消費者でも「わかる」サステナビリティレポート設計。その苦難の道のりを追う【Pizza 4P’s「Peace for Earth」#15】

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ベトナムの大人気ピザ屋「Pizza 4P’s」のSustainability Managerである永田悠馬氏によるオリジナル記事シリーズ「Peace for Earth」。レストランのサステナブルなプロジェクトに焦点をあて、Pizza 4P’sがさらにサステナビリティを突き詰めていく「過程」を追っていく。

前回はサステナビリティの「見える化」をテーマに、世界のサステナビリティに関する情報開示の潮流、Pizza 4P’sがサステナビリティを数値化しようとした背景と結果、その過程で得た教訓やジレンマなど、サステナブルアクションに取り組む企業のリアルな現場をシェアしてきた。

ベトナムで飲食店を営む企業が、初のサステナビリティレポートを出すまで【Pizza 4P’s「Peace for Earth」#14】

第15回目である今回の「Peace for Earth」は、前回に続きサステナビリティの「見える化」について、今年9月にPizza 4P’sが発行したサステナビリティレポート「2020 4P’S SUSTAINABILITY REPORT」に焦点を当てる。本レポートは2020年の実績を元に「実際、Pizza 4P’sはどれだけサステナブルか?」という視点で、多くの数値データをまとめたものである。本レポートを公開するまでの困難やジレンマなど、ベトナム国内でサステナブルアクションに取り組む企業のリアルな現場を前編と後編の2回に渡ってシェアする。

全く別の方法で作った、新・サステナビリティレポート

2020年末になると、ベトナム国内の新型コロナウイルスの状況はある程度落ち着いてきた。前回はコロナ禍の影響でレポートが出せなかったため、そこで「今度こそは!」ということで2020年の実績をもとに、新しくサステナビリティレポートを作成することになった。

しかし今回は、サステナビリティオーディットを用いないことに決めた。その理由としては、サステナビリティのレベルをパーセンテージで表して公表しても、それが何を意味するのか伝わりにくいと感じたからだ。

ガイドライン

例えば、会社全体で34%のサステナビリティでしたと伝えても、では実際に何がどこまでできているのか、どこができていないのか、どんな風にできていないのか、といった具体的な部分が全くわからない。これを把握するためには、各店舗や各部署が回答した「質問リスト」まで遡る必要があった。しかし、全部で数百にも及ぶ質問リストを公開しても、誰も読まないだろう。他の企業との比較も困難だ。これでは企業の情報公開という意味では不十分だと考えた。

サステナビリティレポート

そこで、今回は企業がサステナビリティレポートなどの作成時に使用する国際的なガイドラインをPizza 4P’sとしても参照することにした。具体的には、GRIとSASB(Sustainability Accounting Standards Board)の指標をもとに、Pizza 4P’sにとって関連性の高いサステナビリティに関する指標をリストアップしていった。その中からさらに、データの入手が可能か、読み手にとって必要な情報か、などを検討しながら、最終的なレポートの内容を固めた。

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2020年サステナビリティレポートの内容

そうして、今回の2020年のサステナビリティレポートには、下記の内容を盛り込むことになった。

01. 2020年の事業進捗

一年を通して、4P’sとして事業を進めてきたことを紹介。新規オープンした店舗数、新しくローンチしたデリバリーサービス、Beer 4P’sやPizzalandといった新ブランドについて。また、一年間のお客様の数や、焼いたピザの枚数、作った自家製チーズの量なども数値として公開し、2019年の実績とも比較した。

02. 包装

ベトナム国内でもプラごみ問題に対する意識が高まっていることを受け、デリバリーやテイクアウトで使用している使い捨ての容器や包装、それらがどんな素材でできているのか。使い捨てのプラか、堆肥化できるバイオプラか、FSC認証された紙か、等について公開した。

4P’sのオリジナル商品である自家製チーズの包装や、B2Bのお客様への商品の包装、またカフェで使用しているカップや容器についても紹介。それぞれのアイテムが、どこまで改善できていて、今後さらにどう改善したいのかを伝えることを意識した。

03. 食材調達

調達においては、主に3つの指標を用いることにした。それは、①地元産の食材の使用率、②持続可能な農業で生産された食材の使用率、③持続可能な農業でかつ認証を取得した食材の使用率、である。それぞれの指標について、2020年の調達金額ベースで全体の何パーセントを占めるかを公開した。

