何かしらの理由で足を切断した人はどのようにシャワーを浴びるのか、想像したことはあるだろうか。
アメリカのNPOである「Amputee Coalition」によると、同国では毎年約18万5千件の切断手術が行われており、腕や足がない人が200万人近くいるという(※1)。そのうち多くの人が、シャワーを浴びることが難しいという課題を抱えている。
義足に防水機能がなければシャワー時に使えず、片足で立って洗ったり、床を這ってシャワールームに出入りしたりするそうだ。年配の人ほど、このようなやり方に無理を感じ、シャワーを控える人もいる。防水機能のある義足は、高価なことが多いという課題がある。
「足を切断した人が、立った姿勢で安心してシャワーを浴びられる、手頃な価格の義足を作りたい」と考えたのが、アメリカの工業デザイナーであるハリー・テン氏だ。同氏は、ポリプロピレンや熱可塑性ポリウレタンなどでできた、シャワー用の義足「Lytra」を開発した。
利用者は、Lytraのハンドルを握って足を持ち上げることで、切断部まで洗うことができる。足の残された部分を清潔に保つことは、義足をはいて生活するうえで大切な維持管理のひとつだ。
足を固定するストラップは、どうすれば実用的かつ快適な作りになるか、切断者に試してもらいながら試行錯誤を重ねたという。
切断部を収納するソケットは、膝より上で切断したか下で切断したかなどに応じて、複数の種類を用意。足を優しく支えるバイオポリマーでできており、衛生上の観点から交換することが可能だ。義足の接地面はゴムでできており、濡れた床でも滑りにくいようになっている。
Lytraはモジュラー型の製品で、利用者は部品を組み合わせて義足を作れる。部品を標準化することで低コスト化につながるうえ、部品が破損したり変形したりしたときは、その部品だけを買い替えれば済む。「オーダーメイドの義足は高価で、シャワー用に新しく買うのは難しい」という切断者の声を反映した仕様だ。
Lytraはこれまで改良が重ねられており、テン氏は2022年4月現在、第3バージョンのLytraを作っているという。可能な限り製品の安全性を確保するため、エンジニアと協力して製作を進めたいという考えだ。
体を洗うというプライベートな領域で、障害を抱える人が感じる苦労を、想像することは少ないのではないだろうか。テン氏は複数の切断者の話を聞くなかで、彼らのシャワー時の苦労を知ることができたという。当事者の声を聴く大切さに、あらためて気づかされる。
※1 Limb Loss Statistics – Amputee Coalition
【参照サイト】Lytra — Harry Teng
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