「すべての個人が、無条件で、一定の額のお金を定期的に受け取ることができる」という理念を掲げる新しい社会保障制度、ベーシックインカム。所得や資産の多寡にかかわらず受け取れるというのが本来の理念だが、財源の確保が困難といった課題もある。
スペインは2020年6月にベーシックインカムを導入したが、支給の対象が低所得層に限られており、その内容は最低所得保障制度に近いと言われている。受給条件を設けたことで申請内容の審査に時間がかかり、制度が始まってから約5か月で90万件近い申請があったにもかかわらず、承認済みは9万件にとどまっていた。(※1)そのため「受給要件を満たしている人に、必要な支援が行き渡らないのではないか」と懸念する声が上がっている。
そんな中、スペインのカタルーニャ州は2021年11月、所得などの条件を問わずにベーシックインカムを支給するパイロットプログラムを始めると発表した。2022年から2年間、5,000人を対象に実施し、2025年にはプログラムの評価を行う計画だ。支給額は確定していないが、1人世帯は月900ユーロ(約12万円)、2人世帯は月1,350ユーロ(約17万円)にすることを検討しているという。プログラムは、国際NGO「ベーシックインカム地球ネットワーク(BIEN)」のサポートを受けて行われる。
富める人にも貧しい人にもお金を支給するやり方は、貧富の差を是正するという目的には合致しないかもしれないが、申請や審査の手間が減り、多くの人にとって使いやすい仕組みになることが期待されている。手続きの煩雑さが原因で、必要なときに迅速な支援を受けにくいという課題を打開できるかもしれない。
また、貧困に陥った人とそうでない人との間に明確な線を引くことが難しいという状況に、柔軟に対応できる可能性がある。低所得者が所得を増やすことで、政府の支援が打ち切られたり減らされたりする仕組みでは、彼らの就労インセンティブを阻害してしまうという「貧困の罠」が発生するが、支給の条件がなければ、個人の選択に歪みを与えることもない。
同プロジェクトを指揮するセルジ・ラベントス氏は、仮にベーシックインカムが恒久的な制度になった場合、既存の社会保障制度を置き換えるのではなく、それらを強化するべきであるという考え方を明確にしている。ベーシックインカムをめぐっては各国とも手探りの状態が続いているが、誰もが安心して暮らせる社会にするにはどうすればいいのか、考えていきたい。
※1 Minimum subsistence income, the Spanish way | UNESCO Inclusive Policy Lab
【参照サイト】 UBI Pilot in Catalonia | BIEN — Basic Income Earth Network
Edited by Erika Tomiyama