【イベントレポ】再エネシフトを後押しする「動機づくり」とは? UXを高める行動変容のデザイン

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気候変動により、地球の温度はますます上昇しています。国連によると、1800年代に比べて地球の気温は1.1度上昇しているといいます(※1)。このまま気温上昇が続けば、人類は自然災害や紛争、食料不足などさらなるリスクにさらされるでしょう。

気候危機は環境だけでなく、社会や政治、世界システムなど複雑に絡み合って私たちの前に立ち塞がっています。

私たちは、複雑な問題が組み合わさっているこの気候危機に対して、どう向き合っていけばいいのでしょうか。ますます進行の一途をたどっている気候変動を抑えていくためには、これまで以上の大胆な改革が必要だ──そんな想いから、IDEAS FOR GOODと株式会社メンバーズが始めた共創プロジェクトが「Climate Creative(クライメイト・クリエイティブ)」です。

Climate Creative企画ではこれまで、数々のイベントを開催してきました。

第5回目となる今回は、「再エネシフトを後押しする『動機づくり』とは? UXを高める行動変容のデザイン」と題し、自然エネルギー100%の電気を提供しているハチドリ電力の代表を務める小野悠希さんを招いて、エコフレンドリーなアクションの広げ方を探っていくイベントを開催しました。本記事ではそのイベントの第一部の様子をレポートします。

スピーカープロフィール

小野悠希さん小野悠希さん(株式会社ボーダレス・ジャパン ハチドリ電力代表)
1995年兵庫県生まれ。大学2年生の夏休みに東南アジアを訪れたことがきっかけで、ソーシャルビジネスという世界を知る。その後複数の社会的企業でインターンを経験し、2018年に株式会社ボーダレス・ジャパンに新卒で入社。BORDERLESS LINK、iloitooの2社で2年の修行期間を経て、地球温暖化のために絶滅する動植物をなくしたいという思いからハチドリ電力の事業を立ち上げ。

地球温暖化の現状

小野さんがハチドリ電力を立ち上げた理由には、「気候危機を、自然エネルギーを使うことで解決していきたい」という想いがあったからだといいます。

では、私たちが今直面している気候危機とはどのような問題なのでしょうか?

小野さん

上の図は、気候変動に関するさまざまなデータを集めているアメリカ海洋大気庁(NOAA)が、約80万年におよぶ地球のCO2濃度を調査したもの。これを見ると、近年になって急激にCO2の濃度が上がっていることがわかります。これまではどんなに高くても300ppm程度が最高だったのに対し、2019年には409ppmm、2021年には414ppmと過去最高濃度を更新し続けています(※2)

なお、人間にとって快適なCO2濃度は280ppm程度だと言われているため、いかに現在の濃度が高くなっているかがわかるのではないでしょうか。

次に小野さんは、「IPCC第5次評価報告書」などについても説明。IPCCが20世紀末頃(1986年~2005年)と予測される21世紀末(2081年~2100年)の世界の平均気温を比較した結果、有効な温暖化対策をとらなかった場合は最大で4.8℃上昇、厳しい温暖化対策をとった場合でも最大で1.7℃上昇する可能性が示されています(※3)

このように切迫する気候危機に立ち向かうべく、世界はCO2の排出量をカットする目標を掲げました。具体的には、2030年に50%カット、2050年には実質的なCO2の排出量をゼロにすることを目指しています。小野さんは「この目標を達成できなければ、世界は取り返しのつかない状態になる」と話しました。

また、電気を生み出す手段も地球温暖化に大きく関わっているといいます。

日本で使われている電気の約7割は、火力発電によって賄われています(※4)。日本はこれまで火力発電に大きく依存してきたため、国全体で排出されるCO2の約4割は、電気の生産によるものとなっています。

小野さん

一方、日本で使われている電力のうち、自然エネルギーは約2割程度(※5)。小野さんはこうした現状を受けて、「日本の電気を自然エネルギーに切り替えていければ社会に大きなインパクトを与えられるのではないか」と考え、ハチドリ電力の創業を決めたといいます。

