近年、イベントの企画、準備、運営、撤去・撤収など、様々な段階で環境配慮が求められるようになってきている。たとえば、2012年と2016年のオリンピック・パラリンピックや、2014年のFIFAワールドカップでは、低炭素なイベントを実現するという目的のもと、CO2排出量を算定したところ、「人の移動に伴う排出量が大きな割合を占め、その削減が困難」といった課題が浮き彫りになった(※)。
イベントで、一口に「環境に配慮する」と言っても、その切り口は、環境負荷の把握・特定、CO2削減、3R(リデュース・リユース・リサイクル)、生物多様性の保全など様々だ。「具体的に何を念頭に置けばいいのか分からない」と思ったとき、ひとつの事例として参考になりそうなのが、イギリスのロックバンド「Coldplay(コールドプレイ)」が2022年に行う、“クライメート・ポジティブなワールドツアー”である。
同バンドは2019年に、自分たちが行うツアーの環境負荷を懸念し、「環境対策ができるまではツアーを中止する」と発表した。その際、BBCの取材に対し、「今後1~2年かけて、地球環境を持続させるだけでなく、地球をより良くするための、ツアーのあり方を検討していく」と語ったColdplay。そんな彼らが、リアルな場で音楽を楽しむことと、環境をより良くすることを両立させようと、再びステージに帰ってくるのだ。
Coldplayは大きな目標として、「2016年から2017年にかけて開催したツアーと比べて、バンド自らのCO2の直接排出量を50%減らす」ことを掲げている。そのため、ツアーは飛行機での移動を最低限に抑えられるよう計画。空の移動が必要な場合は、できる限りチャーター便ではなく商用便を使い、輸送には、可能な限り電気自動車またはバイオ燃料を使用するという。
さらに、観客の移動に伴うCO2排出量が多いという問題意識から、観客にも低炭素な交通手段を使うよう呼びかけを行う。観客に専用のアプリを使用してもらうことで、移動に伴うカーボンフットプリントを計測。低炭素な移動に協力した観客には、会場で使える割引コードが発行される仕組みだ。Coldplay側は、観客の移動に伴うカーボンフットプリントの合計値分もきちんと削減する考えで、その一環としてチケット1枚につき1本以上の木を植えるという。
ステージは、軽量、低炭素で、再利用可能な材料を組み合わせて構成。さらに、ステージ上での演奏で消費するエネルギーは、100%再生可能エネルギーで賄うという。使用する照明やレーザー、音響機材はエネルギー効率が非常に良いものを使用することで以前のツアーと比べて50%ほどエネルギー消費量を減らしている。
また、エネルギー消費量削減の取り組みの一環として、会場の床には、観客が生み出す運動エネルギーを集める設備を設置。まさに、ファンとミュージシャンの一体感が生まれそうな仕掛けだ。
会場では使い捨てのペットボトル入り飲料水を販売しない代わりに、リユースが可能なアルミカップなどを導入し、飲み水を無料で提供。観客にはマイボトルの持参を呼びかけている。さらに、ショーの最中に観客が着用するLEDリストバンドは、100%堆肥化可能な植物ベースの素材で作成。ショーのたびにリストバンドを回収、滅菌、再充電することで、リストバンドの使い捨てもなくし、その生産を80%削減する予定だ。
そして、Coldplayが重視するのが、今回のツアーに伴う環境負荷の把握だ。同バンドは、インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者たちと協力し、ツアー全体が環境に与える、正負両面の影響を測定してもらうという。これを把握することにより、改善を重ねていけるという考えだ。
Coldplayはこの他にも、多方面にわたる環境面の対策を行う予定だ。詳細はツアーのウェブサイトに記載されているので、興味のある人はチェックしてみるといいだろう。
環境に配慮したイベントと聞くと、「環境問題をテーマに扱うイベントや、行政が主導するイベントで取り組まれるもの」というイメージを持つ人もいるのではないだろうか。世界的なロックバンドによる本気の挑戦を見ると、誰もが環境問題の当事者であることを強く認識させられる。
【参照サイト】Music of the Spheres World Tour: Sustainability
【関連ページ】カーボンフットプリント
Edited by Yuka Kihara