【2022年最新版】各国の「脱プラスチック」の現状を徹底解説
各国の政府・企業が取り組みを進める「脱プラスチック」化。アメリカやEU諸国をはじめ、チリやバングラデシュ、ケニアやエチオピアなどの国々でも規制が始まっている。
日本では2022年4月にプラスチック新法(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)が施行され、コンビニや飲食店、ホテルなどさまざまな事業者が対応を求められている。
世界では、一体どのような取り組みが進められているのだろうか。本記事では、世界各国のプラスチックごみに対する方針や規制状況、現地企業による面白いソリューションをまとめてみた。
プラスチックごみは何が問題?4つのポイント
そもそも、プラスチックごみは何が問題なのかを改めて考えたい。
海に漂うビニール袋やストローなどのを魚や海鳥などが食べてしまうことによる生物への被害は、想像に難くないだろう。他にも、洗濯時などに発生するマイクロプラスチックが知らないうちに魚の体内に入り、最終的には人体に影響を及ぼすこともよく指摘されている。
しかし、環境への本当の影響を把握するには、プラスチック製品ができてから捨てられるまでのすべての工程を見ていくことが大切だ。ここでは、欧州環境庁(EEA)の報告書などで指摘されているプラスチックの問題点を、「採掘」「製造」「使用」「廃棄」という、4つのステップに分けてご紹介する。
1. 採掘の問題
プラスチックの99%以上は、石油やガスといった化石燃料資源からつくられたものだ。今後プラスチックの消費量が増え続ければ、2050年にはプラスチック産業が、世界の石油消費量の20%を占めると予測されている。
石油・ガスの採掘には、温室効果ガス(GHG)の排出が伴う。通常、この工程の中でタービンで天然ガスを燃焼させたり、ディーゼルの燃焼を行ったりするからだ。また、その過程で、窒素酸化物(NOx)や、硫黄酸化物(SOx)などの大気汚染物質も排出されることから、大気を汚すステップだともいえる。
2. 製造の問題
プラスチックの製造は、世界の化学製品の製造の約3分の1を占めている。これは、化学産業の中で最も大きな割合だ。化学産業は、製造業の中で最も多くのエネルギーを消費しており、鉄鋼、セメント、紙パルプといった業種より多い。
また、ここでも温室効果ガスの排出が課題になる。EUにおける、プラスチックの製造に伴うGHG排出量(石油精製および製品の製造における直接排出を指す)は、年間約1,340万トンだ。また、プラスチック製造時には、鉛、カドミウム、水銀などの有害金属が、空気中や水中に排出されている。
3. 使用の問題
ここでは、化学物質による、人の健康への影響が懸念されている。例えば難燃剤や、内分泌かく乱物質、フタル酸エステルなど、プラスチックに含まれるさまざまな化学物質へのばく露は、繁殖障害、行動障害、糖尿病や肥満、喘息、がんなど、さまざまな健康被害に繋がると指摘されている。
また、ポリエステルでできた服を着て日常生活を送っているだけで、20分で1gあたり最大400個のマイクロファイバーが空気中に放出されていることが明らかになっている。
4. 廃棄の問題
海洋プラスチックの80%以上は、漁業や漁船などの海で発生したものではなく、陸から発生して海に流出したもの。埋立地や道に捨てられたごみが風に吹かれたり雨に流されたりして、最終的に海に行き着くのだ。
プラスチックをリサイクルすると、化石燃料から同量のプラスチックを製造する場合と比べて、排出量をCO2換算で1.1~3トン削減できる。しかしリサイクルにはごみの回収、分別、加工が必要だ。世界では、多くのプラスチックが、複数の素材が混ざっているなどの理由により、回収後にリサイクルされず廃棄されている現状がある。
プラスチックのリサイクルは、焼却や埋め立てよりは好ましい方法だが、最も好ましいのは、ごみの排出を抑制することである。
▶︎ プラスチックの問題点についてもっと詳しく知りたい方はこちら:海洋プラ問題だけじゃない。資源採掘から廃棄に至るまでの、プラスチック問題とは?