ハチドリ電力の挑戦

ハチドリ電力では、気候危機に立ち向かうためにさまざまな取り組みを実行しています。

たとえば、ハチドリ電力が提供しているエネルギーは、太陽光や風力など100%自然由来のもの。内訳は、太陽光発電が60%、風力発電が31%、小水力発電が9%です(2020年度)。また、ハチドリ電力の電力プランは100%自然エネルギーのプランのみ。このようにした理由について小野さんは、「私たちは地球温暖化を止めるためにこの事業を選びました。自然エネルギーを50%などにするよりも、すべて自然エネルギーでまかなう方が大きな社会的インパクトを与えられるため、プランをひとつに絞ることにしました」と話しました。

また、電気代の1%を「自然エネルギー基金」という自然エネルギーの発電所をつくるための取り組みに使用。それで得た資金をもとに、ハチドリ電力の最初の発電所を千葉県の匝瑳(そうさ)市に設置しました。

そうさ市

特徴的なのは、その発電方法。ハチドリ電力では、農地を太陽光発電に活用する「ソーラーシェアリング」と呼ばれる方法を実践しています。上の写真を見ると、農地に支柱を立て、その上に通常より細めのソーラーパネルが並べられているのがわかります。細めのソーラーパネルを使うことで、パネルの下にある農作物に悪影響が出ないようにしているそうです。

巨大なソーラーパネルを山地などに並べる従来の発電方法に比べて、規模の小さいソーラーシェアリングは発電効率が悪く、費用対効果に欠けるというデメリットがあります。このような指摘に対して、小野さんは「パネルの枚数を多めに設置するなど、ソーラーシェアリングでも黒字になるような設計にできます。経済性がベストでなくても、環境負荷が一番少ない方法を取っていきたいと思います」と述べました。

また、「人々の行動変容を促すためにどのような取り組みを行っているか?」という問いに対して、小野さんは、口コミが広がっていくような導線を引いて行動変容を促しているといいます。

ハチドリ電力明細

たとえば上の画像にあるように、CO2削減量や植林効果など、ハチドリ電力を使ったことによる地球環境への貢献度を明細書に明記したり、自然エネルギーを使っていることを示す「ハチドリステッカー」を作ったりしているそうです。

ハチドリ

ハチドリのひとしずく

イベントの中で「ハチドリのひとしずく」と題した動画が流されました。

「ハチドリのひとしずく」は、南アメリカの先住民に伝わるお話。

ある日、森が燃え、そこに住む動物たちは我先にと逃げ出しました。そんな中、「クリキンディ」というハチドリだけはくちばしで一滴ずつ水を火にかけていたのです。

ほかの動物たちは口々にこう言いました。「そんなことをして何になる?」

クリキンディは「私は、私にできることをしているだけ」と答えました。

動画は最後、次のようなメッセージで締めくくられました。

「あなたのひとしずくで、社会が動く。みんなのひとしずくで、世界が変わる。」

小野さんは「みんながクリキンディのように、一人ひとりができることをしていけば世界を変えていける」と力強く話しました。

第2部では「再エネシフト」を後押しする動機づくりやボーダレスグループの起業家精神・企業風土についてClimate Creative事務局とディスカッションし、第3部ではイベント参加者を交えたダイアログをしました。
第2部のクロストークのアーカイブ動画はClimate Creativeコミュニティ参加者のみのご覧いただけます。(コミュニティには主にイベントご参加の皆様をご招待しております。参加者募集中・過去のイベントはこちらから。)

今後もClimate Creativeでは、一人ひとりができることを模索し、実践していきます。

次回のClimate Creative企画にも、ぜひご期待ください!

※1 What Is Climate Change?-United Nation
※2 Climate Change: Atmospheric Carbon Dioxide-NOAA
※3 『気候変動2013 自然科学的根拠―政策決定者向け要約』p.18
※4 「今後の火力政策について」資源エネルギー庁 p.5
※5 「自然エネルギー2030年度目標に10年早く近接」自然エネルギー財団

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