「街のフルーツ、ご自由にどうぞ」ネスレの“果物マップ”が中米で栄養不足の解消へ

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街中を歩いていて、ふと木々に果実がなっていることに気づき「これは食べられるのかな」と思ったことはあるだろうか。しかし、実際に食べたという人は少ないはず。街路樹は自治体や道路管理者の所有するものであり、木の保護や安全面の懸念から、街路樹の果実を収穫して食べないよう呼びかける地域もあるのだ。

ところが、中米の国・パナマでは今、むしろ果物を食べるよう推奨されている。その理由は、「栄養不足」だ。中米では近所を歩くとすぐに果実のなる木が見つかるほど果樹が豊富だが、それらが収穫されず年間何トンも廃棄されている。その一方で、低所得層を中心に栄養不足が指摘され、「食材はあるのに栄養が届かない」というジレンマが起きているというのだ。

この構造的なギャップをどう埋めるか。その問いから生まれたのが、「Low Hanging Nutrients(手の届く栄養)」というプロジェクトだ。これはNestlé Central America(ネスレ中米)、Ogilvy Colombia(オグルヴィ・コロンビア)、パナマ市の官民連携によって実現した。プロジェクトは街中の未活用果樹を資源と捉え、位置情報をマップに可視化するデジタルプラットフォームを構築。市民はこのマップを通じて近隣の果物の木を見つけ、自由に果実を収穫することができる。

プラットフォームはNestléのレシピサイトとも連携しており、果物の栄養価や簡単なレシピを紹介。市民は収穫した果実を日々の家庭料理に活かしながら、栄養改善にもつなげられる。自然の恵みを廃棄せず、再び「誰もが手にできる食材」として人々に届ける仕組みだ。

この取り組みは自治体にもメリットがある。まず、パナマ市は果実の収穫や管理に直接リソースを割かずに済むため、コストを抑えつつ街路樹を管理できるのだ。さらに、市民が安心して参加できるよう、市長室が果樹の位置情報や安全性の確認を行っている。また、地元の著名シェフと協働し、SNSで果物を使ったレシピを発信。市民の参加を後押ししながら食育・健康促進にも寄与している。

Low Hanging Nutrientsは栄養改善、資源活用、地域経済活性という三重の効果を生んでいる。今後はパナマ市を前例に、他国への展開も視野に入れているそうだ。

栄養が足りない人と、食卓に並ばない食べものが、同じまちの中に存在する──そんな矛盾を解いたカギは、収穫の「許可」と自治体が担保する「安全性」を地図上で公に示したことにある。パナマ市の官民連携は、まちの中にある「見過ごされてきた資源」を見える化することで、栄養の届く循環を描き始めているのだ。

【参照サイト】Nestlé Central America Tackles Food Waste with ‘Low Hanging Nutrients’
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