肉体労働、頭脳労働の他に、第三の労働カテゴリとして注目される「感情労働」について聞いたことはあるだろうか。
感情労働とは、アメリカの社会学者であるアーリー・ホックシールド氏が1983年に提唱した概念で、主にサービス業の従事者が、仕事上の必要性に応じて、自らの感情を適切にコントロールすることを指す。
感情労働は、接客・サービス以外の職種でも求められるという指摘がある。たとえば、株式会社リクルートマネジメントソリューションズが2022年2月に発表した調査結果によると、営業系・事務系・技術系のオフィスワーカーにおいても、感情労働の3要素である「感情の要求・制御・演技」が、半数以上で求められているという(※1)。
さらに、感情労働という言葉をプライベートの場面で使う人もおり、近年この言葉の意味が増えてきている。
BBCの2018年の記事によると、多くの家事で疲れている女性や、公私問わずマイクロアグレッションに耐えているマイノリティなども、感情労働をしているとの議論が起きているそうだ。
仕事かプライベートかに関わらず、「自分の心に負荷がかかっている」と感じている人が多いのかもしれない。「成熟した人間は、むやみに感情を表に出さないもの」という社会通念があるなか、外部から分かりにくい、人々の心理的な負担に目を向ける方法はないだろうか。
2022年3月現在はサービスを停止しているとのことだが、アメリカの「Postdates」というウェブサイトでは、元恋人や疎遠になってしまった友達、縁を切った家族など、直接連絡を取りたくない相手に荷物を返したり、送ってもらったりするための配送サービスを提供していた。
同サービスがユニークだったのは、3.99ドル(約480円)の「感情労働費」が配送料に上乗せされる点だ。自分がやりたくない感情労働をPostdatesにやってもらう分、追加料金がかかるという考え方だ。
人の感情に重きを置いていることを示すため、心理的な負担をあえて金銭的な価値に換算するのも、良い方法なのかもしれない。
感情は目に見えにくいが、私たちに様々な感情が生じているのは確かだ。ポジティブな感情もあれば、ネガティブな感情もある。そういった感情にきちんと気づくための方法を考えたい。
※1 【調査発表】仕事と感情に関する意識調査(個人編)
【参照サイト】Postdates
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