また、2020年のうちに新しく契約したサステナブルな農業や生産方法を実践するサプライヤーの人々もこのカテゴリーで紹介した。

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04. 天然資源

電気、ガス、水、薪の一年間の使用量を公開。一年間の総使用量だけではなく、お客様の数で割ることによって、お客様一人あたりに使用した量を出し、店舗の面積で割ることによって、一平米あたりで使用した量も計算した。こうすることにより、店舗が増えていっても、翌年以降とデータの比較がしやすくなるためだ。

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05. 廃棄物

このカテゴリーでは、新しく始めた自家製プリンやヨーグルトのガラス瓶のリユースプログラムで回収した瓶の数、ビールやワインの瓶をリサイクル用に回収した数、廃棄油をリサイクル用に回収した量、店舗内でまだ使用している使い捨てのアイテムリスト、などを公開した。

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06. 食品衛生

ここでは、全ての店舗が食品衛生のライセンスを取得しているかどうか、違反がなかったか、食中毒などの発生がなかったかどうか、などを公開した。

07. 社会

このカテゴリーではまず、4P’sで働く従業員のうち、どれくらいを女性が占めるかというジェンダー平等についてパーセンテージで公開。そして、書面上での契約をきちんと全ての従業員に対して締結しているかどうか、最低給与以下の給与支払いが行われていないかどうか、さらに2020年の退職率などを含む「労働慣行」についても記載。

さらに、従業員の幸福度を測るために実施した「ハピネスサーベイ」の結果と、それに基づいたアクション。また、管理職向けに実施したヨガ&呼吸の3日間のワークショップについても記載した。

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08. コミュニティ

最後のカテゴリーでは、4P’sがどれだけ事業を展開する地域コミュニティに対して貢献できているかを示した。具体的には、2020年に実施したピザ作りの教室への参加者数(3000名以上が参加!)。また、NGOや病院への寄付についてもここで公開した。

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「こっちだって忙しい!」と怒られながらデータ収集に励む日々

会社として初のサステナビリティレポートを発行するにあたり、直面した困難は数え出せばキリがない。だがあえて、個人的に最も負担に感じたことを挙げるとすれば、それはデータ収集だと言える。

サステナビリティレポートの作成には、社内のありとあらゆるデータが欠かせない。例えば、電気・水・ガスの消費量、食材の調達量、パッケージに使用している素材や認証、といった情報は全て異なる部署が管理している。データを共有してもらうように各部署へお願いして回るのだが、もちろん他の部署もヒマではない。なかなかデータが送られてこないので様子を尋ねてみると、「こっちも忙しいんだ!」と言われてしまうこともあった。

さらに、データの統一性のなさにも苦労した。例えば、使い捨てのアイテムをどれだけ使用してしまっているかをデータとして公表しようと思い、キッチンで多用されているゴム製の使い捨てグローブの消費量を計算しようとしたことがある。その際に、実はエリアによって異なるサプライヤーから異なるグローブを調達していたため、その製品ごとにカウントしている「単位」が異なるということがわかった。例えば「一箱50ペア入り」という記載もあれば「一箱」という記載しかないものもある。他にも、ごみ袋は「1ロール5キログラム」という記載がある一方、「100枚」という単位もある。単位が統一されていないため、調達データはあるが、その使用量を正確に把握することは非常に難しいことがわかった。

パンデミックの影響、再び・・・

今回もパンデミックの影響を受けなかったわけではない。実は、本レポートの原稿は2021年3月末の時点ですでに完成していた。そこからデザインに落とし込み、5月には公開予定だったのだが、ちょうど4月からベトナム国内での感染者数が増加。その後、ベトナムの主要都市は、7月〜10月まで本格的なロックダウンを経験することになる。

結果、サステナビリティレポートの作業も一旦中断せざるを得ない状況に。ようやくデザインが最終化され、一般に公開できたのは、原稿完成から半年経った2021年9月だった。公開までかなり時間がかかってしまったが、2度目のお蔵入りを避けることができただけでもよかったと言える。

