「学校でのスマホ禁止」広がる。子どもとデジタルの程よい距離感を探る

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「学校へのスマートフォンの持ち込み禁止へ」。1月末にこんなニュースがスペイン・カタルーニャ州で注目を集めた。2024年1月30日、バルセロナなどを含むカタルーニャ州の教育省は学校におけるスマートフォンの使用に関する制限措置を承認したのだ。

9月から始まる新年度から、初等教育(6~12歳)の児童が個人所有デバイスを学校に持ち込むことを全面禁止する。中等教育(12~16歳)の生徒は、教育目的に限り学校側が許可した場合のみ使用可能で、その他の時間はデバイスの電源を切る必要がある。高等学校、職業訓練学校でも同様で、ルール違反が発覚した場合は端末が没収される。健康上の理由をはじめ例外的措置もあるが、基本的に学校内でのスマートフォンの使用は制限される形になる。

こうした学校におけるスマートフォンの使用に関する制限は、世界各国で広がりつつある。世界有数の教育先進国でもあるフィンランドは、OECD生徒の学習到達度調査での学力低下をきっかけに学校におけるスマートフォンの使用を制限。イギリスやアメリカの一部地域でも、その動きは広がっている。

Image via Pixabay

世界で広がる「学校でのスマホ禁止」の背景にあるもの

この動きの背景にあるのが、ユネスコ(UNESCO、国際連合教育科学文化機関)が2023年7月に発表した声明だ。例年発表している『グローバルエデュケーションモニタリングレポート2023』では、各国の教育とテクノロジーに関する適切なガバナンスと規制の欠如を強調され、その設計と使用方法について、基準を設定するよう求められている。

同レポートでは、テクノロジーが教育・学習リソースへのアクセスを向上させ、「教育のライフラインになる」というポジティブな面に触れている一方で、テクノロジーにアクセスできない人の排除、子どもたちのプライバシーに対するリスク、長時間のスクリーン利用によるメンタルヘルスへの悪影響など、見落とされているネガティブな面も指摘している。

実際、モバイルデバイスが近くにあるだけで、生徒の注意力が散漫になり、学習に悪影響を及ぼすことが14カ国の調査で明らかになっている。教員たちは、教室でのICT利用によって生徒のと集中力が下がると感じており、タブレットやスマホの使用は教室運営を妨げていると認識している。また、デジタル技術は教育への個別アプローチを増やす傾向があり、生徒たちが実生活の場でクラスメイトらと交流し、学習する機会を減らしてしまうという意見もある。

「デジタル革命には計り知れない可能性が秘められているが、社会における規制のあり方について警告の声があがっているように、教育における使用方法にも同様の注意が払われなければならない。利用は学習体験の向上や、生徒と教師の幸せのためでなければならず、彼らの不利益のためであってはならない。学習者のニーズを第一に考え、教師をサポートする。オンライン上のつながりは、人間同士の交流に代わるものではない」と、ユネスコのジェネラル・ディレクターAudrey Azoulay氏はコメントしている

子どもたちの居場所にもなりつつあるオンライン空間

一方、子どもたちにとってSNSをはじめとしたオンライン空間が“居場所”になっている点にも忘れてはならない。内閣府が昨年発表した『こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)』によると、インターネット空間(SNS、YouTubeやオンラインゲームなど)を居場所と感じている人は、10~14歳では、65.4%(※1)、15~19歳では68.7%(※2)と高い。また、不登校の子どもたちのメタバース登校が認められる学校が登場するなど、オンライン空間も子どもたちにとって重要であることがわかる。

実際、昨年12月に閣議決定された「こどもの居場所づくりに関する指針」には、下記のように明記されている。

こども・若者が過ごす場所・時間・人との関係性全てが、こども・若者にとっての居場所になり得る。物理的な「場」だけでなく、遊びや体験活動、オンライン空間といった多様な形態をとり得るものである。
その場や対象を居場所と感じるかどうかは、こども・若者本人が決めることであり、そこに行くかどうか、どう過ごすか、その場をどのようにしていきたいかなど、こども・若者が自ら決め、行動する姿勢など、こども・若者の主体性を大切にすることが求められる。

このように子どもとテクノロジーには、良い面と悪い面がある。そこで大切になるのは、子どものデジタルリテラシーの向上と、テクノロジーとの適切な距離感を保つことではないだろうか。刻一刻と進化していくデジタル技術には大きな可能性がある一方、多くのツールは教育への応用を目的として設計されていない。これらのテクノロジーが教育でどのように応用されるか、さらに異なる教育現場でどのように適用されるべきかについては十分な注意が払われていないため、学校でのスマホ禁止が進んでいるのだ。

デジタルデバイスの恩恵を受けながらも、オフラインでの人との交流の時間をしっかり取ったり、少し画面から離れて自然とつながったり、そんなバランスを見直すことが大事なのかもしれない。

※1 こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)第2部 調査結果の概要Ⅰ 第1章 10歳~14歳対象調査
※2 こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)第2部 調査結果の概要Ⅰ 第2章 15歳~39歳対象調査
【参照サイト】UNESCO issues urgent call for appropriate use of technology in education
【参照サイト】Ministers confirm plan to ban use of mobile phones in schools in England
【参照サイト】Finland to ban mobile phones in schools
【参照サイト】Catalunya: así es la regulación del móvil en las escuelas e institutos

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