマは、同じく創業10周年記念プロジェクトとして立ち上がった特別企画「Letters to the Future(未来への手紙)」に焦点をあてる。
今年、創業10周年を迎えることができたPizza 4P’s。この記念すべき年を、Pizza 4P’sとしてどのような形で迎えるべきか。自分たちが目指すビジョンや、ビジネスを通して伝えたいメッセージを、この特別なタイミングで、どういう形で人々へ伝えるべきか。──コミュニケーション戦略のプロであり、ホーチミンを拠点とするクリエイティブ・エージェンシー「Ki Saigon(キー・サイゴン)」と数ヶ月に渡って対話を重ねた末、千年後の未来の子孫に向けて手紙を書く「Letters to the Future」というプロジェクトがスタートした。なぜ、この企画が生まれたのか。なぜ、手紙の素材にプラスチックが使われたのか。ベトナム国内でサステナブルアクションに取り組む企業のリアルな現場をシェアする。
思いやりの心を、いかに伝えることができるか
今年、Pizza 4P’sは会社のミッションステートメントを大きく変えた。創業当時から使っていたミッション「Deliveryin Wow, Sharing Happiness(驚きを届け、幸せを共有する)」をもっと詳細に、現在の自分たちが目指したいものへと明文化したのだ。
「4P’s serves access to inner peace which empowers compassionate acts; thus cultivating lifelong happiness for all.」(4P’sが提供するものは、人々が心の平穏へとアクセスするための道筋です。それは、思いやりある行動を促し、すべての人々が継続的な幸せを育むことができるものです)
この新しいミッションステートメントには、私たちが目指すものがはっきりと明示されている。それは、人々の心に平穏をもたらすことであり、人々が継続的な幸せを感じることができることだ。
そして、それらをもたらすためには、「思いやり」という他者へ寄り添う慈悲の心、そしてそれに基づく行動が大切だと私たちは考えている。それは何より、私たちのビジョンである「Make the World Smile for Peace(平和のために世界を笑顔にする)」を目指すために必要不可欠なものなのだ。Pizza 4P’sはビジネスを通して、これを実現したいと考えている。そして、今回の10周年を祝う企画では、この他者への「思いやり」を最も良い形で伝えたかった。
ある日、千年前のご先祖さまから手紙が届いたら?
「ある日、千年前のご先祖さまから手紙が届いたら、どんな気持ちになるだろう」
そんな問いから、この企画は生まれた。
もし、千年前のご先祖さまが自分に宛てた手紙を書いていたならば。そこにはどのような想いが綴られているだろうか。人生について、過去の秘密、人生の教訓、未来に共有したい物語。一体、何が書いてあるだろうか。
そしてもし、自分自身が千年後の自分の子孫へ手紙を書くことができるとしたら。そこにはどのようなメッセージを書くだろうか。その手紙の内容がなんにせよ、それは愛に満ちているに違いない。もはや自分自身が存在しない未来で、それでも自分の子孫が幸せであって欲しいと願う気持ちだ。
この手紙はきっと、その書き手と読み手のどちらにも、思いやりに満ちた心をもたらすことができるだろう。それは、Pizza 4P’sが目指す「心の平穏」や「継続的な幸せ」につながるのではないだろうか。私たちはそう信じ、この企画を立ち上げた。
自戒の念も込めて。思いやりも、プラごみも、千年後へと続いてゆく
今回の企画で、もう一つ伝えたい大事なメッセージがあった。それは、プラごみ問題だ。
世界のプラスチック生産量は上昇の一途をたどっており、Pizza 4P’sがあるベトナムも世界で4番目の海洋プラスチック排出国だ。一般的なプラスチックは分解に数百年とかかり、しかもそれは分子レベルで自然環境に還るわけではなく、無数のマイクロプラスチックとなって土や海を汚染する。さらに、マイクロプラスチックはその物質的な性質上、有害物質を吸着させやすくなっているため、魚やエビがそれを食べ、それを人間が食べることによる健康被害も懸念される。
さらに、これまで世界で生産されたプラスチック総量のうち、リサイクルされた量はたったの9%と言われている。その他は、12%が焼却処分され、残りの79%はごみとして埋め立てられる、またはそのまま自然環境に廃棄されている。(※1)これら自然環境に放置されたプラごみは、その後何百年と、もしかしたら千年後もそこに存在し、環境への影響を与え続けることになる。
私たちが普段、何気なく使っているプラスチック。例えばスーパーのレジ袋、カフェのストロー、お菓子の包装。それらは安価で、軽く、耐久性がある。そうしたメリットから、現在も世界中のありとあらゆる場所で使われているが、それが使われた「その後」の影響について、私たちはあまりにも無自覚だ。
実際、Pizza 4P’sでも、いまだ多くのプラスチックを使用している。チーズ工房で作られる自家製のチーズは、すべてプラスチック製のパッケージに入れられて各店舗へ配送されている。セントラルキッチンで作られるパスタソースやセミフードも同様だ。日々、膨大な量のプラスチックが使われ、そして捨てられていく。捨てられたプラごみは、ごみ収集車が回収していくが、その後について私たちは気をかけない。それがどこへ運ばれ、どういう結末を迎えるのか、私たちは本当の意味では理解していない。
