今、世界では都市に暮らす人々の人口が急速に増加している。国連の予測によると、世界の都市人口は2030年には全人口の60%にあたる約51億人に達し、2050年には66%にあたる約63億人に増加するという。実に世界の3人に2人が都市に暮らす時代はもうすぐそこまで来ている。
都市への人口集中に伴い、大気汚染や衛生リスクの向上、食糧供給など様々な課題も顕在化しているが、その中でも特に大きな問題の一つが「交通」に関わる問題だ。IDEAS FOR GOODでは、この都市における交通問題を解消し、より持続可能な都市交通インフラを実現するためのアイデアを今年も数多くご紹介してきたが、本日はその中から特にユニークな10の事例を取り上げたい。
交通事故を防ぐアイデア
WHOの調査によれば、世界では毎年120万人以上が交通事故により尊い命を落としている。しかし、自動車という便利な移動手段の登場がもたらした負の側面は、テクノロジーの力によって徐々に解決の方向へと進んでいる。
01. 歩くスピードに応じて青信号の時間を調整できるアプリ
オランダの輸送テクノロジー会社、Dynniqが開発したアプリ「Crosswalk」は、ゆっくりしか歩くことができない高齢者が、自身の歩くスピードに応じて横断歩道の青信号の時間をコントロールできるというアプリだ。高齢者はこのアプリを使えば横断歩道を渡り切るのに十分な時間を確保することができる。
02. 最も安全なルートを教えてくれるカーナビ
フランスの保険会社Groupamaは、目的地にたどり着くまでの「最短ルート」だけではなく、「最も安全なルート」を教えてくれるカーナビを開発した。政府が公表している過去の交通事故の発生回数データを基に、安全なルートを提示してくれる。
03. 安全運転をしたほうが「カッコよく」見られるアプリ
トヨタが開発した「Safe and Sound」と呼ばれるこのアプリは、Google Maps APIの技術を用いて運転スピードを判断し、スピードを出しすぎると、ドライバーの両親が選曲したプレイリストが流れるというアプリだ。若者は自分たちが聞きたい「イマドキ」の曲を聞くためにはスピードを抑えて安全運転をし続けるしかない。恋人や同乗者から「カッコよく」見られたいという若者の自意識を逆手に取ったユニークなアイデアだ。
04. アイスランドに登場した、立体に見える横断歩道
アイスランドの小さな町イーサフィヨルズゥルに登場したのは、トリックアートを用いた立体に見える横断歩道だ。歩行者から見るとただの横断歩道だが、自動車のドライバーの目線から見ると横断歩道が浮き上がって見えるようにすることで、思わず横断歩道の前でブレーキを踏んでしまうという仕掛けだ。横断歩道のデザイン一つでも交通事故は防げる可能性があるということを教えてくれる。
自転車移動を快適にするアイデア
最近では世界中の都市で交通渋滞や大気汚染対策の一環として自転車による移動が奨励されている。自動車よりエコな移動手段である自転車をより快適に利用できるよう、世界ではユニークな取り組みが始まっている。
05. デンマークに導入された、自転車渋滞を防ぐための電子標識
環境先進国のデンマークでは既に自動車ではなく自転車による通勤が一般化しているが、逆に自転車利用者が増えたことで自転車渋滞が発生するという新たな課題に直面している。その解決策として考えられたのが、混んでいないルートを教えてくれる自転車用の電子交通標識だ。この標識は、道路工事や特別なイベント、目的地までの距離、渋滞具合などを教えてくれ、さらに他のより混雑していないルートも提案してくれる。
06. オランダ発、赤信号のタイミングを事前に教えてくれるマシン
オランダ発では、自転車通勤をする人々のストレスを軽減するために、「Flo」と呼ばれるユニークなシステムが作られた。道端に設置されたFloというマシンは、自転車で通勤する人々が赤信号に捕まらないよう、事前に適した走行速度を電子標識で知らせてくれる。
電気自動車を普及させるアイデア
自動車が環境にもたらす悪影響を減らすうえで、電気自動車の普及は欠かせない。しかし、電気自動車にはバッテリーの問題など交通インフラとして克服しなければいけない課題がいくつかある。この課題を乗り越えるべく、世界ではユニークな取り組みが始まっている。
07. イスラエル発、電気自動車が走りながらワイヤレス充電できる道路
イスラエルのスタートアップ、Electroadが開発を進めているのは、電気自動車が走行しながらワイヤレスで充電できる革新的な道路だ。道路の中央部分に埋め込んだ電磁コイルと自動車の底部に設置したコイルとの間に電磁誘導を引き起こすことで、道路からワイヤレスに電気自動車を充電する。道路を通じて異なる車両間で電力のシェアもできるという。
08. ベルリンで広まる電気スクーターのシェアリング
電気自動車の充電スタンドが少ない問題を、シェアリングエコノミーのモデルで解決しているのが、ドイツのベルリンで電気スクーターのシェアリングサービスを展開している「COUP」だ。COUPのサービスではバッテリー補充をCOUPが行うため、利用者はすぐにスクーターに乗車でき、利用後にバッテリーを補充する必要もない。また、COUPの利用区域内であれば、どこでも乗り捨て可能となっている。この電気スクーターシェアリングは、日本の石垣島でもプロジェクトが始まっている。
次世代の移動インフラ
自転車でも電気自動車でもなく、新たな移動手段の開発を通じてよりエコな交通インフラを構築しようという試みもある。
09. セーヌ川を走る、空飛ぶ水上タクシー「SeaBubbles」
大気汚染が深刻化しているフランスのパリでは、セーヌ川を走行する環境に優しい水上タクシー「SeaBubbles」が誕生した。SeaBubblesは自動車よりも排気量が少ないだけではなく、すでに街中を流れる川を使うため、新たにインフラを整備する必要もない。また、80~100 km で走っても静かなため、騒音公害も引き起こさないというエコな乗り物だ。
10. 世界初となる空飛ぶ自動車「エアロモービル」
スロバキアのエアロモービル社が今年の4月に披露したのは、なんと一台で自動車と飛行機の両方が運転できるという空飛ぶ自動車だ。路上での最高速度は時速160kmで、一度の最長走行距離は500km、空中ではさらに速く最高速度は時速200kmで一度の最長飛行距離は約700kmだという。交通渋滞を解消し、door to doorの移動を実現してくれる、まさに未来の交通インフラだ。
まとめ
いかがだろうか?多くの人が都市で快適に暮らすためには、便利かつ安全で、環境にも優しい持続可能な交通インフラの整備は欠かせない。自転車の利用、電気自動車の普及、次世代モビリティの開発などその手段は様々だが、これらのイノベーションが重なり合うことで、新たな都市の未来は形作られる。IDEAS FOR GOODでは今後も世界中のソーシャルグッドな交通インフラづくりに注目していきたい。