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わかりやすく、楽しく、読みやすいレポートを

上場企業がサステナビリティレポートを発行する際、主な読み手は投資家だ。しかし、4P’sの場合、今回のサステナビリティレポートの読み手として意識したのは、主に4P’sを普段利用してくれているお客様だ。もちろん投資家、サプライヤー、従業員、NGOといったあらゆるステークホルダーを意識したが、やはり一般的なベトナム人のお客様に読んでいただき、少しでもサステナビリティについて考えるきっかけにしてほしいと思って作成した。

そのため、今回のレポートでは、一般的なサステナビリティレポート作りの御作法とは異なる方法を取ってきた。例えば、GRIやSASBといった基準に「準拠」するのではなく、「参照」するに留めたこと。準拠するとなると、投資家にとっては読みやすくなるものの、一般の人々にとっては意味がわからない内容が多く含まれてしまうことになるためだ。

また、ESGのうち、ガバナンス(G)に関する情報を盛り込まず、環境(E)と社会(S)に関する内容を中心にレポートを構成した。投資家にとってはガバナンスは非常に重要な情報だが、一般の人にとっては正直、退屈な内容になってしまうだろう。

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もちろん、GRIやSASBの基準は大いに参考にさせてもらいつつも、その「御作法」にこだわりすぎると、全体として退屈で読みづらいレポートになってしまう恐れがあった。そのため、ある程度は一般的なレポートの流れを採用しつつも、一般の方にとって読みやすく興味深い内容であるようなバランスを意識した。

例えば、来年度のサステナビリティレポートで、一般消費者にとって興味深い内容のサステナビリティレポートを作っている企業として筆者が参考にしたのは、植物性ミルクを製造するスウェーデンのOatly社だ。彼らのレポートは、ポップなデザインで、インフォグラフィックを多用し、かつ親しい友達に話しかけるような文体で執筆されているため、一般消費者にとってとてもわかりやすい内容になっているため、非常に参考になった。

お客様、投資家、サプライヤー、従業員が大切だと思うことを可視化すること

もちろん、今回のレポートでできなかったことは山ほどある。温室効果ガスの排出量といった気候変動に関する情報や、提供しているメニューの栄養価の公表など、同業他社が公開している内容だが4P’sが公開できなかったものは多々ある。これは主に、社内のデータ不足が主な理由である。今回のレポートを最初のステップとして、毎年少しずつレポートの品質を改善させていきたい。

ちなみに、来年度のサステナビリティレポートについて話をすると、レポートにどんな内容を盛り込むべきかは、4P’sのお客様、従業員、サプライヤー、投資家の方々に決めてもらおうと思っている。2020年のレポートは初回だったため、筆者や4P’sの創業者が話し合いながら独断で決めていったが、2021年のレポートは4P’sに関わるより多くの方々の意見を取り入れようとしている。

具体的には、オンライン上でアンケートを実施し、数あるサステナビリティのトピックのうち、① どれに最も関心があるか、さらに、② 4P’sがインパクトを与えうるトピックはどれか、という2つの質問に回答してもらい、その結果を元に、来年度のレポートの内容を検討する計画だ。4P’sと繋がりを持つお客様、投資家、サプライヤー、従業員が重要視する項目を、4P’sとしてもっと明確に可視化し、透明性高く情報公開していきたい。

縦軸が回答者の関心度、横軸が4P’sが与えうるインパクトの大きさ。より右上に位置するトピックを優先的に公開する予定。(本グラフはまだ回答集計途中のものになります)

縦軸が回答者の関心度、横軸が4P’sが与えうるインパクトの大きさ。より右上に位置するトピックを優先的に公開する予定。(本グラフはまだ回答集計途中のものになります)

Pizza 4P’s サステナビリティレポート2020はこちらからダウンロード可

筆者プロフィール:Pizza 4P’s Sustainability Manager 永田悠馬(ながた ゆうま)

1991年、神奈川生まれ。東京農業大学を卒業後、カンボジアに渡航。2014年からカンボジアの有機農業や再エネ関連の仕事に携わったのち、2018年にベトナムへ移住。ケンブリッジ大学ビジネスサステナビリティ・マネジメントコース修了。現在はPizza 4P’sのサステナビリティ担当。著書に『カンボジア観光ガイドブック 知られざる魅力』。

【関連記事】 自分の幸せが、社会の幸せになる。ベトナムのピザ屋に学ぶサステナビリティの本質
【参照サイト】 Letters to the Future特設サイト
【参照サイト】 Pizza 4P’s

Edited by Erika Tomiyama

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