紛争や自然災害により、毎年何千もの人たちが帰る場所を失っている。そんな人たちに画期的なアイディアで救いの手を差し伸べたのが、米カルフォルニアに本部を置く非営利団体Cal-Earthだ。彼らは「SuperAdobe(スーパーアドビ)」と呼ばれる建築技術を使って、世界で1,000軒以上の緊急避難所や仮設住宅を提供している。
イラン出身の建築家ネーダー・ハリーリ氏が考案し、日本でもアースバッグ工法として知られているスーパーアドビは、あらゆる自然環境・自然災害に順応可能で、何百年にもわたり持続可能だという。しかも、土や水といったごくシンプルな材料のみを使って簡単に建てられるというのだから驚きだ。
スーパーアドビのハウスはドーム型で、まるでSF映画から出てきたような不思議な外観をしている。家のどの部分も非常に耐久性が高いことが特徴だ。過酷な環境から逃れてきた人々にとって、丈夫で安全な家があるということは、何よりも重要なポイントである。
耐久性の秘密は、その建築方法にある。まずは袋に湿った砂を詰めた土嚢を壁状に積み上げる。土嚢をしっかりと圧迫したら有刺鉄線を使って留め合わせ、上から粘土やセメントなどで固めたら完成だ。土を押し固めることで、強度の確保と洪水対策を同時に行う。さらに、窓以外は外界から遮断されるので、火事のときにも安心だ。
とてもシンプルな構造なので、住居以外にも貯蔵庫やダムを作るのに応用できる。必要なのは、土と水、土を入れる袋、有刺鉄線、そしてシャベルだけ。それさえあれば、どこでも誰でも、気軽に建てられてしまうのがスーパーアドビハウスのすごいところだ。
Cal-Earthの創設者でもあるハリーリ氏のアイデアは、意外なところから生まれた。NASAで「人類火星移住計画」の立案に携わっていた彼は、当時研究していた「火星と言う過酷な環境で人類が生き延びる術」を、まずは地球上で実証できないか考えたのだ。限られた資源だけを使い、効率と機能性を最大限に高めた建築とは?そんなハリーリ氏の探究の賜物がスーパーアドビハウスである。
ハリーリ氏の息子であり、現在団体の代表を務めるダスタン氏の言葉を借りれば、スーパーアドビは「火事にも、ハリケーンにも、竜巻にも、地震にも耐えうる」まさにスーパーハウスだ。同建築が、昨年12月に発生したカルフォルニアの山火事でも、2015年のネパール大地震でも、崩壊せずに生き残ったと言う事実が、何よりもそれを証明している。 さらに、年月が建ち、かかる重力が大きくなるにつれて建物の強度が増してくるという特徴も持つ。
暑さと寒さの両方を遮断しつつ、通気性を持つ壁が天然のエアコン効果をはたしてくれる。水道や電気も設置可能で、家の広さもいくらでも拡張できる。米カリフォルニア州のスーパーアドビハウスでは、Airbnbを利用した短期滞在も受け入れているようだ。
SF映画に出てくるような近未来的な建築が、土や水といった、人類が大昔から親しんできた材料だけを使って建てられていることはとても興味深い。いま私たちが直面している問題の解決のためのヒントは、実は太古より伝わるシンプルな知恵の中に隠されているのかもしれない。