この悪化の一途をたどる現在のプラごみ問題。この問題を多くの人々へ問いかけるため、私たちはこの千年後まで残ってしまうプラごみを、千年後の子孫への手紙にすることに決めた。
千年後の子孫に向けて、私たちは「思いやり」に溢れた言葉を綴る。そしてそれは、紙ではなく、分解に千年かかると言われるプラごみで作られたシートの上にプリントされるのだ。私たちの思いやりの心は、きっと千年後に届けられるだろう。しかしそれは同時に、このプラごみも千年後まで残ることを意味する。
私たちは何代も後に生まれる孫の顔を見ることはできないが、私たちが普段無意識に使ってしまっているプラスチックは、自分の何代も後に生まれる孫……よりも先の未来まで環境に残ることは確実だ。私たちが、このプラスチックという存在に対して、その使用と廃棄について、少しでも自覚的になれたら──この企画には、そんな願いを込めた。
もちろん、これだけ自分たちがプラスチックを使ってしまっているのにもかかわらず、プラごみ啓発についてのプロジェクトを行うことは正直、気が引ける思いだった。本企画を検討する過程で、私たちは日々の業務であまりにもプラスチックを「何気なく」使っていることを再認識させられたのだ。
議論の末、それでも私たちはこの企画を実施することに決めた。それは、私たち自身も多くのプラスチックを使用してしまっているという自戒の念も込めて。そして、自分たち自身へこの課題を解決していくというプレッシャーをかけるという意味も込めた。
22カ国、327通の手紙
このプロジェクトは、立案者であるKi Saigonと、本企画のスポンサーとなるPizza 4P’sからスタートした。それぞれの会社の従業員は、一人当たり最大5名まで、この企画の「招待状」を送ることが許された。この5名の選定基準は、自分自身が本当に大切に思っている人だけを選ぶ、というものだった。
その後、Ki SaigonとPizza 4P’sの従業員、そして招待状を受け取った人々は、A4サイズの白い紙一枚に、千年後への手紙を書いた。数ヶ月後、22の国から、合計327通の手紙が揃った。(オーストラリア、アルゼンチン、ベルギー、ブラジル、中国、コロンビア、フランス、ドイツ、インド、イタリア、イスラエル、日本、韓国、モルディブ、モンゴル、ミャンマー、サウジアラビア、スリランカ、タイ、チベット、アメリカ、ベトナム)
日本からは、「アジアのベストレストラン50」の100位以内にもランクインしたことのある京都のイタリアンCenciのオーナーシェフである坂本氏や、同じく京都に位置する薪窯レストランMonkのオーナーシェフである今井氏からも千年後への手紙が届いた。
プラごみは、Ki SaigonとPizza 4P’sでそれぞれ回収。Ki Saigonはホーチミン市内のウェイストピッカー(ごみを回収・売却することで収入を得ている人々)たちと協力し、路上に捨てられているプラごみを集め、Pizza 4P’sは自分たちの店舗から出るプラごみを分別した。
集められたプラごみは洗浄、乾燥させられた。その後、シート状に重ねて、クッキングペーパーの上からアイロンをかけて接着。こうして、プラごみは色とりどりの美しいシートに生まれ変わったのだ。
千年後への手紙を書こう
本プロジェクトは、未来へ手紙というポジティブな感情と、プラごみというどうしようもなくネガティブな現実を、文字通り一枚に合わせた企画だった。
機会があれば、ぜひ一度、千年後の自分の子孫に向けて手紙をしたためてみてはいかがだろう。静かな部屋で、リラックスして、千年後の子孫に思いを寄せる。きっとあたたかい気持ちに包まれるだろう。
同時に、プラスチックが千年後まで残ることは、紛れもない事実である。今回の企画を通して、より多くの人々がこの事実に少しでも自覚的になることができれば、企画した私たちとしても幸いだ。そして、まだまだプラスチックを使用してしまっているPizza 4P’sとしても、私たち自身がこの事実に自覚的であるよう努め、この現状を一歩ずつ変えていきたい。
Letters to the future – Making of from Ki Saigon on Vimeo.
筆者プロフィール:Pizza 4P’s Sustainability Manager 永田悠馬(ながた ゆうま)
1991年、神奈川生まれ。東京農業大学を卒業後、カンボジアに渡航。2014年からカンボジアの有機農業や再エネ関連の仕事に携わったのち、2018年にベトナムへ移住。ケンブリッジ大学ビジネスサステナビリティ・マネジメントコース修了。現在はPizza 4P’sのサステナビリティ担当。著書に『カンボジア観光ガイドブック 知られざる魅力』。
(※1) A Whopping 91 Percent of Plastic Isn’t Recycled
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【参照サイト】 Letters to the Future特設サイト
【参照サイト】 Pizza 4P’s
Edited by Erika Tomiyama