クラフトビールで社会課題に挑む、世界のブルワリーの事例7選
世界で人気を博しているクラフトビール。大手企業が量産するビールとは違い、小規模で独立した醸造所が作っており、その地域性やオリジナリティがあふれているビールを指す。そんなクラフトビールが実は、気候変動や食品ロス、人種差別などの社会課題解決の手段となっていることはご存知だろうか。
本記事では、世界でクラフトビールを通した課題解決を行っている事例を厳選してご紹介する。
世界のクラフトビールによる課題解決の事例
01. オランダ:役目を終えたクリスマスツリーがビールに
オランダのLowlanderが、廃棄予定のクリスマスツリーを集めてビールを醸造する取り組みを行っている。通常、ヨーロッパではクリスマスに本物のモミの木を使っているので、毎年5,000万本のモミの木が伐採され、1月中旬から下旬ごろには廃棄されてしまう。本取り組みでは、オランダのバーやレストランで飾られ、捨てられるクリスマスツリツリーの葉を使って、ビールに微妙な味わいを加えるものだ。
02. デンマーク:寿司用の余剰米をリサイクルしたビール「Gohan Biiru」
日本食は、世界でも人気のある食の一つである。特に“スシレストラン”は、海外を旅していれば見かけることがあるだろう。今回、デンマーク工科大学の国立食品研究チームが、まさに“スシ”用の余った米をリサイクルしてビールに生まれ変わらせた。その名も「Gohan Biiru(ごはんビール)」。日本人にはとても親しみやすい名前で、何だかワクワクしてしまう。
03. ベトナム:チーズから出る食品ロス「ホエイ」を救済
ベトナムのレストランPizza 4P’sによる、「ホエイ(乳清)」の再利用プロジェクト。工場でのチーズ作りの原料は牛乳だが、実際にチーズになるのは牛乳の1割ほどで、残りの9割は捨てられており、実際同社のチーズ工房ではなんと毎日3,000リットルものホエイが排出されている。そんな中で生まれたのが、オリジナルクラフトビール「Dalat Whey Stout」だ。
04. イギリス:要らないCO2が、ビールに大変身
イギリス名物といえばパブである。2018年夏のはじめ、イギリスではビールに注入する泡に使うCO2が不足するという事態に陥った。原因は、副産物としてCO2を作り出していた化学工場が製造を停止したため。そこで救世主のように現れたのが、イギリス最大のバイオマス発電所を所有するドラックス社。同社は所有するバイオマス発電所から排出されるCO2をビール業界に提供していくために、炭素回収と貯蔵に取り組むパイロットプロジェクトをはじめることにしたのだ。
05. アメリカ:気候変動否定に抗議するビール「Make Earth Great Again」
アメリカのトランプ元大統領のパリ協定離脱に対し、ユニークな方法で抗議したのがスコットランド生まれのブルワリーBrewDog(ブリュードッグ)だ。BrewDogは気候変動の危機を伝えるビール「Make Earth Great Again」を発売。通常よりも高い温度で醸造されたセゾンビールで上がっていく気温をそれとなく伝え、ほかにも北極の氷が溶けた水や、温暖化によって数が減っているクラウドベリーなど、気候変動の影響をダイレクトに受けている地域からとれたものを使っている。
06. アメリカ:ビールが会話を促すメディアに。人種差別について考える黒ラベル
アメリカで黒人差別に対する反対運動が盛んになっている中、ニューヨークのブルワリーである「Finback Brewery」は、お酒を飲む人たちにBIPOC(黒人、先住民、有色人種)についての対話を深めてほしいとの願いから、「Breathing: Conversations(息をする、話をする)」という名前のビールを醸造した。ビール缶のラベルは黒色で、向かい合って話をしているように見える男女の横顔が印刷されている。
07. シンガポール:節水対策に。下水をアップサイクルしたビール
水資源の不足が課題であるシンガポールで登場したのは、なんと尿や生活排水などが流れる下水から作られるビール。思わず眉をひそめてしまう人も多いかもしれないが、なんと味の美味しさも評判という。シンガポールは、実は下水アップサイクルの先進国だったのだ。
まとめ
たまに飲む身近で美味しいクラフトビールが、実は世界規模の社会課題に取り組むためのツールになっている。今回はそんな事例をご紹介してみた。気候変動に対して声をあげたり、人種差別の問題に対して抗議活動をしたりと、直接的に声をあげることは社会を変えるうえで必要なことだが、もしそれができなかったとしても、ビールを飲んで応援することはできる。これらの事例がアクションのひと押しになることを願う。