日本国内で、何らかの障害のある人の割合は、7.6%。公共交通機関の優先席や、ヘルプマーク、施設のバリアフリー設計など、社会のなかでさまざまなバリアを取り除く取り組みがされている。
しかし、誰かの持つ「生きづらさ」があまり知られていない、見た目からはわからない、十分に認知されていないものだったら。人は知らないものに対して、対処することは難しい。
そこで今回は、そんな「見えない生きづらさ」について教えてくれる世界のアイデアをご紹介する。
見えづらい障害・生きづらさに寄り添う世界のアイデア
01. 「読み書き障害」の世界を体験するウェブサイト
カナダの団体が、あるウェブサイトを立ち上げた。文章のスペルはめちゃくちゃ。文字が点滅したり、勝手に動いたり、時にぼやけたりしているので、とにかく読みづらい。これは、日常的に「ディスレクシア(失読症・読み書き障害)」と共に生きる人の気持ちをより多くの人に知ってもらうためのサイトだ。ディスレクシアとは、知的能力には異常がないものの、字の読み書きに困難がある学習障害のこと。
サイトには読みにくいバージョンと文字が正しく並んでいる読みやすいバージョンがあるため、見比べてみるといかにディスレクシアを抱える人が読みづらい世界で生きているか、知ることができる。
02. 食べづらいディナーに隠された「口唇・口蓋裂」の啓発
世界に誇るホテル、リッツ・カールトンでの特別な一夜のキャンペーン。スペシャルディナーの招待客たちが使うように言われたのは、どこか一部が欠けていて変わった形をしたフォーク、ナイフ、スプーンだった。スープをすくおうとしてもポタポタとこぼれおちてしまうし、パスタを巻き取ろうとしても上手くいかない。
「口唇・口蓋裂(こうしんこうがいれつ)の子供たちにとっては、このような“食べにくい食事”がたった一度で終わるわけではありません」口唇・口蓋裂とは、唇や上あごに割れ目が残って生まれてくる疾患のこと。500人に1人の割合で発症すると言われており、けっしてめずらしい症状ではないものの、世間の認知度はまだまだ低いために行われた啓発キャンペーンだったのだ。
03. 聴覚障害のある人は「おとなしい?」会話への入れなさを体験できる広告
障害にあまり触れてこない人にとって、聴覚障害は、その有無や程度が見た目からは判別しにくい。そのため周囲から誤解されやすく、会話についていけなくて返答が満足にできないことで「おとなしい」「やる気がない」「意見がない」というレッテルを貼られてしまうこともあるそうだ。
英国の菓子・飲料メーカーのCadbury(キャドバリー)は、そんな会話へのついていけなさを再現する広告を打ち出した。女性が手話で話しているときに、手話の意味を表す字幕のところどころに邪魔が入り、広告を見る私たちは、彼女が何を言っているのか、完全には理解できないというものだ。同社では広告の他にも、寄付や手話レッスンの機会を提供している。
04. どもる若者たちが注文を取ってくれるポップアップカフェ
吃音(きつおん、どもり)──話し言葉が滑らかに出ない発話障害のこと。日本全国でポップアップを行う「注文に時間がかかるカフェ」は、そんな吃音を持つ若者たちを店員として採用している。来店客は、注文に時間がかかることを理解して、彼らが話し終わるまで待つことが求められる。遮ったり、憶測で代わりに話したり、「リラックスして」「ゆっくり話せばいいよ」などのアドバイスをしてはいけない。
このカフェは、「接客業に挑戦したい」と思っているが、吃音があるため一歩を踏み出しにくいと感じる若者の、挑戦の場となっている。
05. 病気の子の陰に隠れてしまう「きょうだい」を支えるヒーロー
「家族のスポットライトが当たりやすいのは、病気になった子。広がってもそのお母さんまでです。すぐ横にいる病気の子の“きょうだい”の存在は、暗い影に隠れてしまうことも少なくありません」
そう話すのは、大学生の時に、4つ下の弟を心臓病で亡くした清田悠代さん。清田さんは2003年、ボランティアグループ「しぶたね」を立ち上げた。相方の「シブレッド」さんと、毎週金曜夜の「シブレッドのへやのとびらあけておくね」を開催。病気の子のきょうだいたちがオンライン上に集い、カードゲームをしたり、Googleマップのストリートビューで絶景を見に行ったりする。常に誰かが隣に居られるように、少しでも心の支えとなるように。そんなやさしい活動だ。
まとめ
今回は、さまざまな「見えない生きづらさ」についてご紹介した。
これらの生きづらさについて、記事だけを読んで完全に理解できたとは言えないだろう。しかし、「こんな人もいるんだな」と知っておくことができれば、ふとしたときにもう少し調べてみたり、やさしい心で見守ったり、その先の行動につながったりするかもしれない。