気候危機時代に「神話」を読もう。いま学びたい古代の哲学とは

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イギリスでは今、気候変動時代の環境倫理を模索するために「神話」を読もう、と大真面目に提案している人々がいる。

エコロジー、スピリチュアリティ、メンタルヘルスの間のつながりを探求するグローバル教育プラットフォームであるAdvayaは、神話や伝説を通じて考察を深め議論するオンラインコースを実施している。エコロジー作家のSophie Strandが監修し、講師には生態学や菌学、民族や神話の研究者、そして作家やドキュメンタリストなどの多様な人々が揃う。

便利な生活には大量のエネルギー消費も伴う。「地球環境も心配だが、便利な生活も捨てられない」と葛藤を抱えている人も多いであろう気候変動の時代に、私たちがどのような生き方の指針や哲学を持てばよいのか、そのヒントが神話にある、というのだ。

彼らによれば、神話は単なるファンタジーではない。人間を自然のなかの一つの構成要素として位置づける、実用的なツールだというのである。

なぜ「神話」なのか?

そうはいっても、なぜ「神話」なのだろうか。ギリシャ神話に登場するケンタウロスは上半身が人間、下半身が馬という半人半獣の姿をしている。このほかにも人魚伝説のように、人間と野生生物のハイブリッドは世界中の伝承に登場する。専門家たちは、こうした神話を、空想ではなく現実の一側面を表現したものとして読んでみよう、と提案するのだ。

そもそも私たち人間が多細胞生物として存在するのは、古代のバクテリア同士が融合した結果だ。さらに、最近の研究で明らかになったのは、哺乳類の胎盤などの器官は、約1.6億年前にウイルスが外部から別種の遺伝子を持ち込んだことによって形成されたことだ。

私たち人間は、「一つの固有種」というよりも、進化の過程で複数の種を融合させたハイブリッドであり、生態系の一部であることがわかるだろう。「神話」はそうしたハイブリッドな生としての私たちを容易に思い起こさせるツールなのだ。

コミュニティの創生にかかわることも

さらに、神話や伝説は地域密着型のストーリーだ。神話は、その独特の形式を借りて、地域コミュニティのさまざまな知恵を伝達している。例えば、オーストラリアの先住民、アボリジニは、「デビルデビル」が天から降りてきて巨大クレーターを創った、と伝えている。こうした伝説を裏づけるように、オーストラリア北部でヘンブリー・クレーターが「発見」され、隕石の衝突を証明する物質までも検出されている。神話による伝達が科学技術に先行していた事例だ。

アボリジニ

日本では?

日本でも東日本大震災以後、各地の津波伝承が脚光を浴びるようになった。このように神話話や伝説には、その土地の出来事や知恵を伝える役割がある。言い換えれば、神話を理解することで、地域住民が自律的に地域の文脈に沿った環境とのかかわり方や保護の仕方を考え、行動につなげることも可能なのだ。さらに、次世代に向けてそのような価値観自体を神話の形で伝達することもできるだろう。こうして地域社会全体の絆は深まり、コミュニティの創生にかかわるのである。

日本の伝統的な宗教観においても、アニミズムや八百万の神など、「あらゆる自然、動植物に神が宿っている」という考え方があるだろう。そのような神話をこの気候変動時代に再生させた場合、少なくとも、自然と人間は対立しているのではなく、自然や生態系のなかに人間もコミュニティも存在するのだ、ということに気づくのではないだろうか。自然をモノのように捉えず、自然との調和のなかで生きることがむしろ「人間らしい」生き方なのかもしれない。

あなたの住んでいる地域に残された神話や伝説を訪ねるのも、この変化の時代で生き方を模索するのに必要なことではないだろうか。

【参照サイト】advaya
【参照サイト】Rewilding Mythology
【参照サイト】Rewilding Mythology公式ホームページ
【参照サイト】脳も筋肉も、実はウイルスの助けでできている 最新研究で見えてきた世界

Edited by Erika Tomiyama

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