ヨーロッパの大国であり、王室を愛するどこよりも伝統的な国。英国紳士は天気の話題を好み、午後にはアフタヌーンティーを嗜む。そんな多くの人が憧れずにはいられない英国だが、2016年のBrexit(EU脱退)が世界に与えるインパクトは良くも悪くも大きく、どちらかというと島国特有の排他的や保守的といった側面が強調されたのを感じる。
しかし、首都であるロンドンはそんなイメージから外れたイノベーティブな都市だ。人口の約半数が多国籍であり、スタートアップが立ち並ぶロンドンは国際社会において影響力も強い。今回は、そんなロンドンで生まれたソーシャルグッドなアイデアを紹介していこう。
環境にやさしいグリーンな街
01. コーヒーがエネルギー源のロンドンバス
紅茶のイメージが強い英国だが、ロンドンでは毎日2,000万杯のコーヒーが飲まれている。スタートアップ企業bio-beanは、毎年20万トン出るコーヒーかすを原料とするバイオ燃料B20を精製し、コーヒーごみの埋立時に排出される有害なメタンガスの発生を防いでいる。
02. 歩行を電力や通貨に変換する10mの路地
ロンドンのウエスト・エンドにあるバードストリートでは、人が道を歩くときに地面にかかる荷重を電力エネルギーへと変換するスマートテクノロジーを導入した。人が横切るたびに舗道が発電し、夜間には木々を照らすイルミネーションへと変わる。
そこでは大気中の窒素酸化物を除去するベンチの設置や、アプリを連動させて発電エネルギーを電子通貨に変えるなど、ほかにも先進的な取り組みが行われている。
要らないものを簡単に廃棄しない社会へ
03. 生後3ヶ月から3歳まで着られる子供服「Petit Pil」
「Petit Pil」は、子供の成長に合わせて生地が伸びる洋服だ。日本の折り紙から着想を得て作られたこの服は、軽量ながら耐久性をしっかりと兼ね揃えている。子供が大きくなるたびに服を買い替えなくてはいけないという固定観念を壊すサステナブルなアイデアだ。
04. コーヒーカップを再生可能にするキャンペーン
寒い冬はホットドリンクの消費が増えるにつれて、使い捨て紙コップの廃棄も増えていく。そんな現状を改善するキャンペーンが「#SquareMileChallenge」だ。スターバックスを含む100以上のコーヒーショップが共通のカップを提供し、飲んだあとは街のいたるところに設置された目立つ黄色のごみ箱に入れることでリサイクルできる工夫だ。
05. 食糧廃棄を減らすブルワリー「TOAST」
ロンドンのブルワリー「TOAST」は、世界の食糧廃棄のなかでも大部分をしめるパンを原料にビールを作り出した。廃棄予定のパンと大麦麦芽やホップ、酵母などを組み合わせてラガーやエールビールを作ることで、大幅な廃棄削減を実現している。販売で得た収益は、食糧廃棄削減に取り組むNPOに全額寄付される。
ジェンダーにも多様性を
06. 地下鉄のアナウンスで「紳士・淑女」と言わない理由
英国はもはや紳士と淑女だけの国ではない。そう思わせるのが、ロンドン地下鉄のアナウンスの変更だ。伝統的な「Ladies and Gentleman」ではなく「Good afternoon, everyone」と公共交通機関が呼びかけることで、男女の概念にとらわれず多様なジェンダーコミュニティがより住みやすいと感じられる街になるのではないか。
人々の安全を支えるテクノロジー
07. 互いに気付きあうデジタル横断歩道「Starling Crossing」
交通安全のためには、車だけでなく歩行者やサイクリストもお互いを思いやることが大切だ。「Starling Crossing」は、そんなすべての道路利用者の動きにリアルタイムに反応するデジタル横断歩道である。歩行者の横断スピードや車の死角などに合わせてレイアウトや色、方向などが自由自在に変わり、全員にとって最も安全に通行できる仕組みだ。
街をめいっぱい楽しむアイデア
08. 地方創生に貢献する水上ホテル「Good Hotel」
「Good Hotel」は、”PREMIUM HOSPITALITY WITH A CAUSE(最高のおもてなしを大義とともに)”という社会貢献をコンセプトにした水上ホテルだ。地元の失業者が対象の雇用創出や、必要な資源をエシカルな地元企業から調達する地域経済の活性化、そしてゲストの宿泊による慈善団体への寄付という3つのソーシャルグッドな役割を果たしている。
09. エシカルスポットを紹介するシティガイド「GoTiLo」
ロンドン市内のオンラインガイド「GOTiLo」は、利用することで社会や環境に還元できるスポットを紹介してくれる。たとえば慈善活動のためにファンドレイジングを行うレストランや、持続可能社会のためのデザインを追求するパーマカルチャークラブなどだ。雑多な情報があふれているなかで、少しでも社会のためになる行動をする指針となるだろう。
10. 散歩で人との対話を生むコミュニティアプリ「Go Jauntly」
運動不足を解消するためにウォーキングをはじめたが、なかなか続かない。そんな多くの人の悩みを解消するのが、人との交流を促進するアプリ「Go Jauntly」だ。利用者がおすすめのウォーキングコースを写真つきで他の人と共有し、時にはそこで出会った仲間と共に歩いたりできる。さらに大気汚染の状況もリアルタイムで届くため、散歩に持っていくのに最適なアプリだ。
まとめ
経済や環境、文化などを包括した世界の都市総合力ランキングで6年連続1位に輝くロンドン。世界中から人が集まるハブとなっているこの地では、今日もさまざまな革新的なプロジェクトが誕生している。その多くは国籍やジェンダーの多様性を強く感じさせるメッセージを含んだものだ。イギリス国内の他の地域と比べて、Brexitへの反対票が多かったことにも納得がいく。
昔から英国に住む多くの人が伝統を重んじていることは、今でもきっと変わらないだろう。その文化は同じ島国である日本に通じるところがあり、共感もできる。しかし、オープンな国際都市としてのロンドンには、魅力を感じずにいられない。
【参照サイト】世界の都市総合力ランキング(GPCI)