【コラム】国境に壁のプロトタイプを建てたトランプ大統領は芸術家なのか?

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アメリカのドナルド・トランプ大統領は、2016年の大統領選でアメリカとメキシコを隔てる壁を建設することを宣言した。そして2017年1月、国土安全保障省に、ただちにプランを練り国境線に沿って壁を建設するよう指示を出す。これに対し2017年3月、アメリカ合衆国税関・国境警備局が、壁のプロトタイプをいくつか建設することを提案した。

その後アメリカ合衆国税関・国境警備局は6社にプロトタイプの建設を依頼し、メキシコとの国境にほど近いサンディエゴに計8枚の壁が建った。建設の開始から完成までにかかった日数は30日。当局は高さ約9.1mのこれらのプロトタイプの様子を見ながら、最終的にはアメリカとメキシコを隔てる2,000マイルの壁の建設を目指す。

8枚の壁はコンクリート製の場合もあればそうでない場合もあり、異なる会社が建設したからかデザインもバラバラだ。それらの巨大な壁が一列になって整然と並んでいると、何かの現代アートに見えなくもない。

その様子に着目したスイスのアーティストChristoph Büchel氏は、8枚の壁をアメリカの遺跡保存法に基づき、ナショナル・モニュメントとして指定するプロジェクトを提案している。現在オンラインで署名を集めており、目標の400人まであと130人ほどだ。それと同時にプロトタイプを見学するツアーを開催し、英語及びスペイン語でのガイダンスも付けている。こちらもチケットが売り切れるほど人気で、今後も新たにツアーを組む可能性が高い。

このようなプロジェクトを行う動機は何だろうか。Büchel氏は「私はアーティストですが、この壁の製作者ではありません」と語り、建設の指示を出したトランプ大統領をアーティストと呼んだ。プロトタイプを保存することで、こういう壁を建てる案が存在したことを後世の人々に伝える効果があるとBüchelは考えている。

同時代を生きる人間からすれば、論争の的となっている建造物を後世に伝えるべきアートないし遺跡として扱うのは、突拍子もないことに思えるかもしれない。しかし世界遺産に指定されているストーンヘンジの例があるように、のちの時代から見たときに神秘性を帯びる場合もある。その時代でなければ存在し得ない空気を表現することも芸術の役割だとすれば、なるほどトランプ大統領は政治的緊張感を表現する芸術家なのかもしれない。

【参照サイト】PROTOTYPES