バルト三国の一角で強大なロシアとも国境を接しており、人口わずか134万人の国、エストニア。そんな小国が生き残りをかけて取り組んでいるのが、テクノロジー推進政策だ。国家として独自の仮想通貨を発行し、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)を実施することを計画しているなど革新的な政策で知られるこのIT先進国には、日本からも視察団が赴くほどだ。
そんなエストニアで、また新しいプロジェクトが始まろうとしている。エストニアの電力エネルギー供給を担うElering社と、ブロックチェーンを活用したPeer to Peerの再生可能エネルギー取引プラットフォームの開発を目指しているWePower社は1月初旬、共同でエストニアのエネルギーデータを大規模にトークン化する試験プロジェクトを行うと発表したのだ。
このプロジェクトでは、匿名化されたエネルギーデータとブロックチェーンを活用することで将来のエネルギー取引をどのように持続可能なシステムにできるのかを、ヨーロッパで初めて大規模にシミュレーションする。実現すれば、ヨーロッパの再生可能エネルギー事業者をエストニアの先進的なスマートグリッドにつなげる第一歩となる。
WePowerは自社のブロックチェーンとスマートコントラクトに基づく再生可能エネルギー取引プラットフォームをEleringが保有するデータ交換プラットフォーム「Estfeed」に統合し、エストニア国内のエネルギーデータを大規模にトークン化するという壮大なアイデアの実現可能性を検証する。実証実験の場としてエストニアが選ばれたのは、同国には既に100%スマートメーターでデータ管理されているスマートグリッドインフラがあるからだ。
ブロックチェーンを活用してエネルギーデータをトークン化し、Peer to Peerで再生可能エネルギーを取引できるようになれば、消費者は電力会社を介さないぶん持続可能な電力をさらに安く購入することができる。また、再生可能エネルギー事業者はトークン発行による資金調達を通じて初期投資リスクを抑えることができるため、より小規模な事業者も参入しやすくなる。
Elering社のCEO、Taavi Veskimägi氏は「当社がこのプロジェクトを推進するのは、閉鎖的な市場の障壁を取り除いてエネルギー革新を可能にするためです。そのために、人々が新しいサービスプロバイダーとエネルギー計量データを共有できるEstfeedデータ交換プラットフォームを構築しました。」と述べる。
そして、WePowerの共同設立者兼CEOのNick Martyniuk氏は「これはスマートグリッドをより持続可能にするという目標の第一歩です。エストニアは今回のようにテクノロジーを統合できる先進的なスマートグリッドインフラをすでに備えているため、エネルギー革新を始める国として完璧だ。」と語る。
今回はエストニア国内における実証実験だが、WePowerの構想は当然ながらエストニアだけにとどまらない。将来的にはこの分散型の再生可能エネルギー取引プラットフォームを世界中に広げ、誰もが自由にクリーンな電力を買ったり売ったりすることができる世界を実現するつもりだ。IT先進国のエストニアとWePowerという掛け合わせがどのように持続可能なエネルギーの未来を形作っていくのか。今後の取り組みに期待したい。