世界のプラスチック問題への対策まとめ
IDEAS FOR GOODでも、これまでプラスチックごみの削減や規制に関するニュース記事を配信してきた。ここでは、国別の脱プラスチックの状況と、その国で取り組みが進んでいるアイデアをまとめている。
北米
アメリカ
アメリカでは、州や自治体ごとにプラスチックに対する規制が異なっており、国として足並みが揃っているわけではなかった。しかし2021年11月、米国環境保護庁(EPA)2030年に向けたリサイクル率50%達成のための「国家リサイクル戦略」を発表。国全体としてリサイクル可能な商品の増加や、リサイクル過程での環境負荷の軽減を目指している。
また、マクドナルドやスターバックスなどのグローバル企業やスタートアップのプラスチック問題への動きは活発だ。
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カナダ
カナダでは、2022年に特定使い捨てプラスチック禁止規制案を発表。同規制が施行されると10年間で2万3,000トン以上のプラスチック(ごみ袋100万枚に相当)の環境流出を防げると政府は推定している。
中南米
アルゼンチン
コロンビア
チリ
メキシコ
ヨーロッパ
EUでは、2019年に「使い捨てプラスチック流通禁止指令」が可決。2021年7月から、プラスチック製のカトラリーや皿、ストロー、その他の容器などを規制対象とし、廃棄物の発生削減を目指している。
アイルランド
イギリス
イギリスでは、王室もプラスチックの使用を禁止するなど、多くの団体が先駆的にプラスチック問題に取り組んでいる。2020年10月からは、プラ製のストローやマドラーなどの流通をイギリス環境・食糧・農村地域省(Defra)が禁じた。
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イタリア
イタリアでは、2020年1月1日より、マイクロプラスチックを含有する、洗い流せる化粧品の製造及びマーケティングを禁止。規制対象は、不水溶性5㎜以下のプラスチックを含有した製品だ。
オランダ
自転車大国であるオランダでは、世界初となる「プラスチックフリー」のスーパーができるなど、世界が注目する動きが見られる。
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スウェーデン
環境先進国スウェーデンは、2040年までに再生可能エネルギー100%を目指している。実際、電力の約50%が再生可能エネルギーから賄われている。
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スペイン
デンマーク
デンマークでは、政府がレジ袋の提供を禁止しているほか、デンマーク技術研究所と複数の民間企業が協力し、家庭から出るプラスチックごみを100%使用した新しい再生プラスチックボトルの開発などが進められている。
ドイツ
欧州の環境大国と呼ばれるドイツでは、2021年からプラスチック製のストローやカトラリー(スプーン・フォークなど)、カップ、綿棒などが禁止された。
ノルウェー
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フィンランド
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フランス
スーパーでの食料廃棄を法律で禁止するなど、環境分野において国家レベルで先駆的なアクションを取るフランス。2020年から「プラスチック製使い捨て容器や食器を禁止する法律」を施行することも決めた。
ベルギー
ポルトガル
ロシア
アジア
インド
21世紀中に世界一の人口になると予測されているインドは、世界で4番目にプラスチック汚染の原因となる国である。しかし、一部の州でプラスチックが禁止されるなど、世界のプラスチック禁止への流れを引っ張っている。
インドネシア
世界最大の島嶼国で海上投棄されたごみが流れ着く先でもあるのだが、「ごみをごみ箱に捨てる」という概念が成熟していないジレンマを抱えている。そんなインドネシアで、面白い取り組みがはじまっている。
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タイ
中国
台湾
フィリピン
マレーシア
オセアニア
ニュージーランド
中東
サウジアラビアでは、厚さ250ミクロン以下のポリエチレンまたはポリプロピレン(主に容器包装に用いられる)を使用した使い 捨てプラスチック製品の製造・輸入を禁止。さまざまな国で規制が進む。
アラブ首長国連邦
イスラエル
アフリカ
アフリカ大陸では、54カ国中の30カ国がプラスチック製のレジ袋の規制を行っている。
ガーナ
ケニア
ケニアでは2017年に、すでにプラスチック袋の製造・輸入・包装・使用を全面禁止。違反した場合には、約220万~440万円程度の罰金、または1~4年の懲役、もしくはその両方が科せられるという厳しい施策を取っている。
日本の脱プラの現状とは?
日本では、2022年にプラスチック新法(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律/プラスチック資源循環促進法)が施行された。この新法は、プラスチックごみの削減とリサイクルの促進を目的とするものだ。
▶︎プラスチック資源循環促進法、何が変わる?わかりやすく解説
事業者にとって今回最も大きく影響するのは、プラ新法概要の2番目にある「特定プラスチック使用製品の使用の合理化」である。これにより、コンビニやスーパー、ホテルといった提供事業者はプラスチック使用製品廃棄物の排出抑制のため、さまざまな取り組みを実施していくこととなった。
例えばスターバックスジャパンは、23品目のアイス飲料をプラスチックからFSC®認証の紙カップと、ストロー不要のリッドで4月16日から提供するようになったほか、フラペチーノのプラスチックストローもFSC認証紙ストローに切り替えた。
他にも、セブンイレブンは、4月1日よりバイオマス30%配合のスプーンとフォークを導入し、ホテルチェーンの運営を手掛ける日本ホテル(JR東日本)は2022年3月までに、国内のJR東日本ホテルズ加盟の56ホテル9,000室余で使用しているワンウェイプラスチック製品(ヘアブラシ、かみそり、シャワーキャップ、マドラー)をバイオマスプラスチックに切り替えた。
各社からの発表の中には、「脱プラスチックの実現には利用する側の協力も不可欠」との声もあった。
まとめ
プラスチックへの取り組みは、日本は決して遅れてはいるわけではない。
しかし、世界第3位のプラスチックの生産国であることや、一人当たりの容器包装プラスチックごみの発生量については、アメリカに次いで世界第2位であることを鑑みると、プラスチックがあまりにありふれた存在であることや、消費者の意識が追いついていないところがあることは確かだ。
世界には、さまざまな解決法が溢れている。さまざまなソリューションから学び、また日本からも画期的なソリューションをより多くの人が出していくことを願う。
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